狂犬病は、ウィルス性の感染症で、すべての温血動物が感染する。 そして、いったんこれに罹って発病すると、如何なる治療を施しても確実に死亡するという本当の意味での死の病なのである。
狂犬病の原因であるラブドウィルスは、実際は色々な感染経路から体内に侵入するのであるが、圧倒的に多い感染経路は、犬による咬傷なのである。
日本でも戦後しばらく、この狂犬病が発生して社会不安の材料になったことがあるが、狂犬病予防法の制定施行により、 飼い犬に狂犬病予防注射と登録の義務付けがなされ、未登録・未注射の犬は、たとえそれが飼い犬であっても捕獲され殺処分されるというある意味ではかなり過 激な行政の執行によって、昭和32年以降、海外で感染した人が帰国後発病した一例を除いては、その発生を見なくなったものである。
狂犬病が発生しなくなった現在でも、我が国では狂犬病予防法は引き続き存在し、当初年2回であった予防注射も、良いワクチンの開発によって、年1回にはなったが、飼い犬に対する接種の義務付けは継続している。
しかし、平和ボケとはよく言ったもので、何十年も狂犬病が発生していない現在、狂犬病予防注射不要論が、肝心の獣医 師からも出てくる始末であった。 兵庫県獣医師会東播支部では、この現状を憂え、南アフリカで製作された狂犬病に関するビデオソフトや、今なお侵入の危険性がある旨を記載した書籍によって 会員獣医師の研修を実施し、やっとそのような無知なる意見も出なくなったところであるが、一般社会の皆さんの意識では一体どうであろうか?
実際に目を海外に向けてみると、狂犬病は世界中いたるところで発生が見られ、むしろ発生の見られない国の方が少ない方である。 人間の感染者数 (即犠牲者数である) も年によって3万人から5万人に上るのである。
最近目にした写真で、驚愕を禁じえなかったのが、新潟港に横付けされたロシア船から、犬がとことこ歩いて下りてきた ものがある。 正規に犬を輸入しようとすれば、動物検疫所によって2週間の厳しい検疫が実施されるのであるが、この写真は「そんな常識などいくらでも抜け道があるぜ い。」 といったもので、犬も拳銃も麻薬や覚せい剤も、何でも入り放題なんだなあと実感であった。
そして、肝心の動物検疫についても、犬に関しては結構厳しいのであるが、犬以外の動物に関しては、最近までほとんど ノーチェックだったのである。 ここ数年前からやっとアライグマや狐のようないろいろなペット動物でも検疫が実施されるようにはなっているようだが、どこまで完璧なのかは怪しいものであ る。
日本国内で狂犬病予防注射の義務付けがはずされれば、この恐ろしい死の病は再び発生するようになるであろう。 犬の飼い主の皆さんは、この古くさい法律でも実際には私たちの社会の安全性を保つために本当に役に立っているのであることを再認識していただきたいものである。
しかし、それにしてもすでに日本全国で一万軒以上も動物病院が存在している現在でも、狂犬病予防注射の法的効力を、年度末で区切ってしまうという古い運用はやめて欲しいと思う次第である。