兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2016 2月
院長ブログ

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犬の糖尿病のインスリン抵抗性(インスリンが利かない、あるいは利き過ぎる糖尿病について)

先日から当院に転院して来られた日本犬の女の子ですが。

最初にかかっていた近くの動物病院で、糖尿病と診断されて。 インスリンによる血糖コントロールを試みていたのですが。

なかなかコントロール出来ないで。 インスリンを注射するとフラフラになったりして。 とても可哀相なんだと。 その上にどんどん痩せて来て、多尿多飲も全然改善しないということで。

最近、 そこの獣医さんに、 「もうこの子は長く生きられません。」と宣告されてしまったとのことで。

インターネットでいろいろ調べていたら。 グリーンピース動物病院にヒットしたということでの転院だったそうです。

糖尿病で、 インスリンが利かないという子は時々診ますが。 インスリンが安定して利き難い原因として。 まず考えなければならないことは。 その子の身体の状態が、 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)でないか?ということと。 その次に考えなければならないことは。 女の子で避妊手術を受けていないということです。

その他にもいろいろありますが。 この子の場合はこの二つをまず考えなければならないと思います。

血液検査を実施しつつ、 身体検査を行なって行くと。 飼い主様が膿性の下り物が性器から出ていると言われます。

となると。 血糖コントロールが難しいのは、 子宮蓄膿症あるいは子宮内膜炎の存在が原因ではないか?と強く疑われます。

血液検査の結果を見ると。 ひどい高血糖に総コレステロールが450mg/dlオーバー、カリウムイオンが5.2mEq/lとそろそろ糖尿病性ケトアシドーシスで危なくなって来ている感があります。

何はともあれ、感染した子宮を卵巣と共に摘出して。 インスリンが利くような身体の状態に持って行きたいところです。

その日は。 インスリンを体重1キロ当たり0.4単位くらい注射してやって。 飼い主様に当院で使うインスリンをお渡しして、打ち方を指導させていただきました。

翌日、速攻で麻酔をかけて、 卵巣子宮全摘出を実施しました。

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画像は麻酔をかけて、今から術野の毛を刈ろうかという状態のものです。 麻酔前に血液検査で血糖値を調べて。 極端な低血糖でないことは確認済みです。

手術は最短で終了しまして。 子宮は膿でパンパンという感じではありませんでしたが。 取り出した子宮の内容を無菌的に採取して、 細菌培養と薬剤感受性試験を実施しますと、 しっかり細菌が生えて来ました。

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卵巣子宮全摘出の手術の際に、 右第4乳頭すぐそばに小さな腫瘤を発見しましたので。 今回は大きくは取らずに、小さく切除して病理検査に供しました。 後日良性の物であるという報告が来ました。

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手術の翌々日に再来院しましたので。 状態を聴いて、 すこぶる調子が良いということですから。 静脈留置を抜去して。 抗生剤の内服とインスリンの注射を自宅でやってもらいました。

術後1週間での半日預かっての2時間毎血糖曲線の結果は。 今ひとつ高めだったので。
ほんの少しだけ増量を指示させていただき。 更に1週間後の本日、半日預かって抜糸と2時間毎血糖曲線の検査をやっております。

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今のところ、非常に良好に血糖値がコントロールされておりまして。 半日の間で100から200mg/dlの間に収まりそうです。

初診時ガリガリに痩せていた身体も、少し筋肉や脂肪が戻って来て、幸せそうな雰囲気の犬になりつつあります。

朝一の採血での血糖値以外の項目でも。 総コレステロールが随分低下したことと。 カリウムイオンも4.3mEq/lと程良い数値になっておりますし。 少し高めだった肝酵素の数値もかなり改善しております。

これからのこの子は、 多分ですが。 血糖値は良好に管理されるようになることと予想しています。

次回の2時間毎血糖曲線検査は1ヶ月後に実施する予定です。 数回月一の検査を行なって、安定しているようであれば、 それも間隔を開けて行く予定です。

犬の糖尿病のインスリン抵抗性については、鑑別リストがきちんと教科書に載ってますから。 それをひとつひとつ解決して行けばかなりの症例で救うことが出来ると思います。

今回はかなり早くに解決出来て良かったと思います。

しかし、惜しむらくは。 3ヶ月前の発症時に診させていただければ、 糖尿病性白内障で失明せずに済んだかも知れません。
ただ。 糖尿病性白内障については。 網膜さえ傷んでなければ、 水晶体を眼内レンズに交換することで、 再び視力を取り戻すことも可能かと思います。

御年11才のこの子ですが。 以前に管理していた同じような糖尿病の日本犬でも、16才で老衰で亡くなるまで元気に過ごせてましたから。 この子もそこまで幸せに生きて欲しいものであります。

ではまた。

猫の子宮蓄膿症

今回の症例は、特に症状があって来院したわけではない子でした。

一緒に暮らし始めてすでに数年経過した子なのですが。 発情のことと、病気予防のことが気になっていて。 避妊手術を希望されて連れて来られたのです。

術前検査はそんなにお歳でもなく運動能力に異常もないとのことでしたから。 全血球計数と血液生化学検査、血液凝固系検査だけやりましたが。 特段の異常はありませんでした。

手術当日、麻酔導入して、仰向けに保定し、お腹の毛刈りを始めたところ。 お腹の中に何やら硬い大きな物体が触れまして。

妊娠か?と疑って。 飼い主様にお電話をかけつつ、エコーで確認してみましたら。 それは胎児ではなかったです。

お腹を開けて、中身を確認すると。 硬い大きな物体は大きく膨らんだ子宮でした。

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普段の手術よりも子宮頚管の結紮と切断に随分気を使って。 私が「コピオ」と称している、取り残した子宮に膿が溜まった状態をつくらないようにしました。

子宮卵巣の除去後は普通に閉腹して。 手術は完了です。

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取り出した子宮を無菌的に突いて穴を開けてみると。 中から赤っぽい色調の膿が出て来ました。

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出て来た膿を材料に、細菌培養と薬剤感受性試験を実施しましたが。 翌日確認してみると、細菌は生えて来ませんでした。
普通の培地で普通に培養して細菌が生えないということは。 酸素がある環境では生えない菌が居るのか?普通のお肉のスープで溶かした寒天では生えない、栄養要求度の難しい細菌が居るのか?あるいは無菌的な化膿だったのか?のいずれかなんだと思います。

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猫ちゃんの覚醒は普通に順調でしたので。 当日夕方に退院して行きました。

子宮蓄膿症。 無症状の状態で手術が出来て良かったです。

ではまた。

子宮蓄膿症

今回の症例は、3才になるポメラニアンです。

子宮蓄膿症は、未避妊の女の子のワンちゃん猫ちゃんがかかる病気ですが。 この子は、飼い主様が子供を残したいという希望がありましたので。 避妊手術をやってなかったのです。

ただ、 飼い主様の意図に反して、妙に病気がちの体質でして。

ここ1~2年は頑固な便秘と食欲不振で、緩下剤と消化管運動促進剤を投与する治療を続けてました。

ところが、最近食欲不振の度合いがひどくなった上に元気が無くなったということですので。

心新たに、身体検査を行なってみると。 性器が妙に大きくなっていて、なおかつ下り物が見られます。

血液検査では、白血球数、特に細菌と戦う好中球の増加とC反応性蛋白の数値が高い方に振り切ってしまっています。

お腹のエックス線検査では、矢印の先に異常なソーセージ様の陰影が見られますし。

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腹部エコー検査では、そのソーセージ様の陰影は、内部に液体を貯留した管状の構造であるということが判明しました。

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これだけの証拠が揃えば。 この子の病気は「子宮蓄膿症」と言い切って良いと思いますが。

かなり怖いと思ったデータとしては。 血液を固める機能を持っている血小板の数が、1ミリ立方メートル当たり5万個台に減少しているということでした。 血小板数は、採血の時に針先が血管から外れたり、採血にひどく手間取ったりすると少なくカウントされることがありますが。 今回の採血は普通にスムーズに出来てましたから。 この数値は信頼性があると思います。

子宮蓄膿症のような基礎疾患があって、血小板数が少なくなっているような場合。 DICという血液凝固系の暴走とも言うべき致命的な状態になっている可能性が高いと思います。

DIC[で回復しない場合を考えて。 DIC[治療の奥の手ともいうべき新鮮血漿輸血とかも考慮して。 血液型を簡易キットで判定しようと試みましたが。 自己凝集反応が出現していまい。 血液型判定は出来ませんでした。

犬猫の血液型判定は、健康な時に前もって実施しておくべきものであると改めて思い知りました。

子宮蓄膿症は、状態が悪いからとか言って手術を延期したりすると、逆にますます状態が悪くなって、 結果的に死に至る症例を過去に見て来た経験から、発見したらとにかく手術して悪い臓器を取り出してしまうというのが私の考えです。

この子も、即日手術を実行しましたが。 手術の前から、DIC対策のお薬を静脈輸液に添加して持続点滴で投与しました。

 

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手術は、 過去のブログにも何回となく掲載したように、麻酔導入したら気管チューブを挿管し。 静脈カテーテルからの乳酸リンゲルの輸液。 各種モニターの装着と。 決して手抜きをせずに丁寧に準備します。

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お腹を開けると。 液体が充満した子宮が出て来ました。 超音波メスで血管をシールしながら摘出します。

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摘出した子宮ですが。 健康な子宮に比べて、長さはともかくひどく太くなっています。

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メスで突くと、イチゴミルクのような?膿が出て来ました。 この膿を材料にして細菌培養と薬剤感受性試験を行ないます。

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麻酔からは普通に覚醒しました。 一晩入院させて、DIC対策のお薬を添加した乳酸リンゲルの点滴を続けます。 翌日に食べれば回復に向かっていると判断して退院させます。

幸いなことに、翌朝食欲が回復して、与えた食事を食べてくれました。

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筒状のメリヤスを使ったシャツを着せてやって、退院させました。

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術後約9日で再来院した時には、すっかり元気になったということなので。 抜糸して今回の子宮蓄膿症騒ぎは一件落着ということになりました。

普通に回復してくれて、本当に良かったです。

今回の子は、一応繁殖予定があったので。 早期の避妊手術をしなかったために、こんな事態になってしまいましたが。
やはり、繁殖の可能性が無くなった時点でなるべく早期に避妊手術をお勧めするべきだったと思います。

ではまた。