先日から当院に転院して来られた日本犬の女の子ですが。
最初にかかっていた近くの動物病院で、糖尿病と診断されて。 インスリンによる血糖コントロールを試みていたのですが。
なかなかコントロール出来ないで。 インスリンを注射するとフラフラになったりして。 とても可哀相なんだと。 その上にどんどん痩せて来て、多尿多飲も全然改善しないということで。
最近、 そこの獣医さんに、 「もうこの子は長く生きられません。」と宣告されてしまったとのことで。
インターネットでいろいろ調べていたら。 グリーンピース動物病院にヒットしたということでの転院だったそうです。
糖尿病で、 インスリンが利かないという子は時々診ますが。 インスリンが安定して利き難い原因として。 まず考えなければならないことは。 その子の身体の状態が、 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)でないか?ということと。 その次に考えなければならないことは。 女の子で避妊手術を受けていないということです。
その他にもいろいろありますが。 この子の場合はこの二つをまず考えなければならないと思います。
血液検査を実施しつつ、 身体検査を行なって行くと。 飼い主様が膿性の下り物が性器から出ていると言われます。
となると。 血糖コントロールが難しいのは、 子宮蓄膿症あるいは子宮内膜炎の存在が原因ではないか?と強く疑われます。
血液検査の結果を見ると。 ひどい高血糖に総コレステロールが450mg/dlオーバー、カリウムイオンが5.2mEq/lとそろそろ糖尿病性ケトアシドーシスで危なくなって来ている感があります。
何はともあれ、感染した子宮を卵巣と共に摘出して。 インスリンが利くような身体の状態に持って行きたいところです。
その日は。 インスリンを体重1キロ当たり0.4単位くらい注射してやって。 飼い主様に当院で使うインスリンをお渡しして、打ち方を指導させていただきました。
翌日、速攻で麻酔をかけて、 卵巣子宮全摘出を実施しました。
画像は麻酔をかけて、今から術野の毛を刈ろうかという状態のものです。 麻酔前に血液検査で血糖値を調べて。 極端な低血糖でないことは確認済みです。
手術は最短で終了しまして。 子宮は膿でパンパンという感じではありませんでしたが。 取り出した子宮の内容を無菌的に採取して、 細菌培養と薬剤感受性試験を実施しますと、 しっかり細菌が生えて来ました。
卵巣子宮全摘出の手術の際に、 右第4乳頭すぐそばに小さな腫瘤を発見しましたので。 今回は大きくは取らずに、小さく切除して病理検査に供しました。 後日良性の物であるという報告が来ました。
手術の翌々日に再来院しましたので。 状態を聴いて、 すこぶる調子が良いということですから。 静脈留置を抜去して。 抗生剤の内服とインスリンの注射を自宅でやってもらいました。
術後1週間での半日預かっての2時間毎血糖曲線の結果は。 今ひとつ高めだったので。
ほんの少しだけ増量を指示させていただき。 更に1週間後の本日、半日預かって抜糸と2時間毎血糖曲線の検査をやっております。
今のところ、非常に良好に血糖値がコントロールされておりまして。 半日の間で100から200mg/dlの間に収まりそうです。
初診時ガリガリに痩せていた身体も、少し筋肉や脂肪が戻って来て、幸せそうな雰囲気の犬になりつつあります。
朝一の採血での血糖値以外の項目でも。 総コレステロールが随分低下したことと。 カリウムイオンも4.3mEq/lと程良い数値になっておりますし。 少し高めだった肝酵素の数値もかなり改善しております。
これからのこの子は、 多分ですが。 血糖値は良好に管理されるようになることと予想しています。
次回の2時間毎血糖曲線検査は1ヶ月後に実施する予定です。 数回月一の検査を行なって、安定しているようであれば、 それも間隔を開けて行く予定です。
犬の糖尿病のインスリン抵抗性については、鑑別リストがきちんと教科書に載ってますから。 それをひとつひとつ解決して行けばかなりの症例で救うことが出来ると思います。
今回はかなり早くに解決出来て良かったと思います。
しかし、惜しむらくは。 3ヶ月前の発症時に診させていただければ、 糖尿病性白内障で失明せずに済んだかも知れません。
ただ。 糖尿病性白内障については。 網膜さえ傷んでなければ、 水晶体を眼内レンズに交換することで、 再び視力を取り戻すことも可能かと思います。
御年11才のこの子ですが。 以前に管理していた同じような糖尿病の日本犬でも、16才で老衰で亡くなるまで元気に過ごせてましたから。 この子もそこまで幸せに生きて欲しいものであります。
ではまた。