しばらく前に初診で来院した性格の穏やかな素晴らしい四国犬の男の子の話しですが。
2ヶ月前から前足の先をひどく咬み始めて。徐々に病変が全身に広がって行って。
近くの動物病院に受診して治療を開始したのは痒くなり始めてすぐでしたが。一向に改善しないで、悪化するばかりということで。当初使用していたステロイドホルモンを内服すると下痢をするので。現在は軟膏塗布により治療をしているようなことだそうです。
病変はほとんど全身に広がっていまして。本当に痒そうであります。
しかし、よくよく見ると、身体の下半分がよりひどい傾向があるような。
飼い主様に、痒みを主訴とする皮膚疾患は、ざっと勘定して7種類あること。その原因をひとつひとつ消去して行って、残る原因がアトピー性皮膚炎になるのだが。アトピー性皮膚炎の多くは生後半年から3才までの間に発症する等の話しをしつつ。
7つの原因の消去法として、疥癬や毛包虫(アカラス)を駆除することが出来る3ヶ月有効なマダニノミ駆除剤の処方。皮膚糸状菌の培養、細菌の培養と薬剤感受性試験を進めて行きます。
そこで、病変部の見た目とか分布とかを見ていると、どうしても疥癬を検出する皮膚搔き取り試験をやらなければならないかも?という気になって来まして。
鋭いエッジのついた鋭匙という道具で皮膚を搔き取って、取れた組織を水酸化カリウムとDMSOというお薬との混合液で溶かして、顕微鏡で見てみると。
あれあれ、疥癬が沢山見えるではありませんか。
小さい倍率で見たのが上の画像で、拡大してみると下の画像のように見えます。
疥癬も卵を産みまして。産んだ卵も下の画像に見えています。
この四国犬は可哀相に疥癬という非常にクラシックな皮膚の寄生虫に侵されて、それを最初に受診した動物病院で見落としたものですから、2ヶ月もひどい痒みと皮膚の炎症で苦しんでいたのだと思います。
最初に処方した3ヶ月有効なノミマダニ駆除剤を帰宅して内服させるように指示して帰ってもらいました。
翌日に皮膚の細菌の培養と薬剤感受性試験に基づいて抗生物質を処方する時に、飼い主様が言うには、「久し振りに夜眠るようになりました。」ということでした。
次の週に来院した時には、痒みはほとんど無くなっていて、食欲も増進して来たとのことです。その時点では皮膚の状態は見た目にはそんなに改善はしていませんでした。
最初に培養した皮膚糸状菌培地にはカビが生えていて培地の色も赤く変色してましたので、皮膚糸状菌の2次感染も生じていたようですから。内服タイプの抗真菌薬も処方しました。
その次の週に来院された時には、皮膚の状態は見た目もかなり改善してました。画像でははっきり判り難いかも知れませんが、画像を掲載しておきます。
もっと良くなった画像は後日掲載すると思いますが。
この四国犬はこれで治って行くと思います。
疥癬の感染源は、推定ですが、飼い主様のお住いの近くに疥癬に罹った狸か狐が居たのではないか?と思われます。
この子の場合全身状態がひどく悪くなっていて、体重も進行性に減少して行きつつある状態だったので。診断が付かなかったらそのうちに皮膚の炎症に疲れ果てて死亡する可能性が高いと予想されます。
疥癬なんて過去の病気だなんて決めつけないで、初心に帰ってきちんとやるべきことをやらなければならないと再度確認出来た有り難い症例でした。
最後に、更に2週間くらい経過して来院した状態は、皮膚の状態も被毛の状態も随分良くなっていて。体重もかなり増えて、一見して幸せそうな状態になってました。
培養検査で確認された2次感染と思われる皮膚糸状菌も制圧されて来ていて、今回の処方で内服薬もお終いかな?という感じでした。
この子の治療は以上です。
最後に初診の時の皮膚と最近の皮膚の画像の比較を載せてみます。同じような構図の画像を二つ並べます。上が初診、下が最近のです。
直接見るとその変化は大きいのですが。画像にするとどうなんかな?注意してみると大きな変化が判るとは思いますが。
ではまた。