兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 歯周病
診療方針

歯周病

犬猫の歯は、 生まれて20日くらいからまず乳歯が生えてくる。 この乳歯は、生後4ヶ月から6ヶ月までの間に永久歯に生え変わるが、永久歯はその名の通り犬猫が死ぬまで使い続けなければならないものである。 犬猫は食べ物の加減か口の中のpH(水素イオン濃度)がアルカリ性になる傾向になるらしく、 人間に比べて虫歯はほとんど出来ない。

しかし、犬猫も、高齢になると歯周病に悩まされる個体が出てくるものである。 特に小型犬や猫は、飼い主との密着度の高さゆえに食べ物も柔らかいものが多くなり、歯垢(プラーク)が溜まりやすくなる。 特に小型犬は小さい口に無理やり押し込まれた感じの歯並びであり、 プラークが溜まりやすいようである。

このプラ-クに、唾液中のカルシウムイオンが沈着して石のように硬くなったものが歯石である。 柔らかいプラークがどれくらいの時間で歯石になってしまうかというと、 先日のセミナーでお話をされた先生によると、 たった2日間で歯石になってしまうものだそうな。

歯周病は、 歯についたプラークや歯石に含まれる様々な歯周病菌が、歯肉に感染し、 炎症を起こし、その炎症は歯の根っこの歯根膜に及んで行き、 歯槽骨をも侵し、 果ては歯槽骨が融解吸収されて歯がぐらぐらと動揺するようになり、 最後に抜けてしまうことでその進行が停止するのである。

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麻酔をかけて今から抜歯とスケーリングを行おうかという14才の間リポ目ミックスです。
茶色く見えるのは歯石です。

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一応処置が終了しました。 この子は結局残せる歯が無くて全額抜歯になってしまいました。
この子はその方が後々快適な生活が送れると思います。 歯が一本もなくなっても、人間に養われている犬猫は食事に不自由することは無いし、 消化吸収にも不都合は生じません。

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残り少なかった歯でしたが、 ほとんどが根元まで腐ったような状態でした。日夜痛みと疼きが絶えなかったことと思います。
この処置をしたあと数日は私も真面目に歯磨きしています。

そうして歯石を完璧に除去して、 ぐらぐらとしている救えない歯の抜歯を済ませた後は、 数日抗生物質の全身投与を行なうのである。 何となれば、歯石除去を行なうとその動物はしばらくの間、全身的に菌血症になってしまうのである。

猫の場合、歯周病がひどくて難治性口内炎になって、命にかかわるほどの摂食障害になっている症例が時々あるのだが、 そんな子では思い切って全顎抜歯とか全臼歯の抜歯を実施することがある。 すると、今までどうしたって治らなくて辛かった頑固な口内炎が改善して、ちゃんと食べることが出来るようになることがほとんどである。

歯が一本もなくなると生活に不自由を感じるようになるのではないかと心配される方が多いのだが、犬猫の場合人間ほど 心配することはないと思う。 すなわち、犬猫のような肉食獣の歯牙の機能は、兎や牛馬山羊のような草食獣や我々人間や豚のような雑食獣とは根本的に異なるのである。

犬猫の歯の機能を具体的に考えてみると、まず獲物を捕食したり敵と戦う時の武器である。 獲物を発見すると追いかけて追いついたら強力な牙と第4前臼歯で相手を殺す。 そして、獲物の肉を自分が飲み込めるサイズに切り取って、後は丸呑みするのである。

そう、犬猫の消化には基本的に咀嚼という行動は不要なのだ。 であるからして、ドッグフード、キャットフード、あるいは調理食品を食べている犬猫の場合歯牙のあるなしは生存にそう影響しないのである。

当院で今までに全顎抜歯もしくは全臼歯抜歯を実施した犬や猫で食事が食べられないというクレームがついたことは今までなかったし、むしろひどい口内炎が治まって生活の質が向上したとの報告を受けたのがほとんどである。

予防法について

犬猫の歯周病の予防は、我々人間のそれと全く変わるところがない。 即ちプラークコントロールが全てなのである。 如何にして歯垢を付けないようにするかと言えば、 やはりその王道はブラッシングであろう。 それこそ子犬子猫の頃から人間の赤ちゃん用の歯ブラシで良いから、犬猫の歯を外側だけでもブラッシングするのである。 内側は舌で良く擦られているので、舌のざらつきの発達した猫の場合は特にそう問題は生じない。

そうは言っても、いきなり長時間犬猫を押さえつけてブラッシングするなんて、 それまで何にもされたことの無い犬猫にとっては、到底受け入れ難いことであろう。 子犬子猫の間から歯ブラシで少し歯を触っては誉め、 ご褒美を与えという行為を繰り返して、歯磨きを受け入れてくれるようにトレーニングすることが必要と思うものである。

最近は、犬猫が好む味が付いていて、飲み込んでも大丈夫なデンタルペーストも商品化されている。 私が取り扱っているのはビルバック社の犬用または猫用デンタルキットである。 これらはクライアントの皆様にお勧めして結構良い感触を得ている。

しかし、犬の場合、頭数が多いとか、犬が中型犬以上の大きさの場合には、 豚の骨を噛ませることをお勧めしている。 特に上腕骨とか大腿骨のような太い骨がお勧めである。 何で豚の骨かと言うと、牛の骨でも同様な効果は期待できるのであるが、 牛の骨は相対的に硬く、犬の歯の損傷が生じ易いからである。 豚骨を15分から30分程度熱湯でゆがいて芯まで熱を通し、 冷ましてから与えてやるのである。

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加熱する前の豚骨です。大腿骨か上腕骨が良いです。近所のお肉屋さんで、ラーメン屋さんが豚骨スープを取るために使う業務用の豚骨が10キロ単位で売られていました。
10キロではさすがに普通のワンちゃんの飼い主さんには多すぎますので、グリーンピース動物病院で購入して1本ずつ小分けして希望者にお譲りしております。

動物の骨で、犬に齧らせて歯石を取ることに最も大きな効果のあるのが、骨の端についている関節軟骨である。 この軟骨は、香ばしいのと割と容易に齧ることが出来るために犬が特に熱心に齧る部分なのである。 犬に豚骨を与えて30分から1時間も経つと、犬の顎の強さと意欲にも拠るが、関節軟骨はほとんど齧られて、犬の歯はすっかり綺麗になっているのである。 犬の歯が綺麗になったら骨は取り上げてしまっても良いし、そのまま与え続け続けても良い。

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しばらく手入れをしていなかった歯です。
黄色く見えるのが歯石です。

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ゆでた豚骨を噛ませた後です。かなり綺麗になりました。
この後少しばかりスケーラーで仕上げをしてやりました。

豚骨法の欠点と言えば、犬が下痢や便秘になってしまうということであろう。 しかし、これも一過性のものに終わるし、ビオフェルミンのような乳酸菌の入った整腸剤を投与しておくことによりその程度を軽くすることも可能である。

近年、獣医師専用ドライドッグフードの中に歯石付着を防止すると謳った製品も出て来ているのではあるが、 その製品を食べさせた犬猫でも、それなりに歯石は付着するものである。 フードを使う予防もやらないよりははるかに良いのではあろうが、やはりきちんとブラッシングすることが一番の歯周病対策であるし、 犬の場合には骨を齧らせることがその代替策になると思うものである。