兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2018 4月 06
院長ブログ

日別アーカイブ: 2018年4月6日

犬の急性フィラリア症の手術

先週土曜日に、柴犬が急性フィラリア症を発症したのだが。近医では内服薬を処方されただけなので、グリーンピース動物病院で手術して欲しいと、午後に電話がありまして。

聴けば、一般道高速道乗り継いで1時間は離れた町からだそうですが。

果たして本当に急性フィラリア症なのか?と半信半疑ではありましたが。午後診に来院していただいて。

問診で経過を聴いて。身体検査、血液検査、心エコー図検査、等々やったところ。

本当に急性フィラリア症でした。

フィラリア症は、春から秋までにフィラリアの幼虫を持っている蚊に刺されることにより、犬科の動物や猫の心臓にフィラリア虫という素麺のような線虫が寄生することによって発症する循環器疾患ですが。
犬フィラリア症には、肺動脈に虫が寄生している慢性フィラリア症と、肺動脈に居た虫が右心房から大静脈洞付近に移動することにより発症する急性フィラリア症があります。

急性フィラリア症は、フィラリア感染が証明されていること。急な発症でショック状態に陥っていて、苦しそうな呼吸、食欲は減少から廃絶になり、胸部聴診すると特有のガリガリゴロゴロという心雑音が聴取されて、血色素尿症になっていることくらいで診断されます。
発症が多く生じる季節は気温が急激に上昇する春先が多いです。

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この柴犬ちゃんは、フィラリア成虫抗体の検出キットで、反応窓に2本バンドが現れていますので。寄生は証明されました。

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尿検査をしてみると、遠心分離後の上澄みが血色素尿特有の色をしてまして。ここには出していませんが尿検査試験紙でヘモグロビンの反応が生じてました。

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エコー検査を実施してみると。右心房にフィラリア虫体が団子状になって詰まっています。上の画像の向かって左中ほどからやや下の点々ブツブツという感じの部分がそれです。

静止画では随分判り難いですので。YouTubeにアップした動画をご覧いただくことにしましょう。

静止画の説明でお伝えした向かって左側中ほどから下の部分に団子状になったフィラリア虫が心臓の動きに合わせて動いているのが判るかと思います。

というわけで。診断が付いた頃に外来診療が終わりましたので。そのまま残業して頚静脈フィラリア吊り出し手術を実施しました。

飼い主様には、一般的にはこの手術は死亡率3割の非常に危険な手術ではあるが。実施しないとほぼ100%死亡するので、犬を助けようと思えば選択の余地は無いということを説明して同意を得ました。

術前の血液検査では、血小板数の減少がありますので。DIC(播種性血管内凝固)が始まりつつある可能性大であると判断して。低分子ヘパリンの投与も開始します。

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麻酔導入して、気管にチューブを入れる時が、この手術の最初の試練なのですが。妙に徐脈になって心停止来るか?という雰囲気になって、相当ヒヤヒヤしました。

何とかそこを乗り切って、麻酔が安定したので、首の毛を刈ります。フィラリア吊り出し手術は頚静脈からアリゲーター鉗子という器械を心臓まで入れてフィラリア虫を摘まみ出すのです。

麻酔導入、術野の毛刈り消毒、術者の手洗い消毒、術衣帽子マスク手袋の装着は迅速に行って、ちょっとでも時間短縮を図らなければなりません。

それで、手術を開始して。アリゲーター鉗子を頚静脈から挿入して、途中引っ掛かる場所があるのですが。犬の首と身体の角度を微妙に動かして、真っ直ぐな鉗子が無理なく入って行く角度をみつけます。

いったん鉗子が心臓内に入れば。その角度を保持するようにして。鉗子の顎を開いて、手探りで虫を捕まえます。

吊り出した虫を拡大するとこんな感じです。

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これで4匹か5匹は獲れているでしょうか?

この操作を何回も繰り返して。最後には鉗子を心臓に3回も4回も入れて探っても虫が摘まめない状態になったところで。看護師さんに聴診器を犬の胸に当ててもらって、心音を聴取して。心雑音が消失していれば完了なのですが。

この子の場合心雑音は消失しなくて、音調がガリガリゴロゴロという感じからシャーシャーという透明感のあるものに変化していました。

心雑音が消失していないと、取り残しが心配になりますが。そうこうしている間にまた徐脈になって、心電図も上手く取れなくなって行きます。

これはヤバいか?と心配になりまして。心臓マッサージを試みたりして。

ちょっと回復したところで、頚静脈、皮下織、皮膚の順に縫合を行ない。麻酔からの覚醒を図ります。

あれ以上粘っても、既に虫は鉗子で探れる位置には居なくなっているわけですから。リスクが増えるだけです。

時間はかかりましたが。何とか回復しまして。麻酔からも覚醒することが出来ました。

ほんのちょっとだけエコーの探子を胸に当てて、心臓の中の様子を観察します。

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静止画でも判りますが。最初に見られた団子状のフィラリア虫が消失しています。

動かしてみると良くお判りになると思います。

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手術後は、静脈輸液を継続しながら入院ケージにて治療を継続します。

その晩は、コーヒー色の尿を何回か排泄し、コールタール状の下痢便も少量排泄し。意識も相当低下してましたが。何とか夜を乗り切りました。

翌日は朝から水を欲しがりますので、少量与えてみるのですが、水を飲めばすぐに吐いてしまい。
夕方には元気もかなり回復して来て、飼い主様が面会に来られた時には起立出来るまでになりまして。しかし、水を与えるとやはり吐いてしまいます。

術後2日目に血液検査を行なってみると。来院時に異常に高かった尿素窒素とクレアチニン、無機リンはかなり低下しましたが。肝酵素が上昇して来ているのと。リパーゼの上昇が見られます。
もしかすると、循環不全の影響で膵臓が傷んで膵炎を継発しているのではないかと、心配になります。

それやこれやに対応しながら治療をやっていると。術後3日目の朝には何とか流動食を水で薄く溶いたものは摂取出来るようになりまして。その量も夕方には増えて来て。濃度を濃くしても何とか行けそうです。

この時点で試験的に退院させました。

中1日置いて再来院してもらいましたが。すっかり元気になってまして。心雑音は完全に消失してましたし。固形物も食べるようになってました。

この子の場合、手術前に一般状態が相当悪くなってましたし。内臓機能も恐ろしく傷んでましたので。回復がかなり困難でしたが。
発症後速やかに診断が付いて手術を早期に行なえば、こんなに苦戦することはなかったと思います。

それでも何とか助けることが出来てホッとしました。

しかしです。私はこの子を最初に診察した獣医師にかなりイラっと来るものがあります。

急性フィラリア症は、そんなに診断が難しい病気ではないと思うので。手術を行なうことが出来ない獣医師でも診断は容易に付けれるはずであります。
そして、診察後に何で急性フィラリア症であることを飼い主様に告げなかったのか?内服薬の処方だけで済ませてしまったのか?

自分が手術を出来ないことは別に恥でも何でもありません。私だって出来る手術よりも出来ない手術の方が圧倒的に多いです。

そして、自分には出来ない手術症例に出逢った時には、出来る獣医師に速やかに紹介すれば良いだけの話しではないですか。

最初に診察した獣医師が、この子の状態を急性フィラリア症であると判っていて手術の必要性を飼い主に説明することなく投薬だけで済ませたのであるならば。
その獣医師は、獣医師である前に人間としてどうなんだと訊きたいところであります。

そんなことを考えながら、昨日いつもお世話になっている整骨院で治療を受けた時に。この話しが出まして。その時に院長先生が、自分の犬がフィラリア症と診断された時に今の話しとそっくりの症状だったけれども。診察した市内の若い獣医師は急性フィラリア症であるということや手術をしないと死んでしまうことなどは言わずに10日間の薬だけをくれただけで。
愛犬が苦しみながら日々弱って行って、とうとう死んでしまって。ものすごく悲しい気持ちになってしまったのだと言われてました。

本当に辛い話しです。

そんな話しを聴くと。私はこれからも自分の仕事に誠実に、仕事の対象の動物たちに愛情を持って、飼い主様には正直に、誠意ある獣医療を頑張って行きたいと心から思う次第であります。

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ではまた。