兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の マイクロチップ(もし迷子になったら)
診療方針

マイクロチップ(もし迷子になったら)

動物病院という仕事をやっていると、結構迷い犬や迷い猫の問い合わせがあるものである。 問い合わせの内容は、自分の犬猫が行方不明になったというものと、犬猫が迷っているのを保護したがどうしたら良いのであろうかというものとの2種類に分けられる。

また、猟期に入ると、猟犬が行方不明になったという話を良く聞く。 猟犬の行方不明については本当に獲物を追っていって帰れなくなったものから、猟犬を販売目的で盗むというもの、山中で善意の他のハンターやハイカーについていってしまったというものなど、いろいろなケースが存在するようである。

さらに、猟犬の販売目的の盗難と関連があるのかもしれないが、猟期終了後の猟犬の遺棄問題。 また猟期に入ったら新しい犬を買えば良いとでも思っているのであろうか? そんな心ない一部のハンターのせいでハンター全体が社会から冷たい目で見られてしまうことになるのに・・・・・。

しかし、迷ったにしろ、盗まれたにしろ、犬猫の個体識別が簡単に絶対確実に行なえるシステムが存在すれば、上記の問題のかなりのものが解決するのではなかろうかと思うのは、果たして私だけであろうか。

そして、絶対確実な動物の個体識別の方法は、 実は既に存在するのである。 ただ、日本のお役所の仕事嫌いや縄張り意識、獣医師の不勉強。 お金にならないことはやりたくないという獣医師の功利主義。 そんなこんなでまだ日本社会に普及していないだけなのである。

その個体識別方法とは、 マイクロチップというものである。 マイクロチップとは、 直径2ミリメートル、長さ11ミリメートルの小さな電子機器で、 このチップを少し太めの針ではあるが注射器で皮下(普通は左右肩甲骨の間)に埋め込むというものである。

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マイクロチップ本体です。 体内に埋め込まれた後は移動防止機構でその場にとどまります。

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マイクロチップは最初この埋め込み装置に滅菌された状態で入っています。

このマイクロチップは、それ自身は電波とかは発するものではないが、 読み取り機を近づけると、 読み取り機から発する電波に応答して信号を帰して来るのである。 読み取り機はその応答信号からチップ固有の番号を表示する。

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マイクロチップの読み取り機です

チップの番号については、 信頼できる情報管理会社(日本総合研究所)がそのオーナーの住所電話番号などの個人情報と動物の情報を保存しており、 読み取り機に付いている暗証番号を使って、インターネットあるいはファックス通信を使って問い合わせすると、 24時間態勢で応答してくれるのである。

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うちのノイズにもマイクロチップが入っています。 読み取り機で読み取っているところです

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読み取り機に番号が表示されました。世界でひとつしかない番号であります

なお、このシステムは国際的に標準化されたISO規格に沿ったものであり、 世界的にも相当普及している。 幾つかの国では法的にも義務付けをされているのである。 例えば、 日本からオーストラリアに犬や猫を連れて行こうとすると、 法的に必ずマイクロチップの埋め込みが要求されるし、 日本から米国に犬を送ろうとすると、 純粋犬種で米国の犬種団体でその犬を登録する場合、 犬に耳番号を入れるかマイクロチップを入れることが必要になるのである。

日本でも実はマイクロチップを畜犬登録制度に利用しようかという動きもあったように聞くが、 その時には国と日本獣医師会との足並みがそろわず、 見送りになってそのままということだと聞く。 誠に残念なことである。

しかし、私の属する兵庫県獣医師会では数年前からこのマイクロチップの普及活動を進めているのである。 まず手始めに東播地区で、地区内の全ての会員動物病院と地区内の市役所町役場にマイクロチップの読み取り機を獣医師会経費で備え付け、 犬猫を対象とした会員動物病院でのマイクロチップ埋め込み無料サービスを展開しているのである。

正直会員動物病院全てがすごく積極的に無料埋め込みサービスを推進しているとは言えない現状ではあるが、 それでもこの数年の間に埋め込まれた動物の数も5000頭以上になったと聞く(2005年11月現在約1万頭)。

また現在は兵庫県獣医師会会員動物病院の全てがマイクロチップの読み取り機を備え付けており、 このマイクロチップの無料埋め込みサービスは、当分の間獣医師会事業として継続する予定らしいので私としても積極的に推進に協力していくつもりである。

出来ればこのシステムが日本の畜犬登録制度に採用されれば、 保護された犬の由来が明らかになるので、 迷い犬が回収される率の向上が図られる他、捨て犬が不可能になり、 動物愛護の推進に多大なる貢献が出来るものと信じる次第である。

2006年3月2日追記

今まで良いことばかり書いてきたマイクロチップであるが、ひとつだけ良いことでなく悪いことが存在するのを聞いた。

それは、マイクロチップを埋め込まれた動物が、高度医療を行なう加古川市内の動物病院で、非常に強力な磁場を発生させるMRI検査を受けたところ、マイクロチップが磁場に反応して熱を発生し、動物が火傷を負ったというのである。

そう言えば、マイクロチップは電磁波を感知するコイルや磁性体を内蔵しているのだ。 マイクロチップを埋め込むと将来MRI検査を受けられないとなると、獣医療的には不利が生じることになる。

2006年3月3日追記

そこで、参考資料を調べてみた。 チクサン出版社発行、CAPという獣医療に関する雑誌である。 その2006年3月号61ページに関連記事が載っていた。

それによると、通常のMRI検査に使用される磁場では、埋め込み動物に対する影響は無いということである。 そして、通常のMRI診断の0.5T(テスラ)という磁場に対するマイクロチップの反応は、MRI画像に普通は影響しないが、磁場が1.5Tになると画像が若干乱れることがあり、7Tでは画像が大きく乱れたということであった。

とすると、件の動物病院で起きたというMRI検査時のマイクロチップによる動物の火傷は、使用した磁場の強度などの条件がはっきりしないので、マイクロチップ埋め込み動物にとってMRI検査がすべて危険と判断するのは早計であるというべきであろう。

しかし、まあ、心配なことである。 一度マイクロチップを取り扱っている大日本住友製薬に問い合わせをしてみようかと考えている。

だが、仮にマイクロチップがMRI検査に適さないとしたとしても、コンピュータトモグラフィー(CT)検査に関しては全く問題は無いし、最近のCTは3次元のイメージまで造ることが出来るまでになっている。 確かにMRIとCTとで得意とする分野が微妙に異なる面もあるのではあるが、今後はCTの技術も向上すると思われる。 従って、実際には獣医療的にそうハンデにはならないのではないかと思いたい。