子犬の歯は生後大体4ヶ月から6ヶ月までの間に乳歯から永久歯に生え変わる。 ほとんどの犬は何のトラブルもなくうまく生え変わって、生後6ヶ月の時点ではそれは真っ白な美しい歯が綺麗に生え揃った状態になるのだ。
しかし、多くの小型犬と一部の中型犬では時々遺残乳歯が生じる時がある。 遺残乳歯の害も普通の場合には歯垢が溜まりやすくなる程度である。 その場合、こまめにブラッシングすることによって歯周病は一応防ぐことは出来るであろうが、長い一生そんな健康面でのマイナス要因は無いにこしたことはな い。
遺残乳歯で最も厄介な事態は、上下左右の乳犬歯永久犬歯が4本ずつ同居状態になってしまって、その結果下顎永久犬歯が上顎口蓋に突き刺さるようになってしまう場合だ。
上顎永久犬歯は上顎乳犬歯の後ろ側に生えてくる。 そして、下顎永久犬歯は下顎乳犬歯の内側に生えてくる。 順調に生え変わりが進むと、上顎乳犬歯が抜けることによって、上顎永久犬歯が後ろに移動する。 そして、下顎乳犬歯が抜けることによって下顎永久犬歯が外側に移動して、下顎永久犬歯は上顎永久犬歯の前にうまく咬み合うように収まるのである。
上顎乳犬歯がうまく抜けない場合上顎永久犬歯が後ろに移動することが出来ず、そのために下顎永久犬歯が上顎永久犬歯に邪魔されて外向きに生えることが出来なくなる。
また、下顎乳犬歯が遺残した場合でも下顎永久犬歯の外向きへの移動が阻害されて下顎永久犬歯が上顎に突き刺さる事態に陥るのである。
大きな永久犬歯の後ろ側に細く曲がった乳犬歯が生えているのが判りますか?
下額の乳犬歯は正面から見た方が判りやすいですね。 特に右側で乳犬歯が永久犬歯の邪魔をし て永久犬歯が外側に移動できない様子が見て取れると思います。 この状態が続くと下顎永久犬歯 が口蓋に突き刺さります。
このような咬み合わせの異常を防ぐためには、上下の乳犬歯を歯列異常が発生する前に抜いてやることが必要になるのだが、その時期は何時が適当なのであろうか?
乳犬歯を抜くのが早過ぎる場合、すなわち永久犬歯がまだ萌出しないうちから乳犬歯を抜こうとするような場合は、抜歯操作によってこれから生えようとする永久犬歯の芽を取り返しのつかないくらいに損傷してしまう恐れがある。
一方遺残した乳犬歯を抜くのが遅過ぎる場合には、歯列の異常が固まってしまって、乳犬歯を抜いてももはや改善不能に陥っているということになりかねない。
歯科のセミナーを受講して聞いたところによると、犬歯以外の歯の場合永久歯が生えてくると乳歯は速やかに抜けてい き、乳歯と永久歯の同居期間はほとんどない。 一方犬歯の場合にはその同居期間は上顎で2週間から2.4週間、下顎で数日から1.4週間もあるそうだ。 この犬歯と切歯臼歯の永久歯と乳歯の同居期間の長さの差は、犬歯が犬にとっては重要な武器であり、これが全くない状態は犬の生存に非常に不利だという事実 に基づくものかも知れないとの解説であった。
結局上顎犬歯で2週間、下顎犬歯で1週間から2週間の乳歯と永久歯の共存期間をもって乳犬歯抜歯の時期の目安とするべきだというのが結論であった。
乳犬歯の抜歯であるが、これには全身麻酔が必須である。 そして萌出しつつある永久犬歯を損なうことなく長い歯根の乳犬歯をきちんと抜き去るには歯科用エレベーターを注意深く正しく使いこなすことが大切なのである。
犬歯を抜いた直後です。出血の跡が生々しすぎる?
同じく乳犬歯抜歯後の正面像です。 ああ、抜いた乳犬歯そのものも撮影して置けばよかった。