雄猫の去勢手術は、尿によるマーキング(スプレーともいいます)、猫同士の喧嘩、同居雌猫の望まれない妊娠などを防止するためにしばしば行なわれる手術で すが、実際にどのような手順で執刀されるのかご存じない方が多いと思いますので、ここに画像と解説をアップしてみたいと思います。
前腕の静脈にカテーテルを留置して、麻酔導入し気管挿管した後ガス麻酔下で手術部位の毛刈りと消毒を行ないます。陰嚢の被毛は手で丹念に抜き去ります。
消毒の済んだ手術部位に滅菌したドレープをかけて、タオル鉗子で皮膚に止めます。
まず陰嚢前部の正中皮膚を縦に少しだけ切開し、精巣を押し出します。当然のことですが、使用する器具は全てガス滅菌してあり、術者は滅菌した帽子、マスク、ガウン、ゴム手袋を装着しております。
総鞘膜に包まれた精巣がプルンという感じで出て来ました。
総鞘膜にメスを入れます。
総鞘膜がツルンと剥けて、精巣本体が出て来ました。
総鞘膜が精巣に付着していた部分は出血しやすいので、モスキート鉗子で挟んで置きます。精巣から出ている精管と血管もモスキート鉗子で挟みます。
精巣は二つあるので、反対側のも同じように取り扱います。
合成吸収糸のバイクリルで精巣の血管と精管を結紮します。必ず位置を少しだけずらして2回結紮して、万が一にも緩んで出血しないように注意します。
左右とも精巣血管精管の結紮が終わりました。
結紮部位から精巣側の精巣血管と精管をメスで切断します。
摘出された精巣です。
精巣血管と精管の断端、及び残された総鞘膜を術創の中に戻します。
滅菌したナイロンモノフィラメントで皮膚を縫合します。
縫合が終わりました。今から動物を麻酔から覚醒させます。
麻酔から醒めて、気管チューブを抜いた後、入院室でしばらく休ませます。基本的に当日退院します。
以上が雄猫の去勢手術の手順です。 術後の予定ですが、翌日に一度来院してもらって麻酔の悪影響が身体残っていないかどうか?術創の状態はどうか?ということをチェックして、前腕に留置していたカテーテルを抜去します。抜糸は普通術後9日で実施します。
ポイントは、去勢手術のような簡単な外科手術でも決して安易に考えずに麻酔を丁寧に行なうことと、精巣血管と精管の結紮に使う糸は比較的術後に縫合糸反応性肉芽腫が生じにくい合成吸収糸を使用することであります。