兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 院長ブログ

院長ブログ

犬用11種混合ワクチンが出ました

もう1ヶ月前になりますが。京都市の微生物化学研究所(京都微研)から犬用の11種混合ワクチンが発売されました。

 

グリーンピース動物病院は、早速問屋さんから購入しまして。まず自分の犬たちに接種してみて。それから従来9種混合ワクチンを接種していた患者さんが来院された時に、新しいワクチンの話しをするようにして、希望される方には9種と同価格で11種混合を接種し、その経過とか見てました。

今のところ10数例と少ないですけれども、異常な接種反応は観察されていません。医薬品ですから国の承認を取って発売する前に厳しい安全審査があって、それをクリヤーして来ていますから、安全は当然のことであります。

さて、この11種ワクチンの特徴はと言えば。

従来の9種混合ワクチンと比べると、レプトスピラという細菌性の伝染病の血清型が2種追加されているということです。

追加された血清型は、レプトスピラ・オータムナリスとレプトスピラ・オーストラリスという型でありまして。
従来9種に混合されていた、レプトスピラ・イクテロヘモラジー、レプトスピラ・カニコーラ、レプトスピラ・ヘブドマティスの3種類の血清型と共に我が国で発生しているレプトスピラの多くを占める型であります。

レプトスピラ病は、ネズミ等のげっ歯類がベクター(病原体を保毒して媒介源になること)となって、その尿に汚染された溜まり水や湿った泥が、犬の眼や鼻、口、傷口に付着することにより病原体に感染し。肝臓や腎臓に炎症を起こします。重症例では死に至ることが普通でして。怖ろしいことに人間にも感染する人獣共通感染症でもあります。

レプトスピラ菌の大きな特徴は、高温多湿を好み、低温乾燥に弱いということです。つまり、気候冷涼なヨーロッパとか米国中北部ではそんなに重要な感染症ではないということです。

一方、我が国の場合。特に初夏から秋にかけては降雨量も多く気温も高く、まさにレプトスピラ菌の好む高温多湿状態であり。アウトドアでの行動機会の多い犬たちにとっては非常に危険な病気なのであります。

しかし、先に書いたように、米国や欧州ではそんなに重要な感染症ではないということから、これらの国から輸入される犬用ワクチンに入っているレプトスピラワクチンには、血清型としてレプトスピラ・クテロヘモラジーとレプトスピラ・カニコーラの二つの型しか入っていないのが普通でして。犬の輸入ワクチンは必ずしも我が国の伝染病発生の実情に対応したものではないのです。

先般、さる米国のメーカーの、レプトスピラが4種?くらい混合されていますというワクチンが新たに輸入販売されたようですが。レプトスピラの流行する血清型には地域によって特異性があるのでしょう。聴いたことの無い血清型が混合されていて、我が国の状況には全く対応不可であると判断させていただいたような次第であります。

今回の11種ワクチンの発売により、我が国の犬たちのレプトスピラ感染が激減することと期待しているところであります。

グリーンピース動物病院では、子犬の予防接種については3回目に、成犬では年に1回の追加接種の際に、従来の9種混合ワクチンから徐々にこの11種混合ワクチンに切り替えて行く予定であります。

なお、料金については仕入れ価格は9種よりも高いのではありますが、企業努力により11種については従来の9種と同価格で接種するように致します。

 

 

ヨークシャーテリアの乳腺腫瘍摘出術

この夏は本当に暑かったです。ブログの更新をサボっていたのは暑さのせいでもないのでしょうが。
仕事はいつものペースで淡々とこなしておりまして。

夏の終わり頃にはチワワちゃんのブドウ中毒による腎不全を診察したり、それなりにネタは無いわけではなかったのですが。
とにかく執筆意欲が湧きませんで。

診療内容については、随分長い間の放置になってしまいました。

今日は今日とて。高齢ヨークシャーテリアの乳腺腫瘍摘出手術がありまして。手術の後外来が全くと言って良いほど来ませんので、何とかパソコンに向かっております。

この乳腺腫瘍は、発見が4年半前だということで。最初に診てもらった獣医さんは、放置してても大丈夫だと言い切って何にもしてくれなかったそうです。

次に転院した先では、手術は必要だが、今はワンちゃんの体調が悪くてタイミング的に出来ないということを言い続けて。結局発見から4年半も放置されたままで。腫瘍のサイズも随分大きくなってしまってました。

この飼い主さんのお父さんは、亡くなる前はアマチュアカメラマンとしてビデオ撮影とか撮影した動画のマスコミ投稿とか熱心にされておられてまして。私がエアデールテリアを飼育し。訓練や繁殖を行なっていた頃に。縁あって犬のビデオ撮影や編集を依頼したことがあったのです。

その縁もあり。ワンちゃんが乳腺腫瘍で困った状態になった時に、お父上と私の縁を想い出されて、遠く阪神間の街から神戸を越えて加古川まで来院されたということでした。

来院されたその日に手術の話しをして。同意を得たので。術前検査として院内の血液検査。血液凝固系検査の外注。胸部腹部のエックス線検査。コンピュータ解析装置付き心電図検査をきちんとやりまして。

本日朝からお預かりして午前中は静脈輸液を実施してコンディションを整えて。
午後から全身麻酔をかけて。左乳腺は全摘出をして。右乳腺は第3から第5まで摘出し。併せて卵巣子宮全摘出までやりました。

切り取った乳腺は病理検査に出しました。

ワンコは麻酔からの覚醒もスムーズで、状態すこぶる良いので、当日退院して帰っていただきました。

きちんとやればどうってことない手術なのですが。この子の場合、必要な時に必要な治療を速やかに行なってなかったことが問題だったと思います。
摘出した腫瘍が悪性だった場合。そのサイズが大きければ大きいほど転移の可能性が高いというのが定説となっているそうですし。

今回ちゃんと摘出手術をやりましたので。後は病理の結果が悪性でない事を祈りますし。仮に悪性であっても転移してないことを祈っております。

ではまた。

 

グリーンピースわんにゃん訪問隊活動

第4金曜日になりましたので、表記のボランティア活動に参加して参りました。

今日は訪問ボランティアさんの人数が少なくてやや寂しかったのですが。
触れ合いの時間中は笑顔があふれていました。

 暑い夏も終わり、実り豊かな秋がやって来ました。大型台風が来たりして大変ではありますが。この秋が総ての人に幸せな秋でありますように。

 

カルガモを放鳥

最近ずっとブログを放置しています。書くネタはそれなりにあるのですが。精神的に疲れていて?こんなことになってしまっています。

数日前に傷病野生鳥獣として保護していたカルガモを放鳥しました。

1ヶ月以上前に付近に池も川も無い県道沿いの住人が、「道を歩いていて自動車に轢かれそうだ。」ということで、カルガモの雛が持ち込まれたのです。

若干疲労と飢えで衰弱気味でしたが、動物看護師さんのお世話を受けると元気回復し。鶏用配合飼料を食べて日々成長して来ました。

ここ最近、ぐっと大人びて来まして。飛べるようになりましたので。放鳥することにしたわけです。

鴨が多いことで近所では有名な池まで連れて行きました。当日は鴨は見当たらず。アヒルが池に浮かんでいました。

プラスチックケージに入れて連れて来たカルガモを自由にしてやります。

すぐに池に入って泳いでました。

野生のカルガモに出合えて、受け入れてもらえるのかどうか?食べ物を自分で見つけることが出来るのかどうか?すぐに鷹や狐などの肉食鳥獣の餌食になってしまわないだろうか?

いろいろ思うこともありますが。一応放鳥することが出来ました。

動物病院スタッフさんたちに感謝です。

野生鳥獣救急指定動物病院

2020年8月14日現在。グリーンピース動物病院は兵庫県野生鳥獣救急指定病院を辞退していまして。現在は加古川動物病院など別の動物病院がその任を負って頑張っておられますので、野生鳥獣を保護されて困っておられる方はそちらに連絡されますようお願いいたします。

この記事は2013年7月22日の時点のものでありますので、そのようにご理解いただきますようお願い申し上げます。

 

 

実は、兵庫県の制度で、私たちのような民間の動物病院を、兵庫県野生鳥獣救急指定動物病院として活用しようという仕組みがあります。

グリーンピース動物病院も、一応社会貢献の一助になるべく、名乗りを上げて指定されておりまして。時々市民の方が持ち込んで来る野生鳥獣の治療や再放鳥獣を行なっております。

しかし、社会が野生鳥獣を保護管理するのに、これで良いのか?と疑問に思うことも再々です。

一次診療としての救急指定動物病院制度は、それはそれで良いことなのかも知れませんが。

鳥獣が野生復帰を果たすために、全県単位でとりあえずの怪我が治った鳥獣を野生復帰に持って行くまでのリハビリ施設とかが必要なんじゃないか?と常々感じております。

最近持ち込まれた動物は、ツバメの雛、コウモリ、カルガモの雛くらいでしょうか?

ツバメの雛は、1ヶ月以上ミルワームを給餌して育てて、ツバメが居る公園に放鳥しました。

でも、放鳥されたツバメは、自力で食べ物を摂ることが出来るのか?外敵から逃げおおせることが出来るのか?

はなはだ疑問を感じながらの放鳥でした。

野生の鳥の雛については、日本野鳥の会が雛を拾わないように一般の人に周知するためのキャンペーンを行なっておりますが。巣立ち直後の雛を、善意に基づく行為とはいえ、無知によって「拉致」してしまう人が多いようです。

今回のツバメも巣立ち直後で、親鳥が何処かで心配して見守っていたのだと思うのですが。保護した人は、周囲に親鳥も居ないし、駐車場で車に轢かれそうだったからと言って、強引に加古川農林事務所に持ち込んだのを、農林事務所も困ってグリーンピース動物病院に連れて来たということでした。

最近も、「ツバメの雛が飛べなくって、困っているようです。そちらに連れて行って良いでしょうか?」という電話連絡があったので。「そのツバメの雛は、巣立ち直後で、親鳥が近くで心配して見守っていますし。親鳥が食べ物を食べさせていますから、貴方が「拉致」さえしなければ無事に成長して行く可能性が高いと思います。それと、いったん人間の手に落ちた野鳥の雛は、野生に戻しても食べ物を探したり、外敵から身を守ったりという教育を受けることが出来ないので、生き延びて子孫を残すところまで行けるかどうか?怪しいですよ。」とお返事したところです。

コウモリは、正確な種類は判りかねましたが。飼いネコが捕まえて遊んでいたのを、猫の飼い主が保護したものでした。

猫の口には、出血性敗血症菌という怖ろしい細菌が常在していて、その菌によって死んでしまう可能性があると判断し。抗菌剤を数日投与しながら、犬猫用の流動食を強制的に食べさせて。元気が回復したよう?なので再放獣しました。

コウモリの場合、元気か?弱っているか?判定が困難でした。何せ何にも表現してくれません。

最後のカルガモの雛は、交通頻繁な市街地の道路で彷徨っているのを保護されたのですが。近くに川も池も無いような道路で、親からもはぐれて、どうしてカルガモの雛が居たのか?不思議です。

もしかして、誰かが飼ってた?

とにかく飛べるようになるまで育てた上で、放鳥することにしました。食べ物は鶏の飼料を使いますが。ボレー粉も添加してカルシウム不足にならないように注意します。

最初から普通に食事を摂って、水もちゃんと飲んで。元気に育っています。

最近たらいをプール代わりにして水浴を楽しめるようになって来ました。

体重も順調に増えて、保護された時には240グラムだった体重も約2週間で440グラムにまで増体しております。

しかし、この鴨、野生復帰出来るでしょうか?

行く末が案じられます。

野生鳥獣救急指定動物病院とは言え、最近県からの通知で、農業被害の著しい猪や鹿、アライグマ、ヌートリア のような特定外来生物は傷病救護の対象から除外するということらしいです。

人間と自然との関わりは、難しいですよね。

過去に、青大将に食べられそうで可哀相だということで、野兎の子を連れて来られた方が居ましたが。食べ物を取り上げられた青大将は可哀相ではないのでしょうか?

見た目で差別するのもどうか?と思います。

あるいは、昔見たアフリカのドキュメンタリー番組で、溺れそうになっているヌーの子供を助けようとした取材班に、「安易に野生に介在しないように。」と制止をかけた現地のレンジャーの考え方が、一見残酷なように見えても最も健全なのかも知れません。

でも、考えようによっては、それも人間の手のほとんど入っていない大自然の中でこそ言えることで、我が国の市街地や里山のように、人間の活動が環境形成に大きな影響を与えている地域の場合にまであてはまるのかどうか?

考え始めたらきりがなくなります。

2016年10月25日追記です。

兵庫県野生動物救急指定動物病院についてですが。 近くで大勢の獣医師を雇用して頑張っている動物病院が、最近は名乗りを上げて受け入れてくれるようになりましたので。 元々少ないスタッフで頑張っていた当院は辞退させていただきました。

 

 

 

 

イングリッシュ・セターの異物誤嚥による腸閉塞

週末に来院したイングリッシュ・セターのローラちゃん。

1週間前から嘔吐と下痢の症状を呈し始め。発症3日目に他院にて診療したのですが。一時好調になったので更に3日間経過を見ていたところ、やはり調子が悪いという事でその動物病院に行くも、そこの先生が週末にどうしても外せない用事があるということで。

当院に受診されたものであります。

血液検査では白血球数、特に好中球数の増加が著明で。持参したエックス線フィルムからは腸閉塞が強く疑われます。

他院で3日目のエックス線フィルムですが、診療初日と同じように胃に内容物が充満しています。

腹部エコー検査を実施してみると、腸管の拡張著しく、拡張した腸管の中に紐のような構造が見られました。

こうなると、少しでも早くに開腹して中を確認するべきと思いますので、残業して手術という事になりました。手術前の数時間は静脈輸液を行ない、少しでも水和状態の改善をはかります。

麻酔導入してお腹を開けて見ると、胃の中には大量の葉っぱ。胃の幽門付近から腸管にかけて撚れて紐状になったタオルのような繊維性異物が詰まってにっちもさっちも行かない状態になっていました。

画像の羅列だけである程度ご理解いただけたと思いますが。手術は無事に終了。本犬は術後から気分良くなって、術後24時間後から飲水し、36時間後には胃腸病用の処方食をモリモリと食べていました。

手術の2日後には元気で退院して行きました。

今日もまたお役に立てて嬉しかったです。紹介状を書いていただいた先生には今から報告をしなければなりません。

 

 

ミニチュアダックスフントの結直腸多発性炎症性ポリープ

2才の頃より当院で健康管理のお手伝いをさせていただいている、ミニチャダックスフントの避妊済み女の子の話しです。今年で8才になります。

実は、この子は従前から免疫に関して怪しいという印象を強く持っておりました。

4才の頃に頑固な慢性嘔吐を発症しまして。内視鏡を持っている近くの先生に依頼して胃の組織生検を実施し、胃炎を患っており、炎症部位に形質細胞や好酸球が浸潤しているという所見が得られていたのです。

胃炎の方は投薬と処方食で何とかコントロール出来て。その後に発症した膀胱炎も何とか上手く管理出来ているという状態だったのですが。

5月23日に来院した時に、5日前から鮮血を混じる下痢をしているということでした。

これが、しかし、通常の下痢セットの処方では全然反応が見られず。

検便も問題無く。原虫や嫌気性菌の感染をコントロールする薬も奏功せず。

試しに与えたステロイドに対してだけかなり良好な反応だったので、大阪府立大学の内科系の先生に一度診てもらおうと飼い主様と相談していた矢先のことでした。

6月27日朝にいきなり直腸脱が生じてしまったのです。

緊急でお昼に手術を行ないました。当日予定していた猫ちゃんの避妊手術は夜に残業して行ないました。

脱出した直腸には、顆粒状の病変が多数見られます。直腸の腺癌のような超悪性の病気を予想して随分ビビリました。

病変部を切除して、縫合が終了したところです。直腸脱の手術は 一番最初に脱出した直腸が2層重なっているのをきちんと拾った支持縫合を実施して、その縫合を頼りに、内層の腸管が、断端が遊離したままお腹の中に戻ってしまわないように、丁寧な全層並置縫合を実施することが、失敗しないコツと言えばコツだと思います。

手術が終了して、直腸をお腹の中に戻してやった状態です。

手術当日に退院させました。

大学の先生のアドバイスもあり、病理検査の結果が出るまで抗菌剤以外にステロイドホルモンを控えめに使用しました。

術後の経過はすごく良好で、下痢も改善しました。

病理検査の結果は。

多発性炎症性ポリープというものでした。

この病気は、最近ミニチュアダックスフントで問題になっている免疫が関与すると言われる炎症性の疾患です。

治療は、ステロイドホルモンと免疫抑制剤の併用で実施します。丁度タイムリーに、6月30日に岡山で受講した動物臨床医学研究所の卒後教育セミナーでこの病気の解説がありました。

診断はきちんとつきましたので、後は上手く管理出来るかどうか?です。今のところ順調なので、何とかなると予想しております。

免疫の病気に負けずに、幸せに長生きして欲しいと切に願いつつ治療を遂行しております。

 

 

 

 

 

エアデールテリアの皮膚扁平上皮癌

もうすぐ11才になるエアデールテリアの男の子の話しですが。

5月21日に、6ヶ月くらい前から左胸の皮膚の腫瘤が自壊してずっと気になるのか?舐めたり咬んだりしているということで相談されました。

針吸引&細胞診をすることと、自壊部分から出る膿の細菌培養と薬剤感受性試験を実施して、抗菌剤を投与しました。

細胞診の結果では、良性の皮膚腫瘍であろうということでした。

しかし、薬剤感受性試験に基づいて利く薬を投与しているのにも関わらず感染のコントロールが出来ません。膿はずっと出続けています。

どうもおかしいな?と感じておりましたが。飼い主様は膿が出続けて生活の質がかなり損なわれていることが可哀相に感じられたようで。
摘出を希望されました。

この子は以前に肝機能障害を患ったことがありましたので。術前検査として全血球計数、血液生化学検査ひと通り、胸部エックス線検査、心電図検査を実施します。

やはり、予想通りGPTが405U/L GOTが50U/L ALPが1272U/L と肝障害が存在しておりました。

一応、幹細胞保護のお薬を2週間内服させてもう一度血液検査を行なうと。
GPTが166U/L GOTが31U/L ALPが882U/L とかなり改善しました。

2回目の血液検査から6日後に手術を実施しました。

高齢の子とか、体力的に不安のある子については、手術当日朝一番にお預かりして、午前中は静脈カテーテルから輸液を行なうことにより体調を整えるのですが。

エアデール君、暴れて静脈輸液を行なうことは適いませんでした。

午後1時頃より麻酔導入して、術野の毛刈り消毒、術者助手の手洗い等基本通りの手抜き無しの手順で進めて行きます。

腫瘤周辺の毛を刈ったところ。

術野の消毒が済んで覆い布をタオル鉗子で止めたところ。

腫瘤を切除したところ。判り難いとは思いますが、垂直方向のマージンとして、皮筋という筋肉を一枚切除しています。治療に対する反応が怪しいので、一応用心して。悪性腫瘍だったとしても後で慌てないように最大限の用心をしております。

切除された腫瘤。これからホルマリンに漬けて、病理検査に出します。

 傷を縫合し終わったところです。この部分に出来た腫瘤は、比較的手術が容易です。

抜糸は術後13日で実施しました。この時に血液検査を行ないましたが。GPTは前回少し下がったのとそう変わらない数値でした。肝細胞保護剤は継続することにしました。

病理検査の結果ですが。扁平上皮癌という悪性度の強い物でした。用心のために大きくマージンを取って正解でした。
扁平上皮癌は転移する率は低いということですが。今後局所再発については注意して行きたいと思います。

 

 

 

ジャーマンシェパード若犬のイレウス

もうすぐ1才になるジャーマンシェパードの男の子の話しですが。

前日から嘔吐し始めたということでの来院でした。

血液検査と腹部エックス線検査では決め手になるような所見は得られませんでしたので。とりあえず注射を3本打って1日様子を見ましたが。改善しませんでしたので。飼い主様の言う「何でも飲み込んでしまう。」という事を追求すべく、バリウムによる消化管造影を試みました。

口にバイトブロックを装着して、胃チューブを使ってバリウムを250ミリリットルほど注入します。

撮影は、造影直後と、1時間後、2時間後、3時間後という感じで実施します。

3時間後の側面像でここに異物が?と思われる陰影が見られました。

画像右下部分の腸管にわずかなくびれが見えることと、その部分の口側に急にバリウムの濃度が薄くなる部分があります。

午後から予定が入っていた手術を夜に残業して実施することにして。試験的開腹を行ないました。

お腹を開いて、胃から順に消化管を触って調べて行くと、空腸という部分に何かが詰まって動けなくなっているのが見つかりました。

開けてみると、テニスボールの破片が出て来ました。

異物を摘出した腸管の傷を縫合して、閉腹する前にもう一度胃から直腸まで消化管を手で触って精査して別の異常が無いかどうか確認します。

具合の悪い場所は、テニスボールの1ヶ所だけだったようです。

腹膜、腹筋、皮下織、皮膚と順に縫って行って、麻酔導入から約3時間弱で手術は終わりました。

試験的開腹となるとどうしても切開創は大きくなりますが。傷が癒合するのに要する期間は大きくても小さくてもほとんど変わりません。

この子のように胃や腸を切開した動物は、術後は入院させて静脈輸液を続け、24時間後にはまず水を与えてみて、異常が無ければ残渣の少ない処方食を当ててて行きます。

シェパード君も、24時間後には水を飲んで、その後少量の食事を食べ。翌日には普通に処方食をどんどん食べて、お水も飲んで、手術から2日後の夕方には退院しました。

やんちゃで食いしん坊のワンちゃんについては、異物の誤嚥に特に注意する必要がありますね。

それにしても、今年は犬のイレウスの手術が多いです。一月に1件か2件はやっているように感じております。

 

手術の場合、開ければそこを縫ってやらなければなりません。

マンソン裂頭条虫

今日の午後診で3種混合ワクチンを接種に来られた猫ちゃんの話しですが。

私は、犬でも猫でも年に一度のワクチン追加接種の際には、なるべく検便と胸部聴診を欠かさないように心掛けています。

歳を経て心雑音が聴こえるようになって、心臓病の存在が明らかになる犬猫も居れば。消化管内寄生虫の感染が明らかになって、重症になる前に駆虫することにより事なきを得る事例も多いです。

この子の場合は、直接塗抹検便によりマンソン裂頭条虫という寄生虫の卵が発見されました。

検便は直接塗抹という方法と、浮遊法という方法と二通りの方法を同時に行なうことにより、検出可能な寄生虫卵のバリエーションが多くなります。

マンソン列頭条虫の卵は浮遊法では検出されることは普通はありません。この卵を見つけることが出来る方法は、直接塗抹法か、あるいは遠心集虫法と呼ばれるかなり手の込んだ検便のやり方になります。

それで、マンソン裂頭条虫とはどんな寄生虫かというと。自然豊かな土地に住んでいる、世間で「真田虫(サナダムシ)」と呼んでいる寄生虫です。真田という名前の由来は、和服の着付けに使用する真田紐という小道具に姿が似ているためと記憶しております。

マンソン裂頭条虫がどんなやり方で動物に寄生して行くのか?と言えば。まず、動物の腸管に棲んでいる親虫が卵を産んで。その卵が川や池の水の中に流れて行ったら。
そこでミジンコなどのプランクトンに食べられて。
そのプランクトンを魚やオタマジャクシたちが食べて。
その魚や、オタマジャクシが成長したカエルを犬や猫や人間が生で食べると、犬や猫や人間の腸管に親虫が寄生することになるわけです。

特筆すべきは、親虫が産んだ卵を、犬や猫や人間が直接口にしても、その卵はお腹の中で成長することはないということで。必ずプランクトンや魚やオタマジャクシなどの小動物の身体を経由しないと成長出来ないということなのであります。

因みに今日検便でマンソン裂頭条虫が発見されたにゃんこは、普段かなりワイルドな生活を送っていて。カエルやスズメやヘビや何やかやを狩りするのが日課だということでした。

このまま寄生を放置していると、お腹が具合悪くなったり、最悪虫が分泌する毒素にやられて神経症状が出たりすると言いますから、一応駆虫はしようという話しをさせていただいて。

この子の場合注射で駆虫しました。

しかし、猫にとって狩りをするというライフスタイルはなかなか改めることは困難だと思いますので。今後は定期的に検便を駆虫を繰り返す必要があると思います。

でもにゃんこちゃん。楽しい毎日を送っているのですね。ある意味素晴らしいことと思います。