耳血腫という疾患は、耳の軟骨が壊れて皮下に血液が溜まってパンパンに腫れ上がるという状態であります。
画像では立体的には判り難いかも知れませんが、耳介の根元付近が膨れています。
これを放って置くと、血腫の内容が吸収される過程で耳介がカリフラワー状に変形してしまうことになるのです。
耳血腫の治療には、溜まった血液を針で突いて抜き去り、後にステロイドとインターフェロンの混合液を注入する内科治 療と、耳に切れ目を入れて血液を抜き、沈着した繊維素を清掃して、耳の内外の皮膚と中心の軟骨を刺し縫いして引っ付けてしまうという外科的治療の二つのや り方があります。
なお、耳血腫の原因は、外耳炎の痒みのために激しく頭を振るために耳介軟骨が損傷するということがほとんどなので、 内科的治療にしろ外科手術にしろ必ず根本原因である外耳炎を、細菌培養や薬剤感受性試験、抗菌剤の内服、耳道洗浄や薬も点耳できちんと治さなければなりま せん。
内科的治療は、それなりに効果もあるのですが、何回処置をすれば治るのかは、動物によって、3回程度から10数回に至るまで回数も期間もいろいろです。
手術による治療は、普通の子で術後2週間を目途に完治することが多いのですが、原因である外耳炎のコントロールがうまく行くかどうかで治癒が遅れることもあり得ます。
今日の患者さんは、年齢13才7ヶ月の雑種犬ショコラちゃんです。
3日前に来院したのですが、左耳介に大きな血腫が出来ています。外耳炎も結構悪いです。
当然に、血液検査、胸部レントゲン検査、心電図検査を実施したのですが、耳の病気以外には全然異常は認められませんでした。
耳垢の細菌の薬剤感受性試験では、クロラムフェニコールとフラジオマイシンという薬が効くという結果が得られました。
というわけで、本日耳血腫の手術を行ないました。
麻酔をかけて、気管挿管し各種モニターを装着してから、耳の中を洗浄し点耳薬を注入してから綿球を詰めます。それから耳周囲の毛刈り、消毒と進みます。
手術の方法は、まず血腫の部分に縦にスリットを入れるように切開します。血腫の中には沢山の繊維素が沈着していたので、それをきれいに清掃して、耳介をナイロンモノフィラメントで10数ヶ所くらい刺し縫いしました。
気管挿管してモニターをフルセット装着し、無菌手術をするためにこのような態勢になるわけです。今から助手が手洗いを済ませて合流し、手術開始となります。
耳介の血腫の部分を縦に切開します。
切開してみると、血腫の中には繊維素(フィブリン)が沢山沈着しています。多分、これが放って置くと耳介の変形する原因になるのでしょう。
沈着した繊維素を、ガーゼで拭ったり抗生物質入り生理食塩液で洗ったりして取り除きます。
耳介の内側と外側を縫い合わせた時に、排液出来るように細いスリットを入れる分耳介皮膚を切り取ります。
ナイロンフィラメント縫合糸を使って耳介の全層を刺し縫いします。
何ヶ所も何ヶ所もどんどん縫っていきます。
縫い終わったところです。血が溜まってた部分は細かく刺し縫いして表裏の表皮と軟骨がキチンと圧着されています。
耳介の反対側から見たところです。
術後は、頭のてっぺんに枕を置いて、耳を立てて傷が外に向くように、そして回復する期間の間外耳道に点耳薬を 注入出来るように耳をテープで固定して置きます。
頭の上に枕を置くことにより、耳がストレス無く外向きに保持されるのです。
今回は、術創の感染防止と、分泌物吸収のために、ハイドロサイトという湿潤療法用ドレッシングを使用してみました。
手術の翌日には不整脈とか肺水腫の有無をチェックして前腕に留置した静脈カテーテルを抜きます。
耳介に作ったスリットの上に分泌液を吸収して湿潤療法が出来るようにハイドロサイトというドレッシングを当ててやります。耳の穴は点耳薬を注入できるように開けてあります。
術後は入院室で静脈輸液を続けながら麻酔からの回復を待つのです。
手術の翌日には不整脈とか排水腫の有無をチェックして前腕に留置した静脈カテーテルを抜きます。
その後は3日か4日毎に傷の状態をチェックして、治りが悪いようであれば小まめに細菌培養と薬剤感受性試験を実施し、抗菌剤の内服と耳のお薬の点耳で治療していくことになるのです。
最初に書いた通り、内外の皮膚と軟骨がキチンと接着されて、スリットとして残された傷が癒合して完治するまでに大体2週間くらいかかります。
その後は、再発を防ぐために外耳炎の管理を徹底しなければならないのは言うまでもないことでしょう。