兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2016 6月
院長ブログ

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重度肛門嚢炎に対する肛門嚢摘出術

犬や猫などの肉食獣には、 他の科目の動物に無い組織として、 肛門嚢という強烈な臭いを発生させる袋状の器官が肛門の辺りに存在します。

犬の肛門嚢は、 排便の際にその分泌物が糞便の上に少量落とされて、 他の犬たちに対するメッセージの役割りを果たしていると言われていますが。 本当かどうか?は実際に犬に訊いて返事をもらった人はおそらく居ないと思いますので。 一応推測の範囲ではないか?と勝手に思っています。
しかも、 都会生活を送っている最近の我が国のワンたちは、 散歩の時に排便してもマナーをきちんと守る飼い主様が糞便を回収してしまいますから。 糞便と肛門嚢分泌物によるコミュニケーションは非常に困難な時代になってしまっております。

この肛門嚢は、 分泌物の出口が肛門のすぐそばに開口しておりますので。 しばしば大腸菌などの細菌が侵入して繁殖し、 炎症を起こすことがあります。

大抵の肛門嚢炎は、 適切な抗生物質を使って治療することにより治ってしまうものですが。 時たま薬剤耐性菌が感染していたり、 肛門嚢が拡大して大きな袋状になってしまい、 内部まで薬の効果が及び難くなってしまっていて、  内科治療が困難な症例に出くわすことがあります。

内科治療困難な肛門嚢に対する治療法は、こまめに絞って中身を溜めないようにしながら、細菌培養と薬剤感受性試験を繰り返して、その結果に基づく適切な抗生物質を投与するという地道な内科療法を行なうのですが。 それでも治って行かない場合。 最終的には外科的に肛門嚢を摘出する方法があります。

この外科療法には、やはり落とし穴が存在しておりまして。

肛門嚢の組織を取り残した場合に、あの臭い中身が傷の中に分泌され続けるので、瘻管という非常に不愉快な結果が残ることになります。

いったん瘻管が形成されると。 その原因である残存肛門嚢組織を綺麗に除去しない限りいつまでも不愉快なジクジクとした悪臭を伴なう不潔な肛門周囲組織と付き合わなければなりません。

そして、瘻管を摘出しようとすると、これが結構難しい手術になることと思います。 仮に瘻管がそっくり摘出された場合でも、周囲組織を大きくごっそりと切除しなければならなかったりして。その結果、排便をコントロールしてくれる肛門括約筋を損傷して。 頑固な便失禁が残るということになりかねません。

どんな手術でも、最初に上手く行かなくてやり直しをする方が、難しいものであります。

肛門嚢摘出手術も、 簡単なようで、 意外に難しかったりします。

というわけで。 私は犬猫の肛門嚢摘出手術をする際には、 アナルサックゲルキットという熱可塑性樹脂の製品を、切除直前に肛門嚢内に注入して、肛門嚢を周囲組織とはっきり区別出来るようにしてからやることにしています。

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画像がアナルサックゲルキットの内容です。 グリーンの円筒形容器には熱可塑性樹脂が入っていまして。 使用直前に沸騰水で熱して、これを上のステンレスの注入器にセットして肛門嚢の出口の穴から中に充填するのです。

麻酔下で行なう作業なので、100℃とは言いませんが70℃とか80℃くらいの樹脂が嚢内に入ることになります。

実は、これが万が一にも肛門嚢組織を取り残した場合でも瘻管が出来ない保険のようなものなのです。 通常の生き物の細胞は、細菌でも、我々や犬猫の身体の細胞でも、70℃くらいの高温に数秒でもさらされると、死んでしまうのです。

高温のアナルサックゲルキットを空の肛門嚢に注入することにより、 肛門嚢の内貼りにあたる悪臭液分泌細胞を殺すことが出来るので。 万が一組織の取り残しが出来ても、 瘻管形成を防ぐことが出来るかな?と一応考えているところであります。

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一応、手術の光景も掲載します。 まず手術準備の消毒のところです。

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覆い布をかけます。

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何故か、左側が終わって右側の皮膚切開をしているところです。

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矢印の先が肛門嚢の組織ですが。 丁寧に分離しているところです。

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手術が終わって。 肛門が開かないように肛門を絞めていた縫合糸を抜いたところです。

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術後1週間が経過して、来院して来たところです。 この段階で、手術後の排便のし難さとかは完全に消失して、抗生物質の内服とエリザベスカラーで舐めないようにしている以外はほぼ通常の生活が出来ています。

肛門嚢摘出術は、 そんなに件数の多い手術ではありませんが。 やる時はやらなければならない手術でもあります。 今のところ私がやった手術で瘻管形成に陥った症例はありません。 これからも心して取り組みたいと思います。

ではまた。