兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 骨折手術例(その1)
診療方針

骨折手術例(その1)

グリーンピース動物病院で、私が実施した骨折手術の症例を、手術の前後のレントゲン写真を中心に一部紹介させていただきます。

1、最初は、猪猟犬が猪と闘っていて前肢を咬み折られた症例です。
犬種はブルテリ・ドゴ・和犬雑で、体重は24キロくらいあった中型犬です。

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横向きの写真です。
後ろに移っているの肢、左肢ですが、橈骨と尺骨の遠位部が斜めに折れているのが良く判ると思います。

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正面からの写真です。
やはり橈骨遠位部の骨折が明らかです。

この子の骨折は、創外固定という方法で手術しました。創外固定とは、それぞれの骨折片に複数のピンを捻じ込み、それを体外のクランプで固定しておくという方法です。
動物は、ピンとクランプを装着したまま自由に動き回ることが可能です。

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手術後の写真です。
それぞれの骨折片に捻じ込む複数のピンの相対的な角度がハの字になっていることに注意して下さい。
ハの字にすることによりピンが動き難くなるのです。

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ピンとクランプを装着した犬の状態は、この通りです。クランプの位置によってはこれをタオルで巻いたりして身体の他の部分にクランプが当たって怪我をしないようにしなければなりません。

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2ヵ月後、抜ピン前の写真です。
ちょっと判りにくい画像かも知れませんが、骨癒合はかなり進行しています。

創外固定の場合、骨の配列が少しぐらいずれた状態で固定されることも再々生じます。
しかし、その場合でも動物の原状回復能力というものが強く働い て、結果としては正常な形に戻ることがほとんどです。なお、骨癒合完了後の抜ピンは、普通は無麻酔で実施することが出来ますが、すごく怖がりの子には極短 時間作用の注射麻酔を施して行なう方が良いかも知れません。

2、柴犬の脛骨腓骨骨折です。交通事故の症例ですが、交通事故の場合には骨折を見つけて喜んでしまっていてはいけません。より生命に係わる骨折以外の内蔵 の損傷とかを見落とさないように注意深く診察しなければなりません。それと、胸を強打している可能性の高い動物に、事故直後に麻酔をかけると外傷性心筋障 害に陥っている可能性があるので不整脈の発現であるとか、恐ろしい事態になることがありますので、その場合にはなるべく事故後4日以上時間を置いて手術に 臨むようにしています。

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左肢の太い脛骨とその後ろにある細い腓骨が同時に折れているのが判ると思います。肢はブラブラですから、軟部組織が骨折端でひどく損傷しないように、また 痛みがひどくならないように、手術までの期間は副木と包帯などで骨折端がひどく動かないようにして置かなければなりません。

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この症例では、脛骨の内側から骨プレートを当て、骨ネジで止めてやりました。

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術後にケージの中で回復させてるところです。
軟部組織の傷が治れば普通に歩き回って生活できます。
プレート固定の場合、骨癒合には3ヶ月から6ヶ月かかるのが普通です。骨癒合にはプレートは抜いてやるのがセオリーです。

3、猪猟犬が、やはり大きな雌の猪に肢を咬まれて骨折した症例です。この子の場合、骨折だけでなく周囲の軟部組織の損傷が相当ひどく、肢の先の方が壊死するかも知れないと思われたくらいでした。

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骨折自体は単純な横骨折ですが、周囲の組織がボロボロです。
筋肉や皮膚の間に空気が侵入しているガス像が観察されます。
砂のような異物も入り込んでいます。
肢は当然ブラブラで、傷から骨折端が露出しているような状態でした。

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身体の他の傷の治療もありましたので、当日に麻酔下で開放創を丁寧に清掃消毒しました。
ピンを捻じ込む部分については、小さく皮膚を切開して創外固定を実施しました。この位置にクランプを固定すると反対側の下腿にあたって怪我をさせてしまうので、タオルとテープで包んでおかなければなりません。

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何せ汚染のひどい骨折だったので、その後の管理はかなり難しかったのですが、最初に出来た傷の洗浄、細菌培養と薬剤感受性試験を繰り返しながら効果確実な抗菌剤の投与を続けて、結局4ヶ月後に癒合完了し、抜ピンすることが出来ました。

骨折手術の原則というか、守らなければならないこととしては、骨プレートとか創外固定の場合、ひとつの骨折片に対して必ず2本以上の骨ネジなりピンを入れなければ、その骨折片は回転しますので、癒合には至らないというお約束が存在します。

最近の知見では、骨プレートよりも創外固定の方が骨癒合の治癒機転を阻害しないので優れているということになってい るそうです。ただ、術後の管理は、骨プレートの方が断然簡単なので、飼い主様のお仕事であるとか、ライフスタイル、骨折の部位、折れ方の程度、骨の汚染程 度、動物の性格などをいろいろ考慮して手術の方法を選ぶようにしております。

それと、術後感染は起こしてはなりません。3の症例は最初からひどい汚染が存在しておりましたので、傷は開放にして 頻繁に洗浄し、効果確実な抗生剤を検査で選んで精力的に感染を封じ込めたので、時間はかかりましたが完治にまで持って行くことが出来たものです。普通に骨 折手術をする場合には無菌手術の原則を厳守して、術後感染が生じないようにしなければならないのは言うまでもないことであります。