兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2014 6月 10
院長ブログ

日別アーカイブ: 2014年6月10日

キャバリア・キング・チャールス・スパニエルの僧房弁逆流症

読者の皆様の多くはご存知でしょうが。表記の犬種、略してキャバリアは、心臓の僧房弁という左心房と左心室を仕切る弁の病気が遺伝的に多発することで知られています。それも、早い子だったら4才くらいでも心雑音が聴こえるようになり、そんな子は病気の進行も非常に速くて数年で亡くなってしまいます。

今日の子は、今年13才になるキャバリアですが。この犬種には珍しく?昨年までは胸部聴診をしても心雑音は聴こえませんでした。

しかし、今年に入って春のフィラリア予防の際に、夜間に咳をするようになったという稟告がありましたので、聴診をしてみたところ、かなりはっきりと大きく全収縮期雑音が聴取されました。

飼い主様に、一度時間を取って胸部エックス線検査と心電図、心エコー図検査を実施して確定診断をしてから、お薬の内服による治療をした方が良いとお伝えして。先日お昼の休診時間に1時間ほど時間を取って検査を実施しました。

検査をしてみると、エックス線検査では胸の容積に対して心臓の体積が幾分大きくなっている感じです。

心電図検査では、そんなに大きな変化はありませんでした。

心エコー図検査では、僧房弁からの逆流がはっきり観察されます。

この図は、カラードップラーという検査の画像ですが。血液が扇形の頂点のプローブに近付くように流れると赤く映り、遠ざかるように流れると青く映るという現象を利用して、心臓の中の血液が一定方向に流れているのか?逆流により乱流が生じているのか?を見るものです。

線で囲まれている部分の上の方は左心室で。青一色になっているのは、一定方向に流れているという事ですが。下の方が赤青黄緑の賑やかなモザイク模様になっているのは、この部分で乱流が生じていることを現わしていて、ここは左心房なのです。青の部分とモザイクの部分の接合部は僧房弁であります。

つまり、この図からは、僧房弁がきちんと閉まらなくなっていて、心室が収縮する時に逆流が生じているということです。

反対側、右心室と右心房を区切っている三尖弁の評価は。

逆流はほんの少し生じているものの、そんなに気にしなければならないほどのものではないという結果でした。

次に、大動脈径と左心房径の比率を計測します。健康な犬の場合。その比は大体1対1くらいに収まるのですが。この子の場合は、画面下側のLA/Ao   1.58  という数字にあるように、大動脈径1に対して左心房径1.58と左心房が大きくなっていることが判ります。
これは、左心室収縮時に左心房に向かって逆流が生じるために左心房の圧が上昇して、結果として左心房が拡張して来ているということであります。

病気は、それなりに進行しているということですね。

以上の検査結果と、全収縮期性心雑音、夜間にする咳の症状から、初期からやや進みつつある僧房弁閉鎖不全症と診断しました。

さて、せっかくエコー検査をしていることですし。時間もありますし。飼い主様が腹部の毛を刈っても良いとの許可を下さいましたので。腹部エコー検査もサービスでさせていただくことにしまして。

肝臓をまず最初に探査してみたところ。

画面左側に黒く映っている胆嚢の右側に大きく見えているのが、ここには本来あるはずの無い腫瘤(マス)です。

嫌な物を発見してしまいました。

肝臓以外の、左右腎臓、膀胱、脾臓、副腎、腸管は異常無しでした。

飼い主様には、僧房弁閉鎖不全症であること。多分ですが、お薬でコントロール可能であり。お薬を使用すれば進行も幾分遅くすることが出来るであろうこと。
この病気の内科的治療のゴールは、動物が死んだ時であり。治療成功は、その動物が僧坊弁閉鎖不全症で死ななかったこと、及び僧房弁閉鎖不全症で苦しまなかったことをもって成功と評価するということなどを説明させてもらいました。

飼い主様は、とりあえず心臓のお薬の処方を希望されて。肝臓のマスの治療については、家族でしっかり話し合いをした上で考えるということでした。

僧房弁閉鎖不全症の治療には、外科的に僧房弁の再建をするという方法もありますし。人間だったらこの病気を発見したらさっさと手術をやってしまうことがほとんどのようですが。

手術については、相当な金額がかかるということ。心臓を開く手術ですので、それなりに危険が伴うことがあります。また、弁膜症を患う犬はキャバリア以外では大抵が高齢の場合がほとんどですから。術後にどれくらいの寿命が残されているのか?というコスパの問題も、それなりに重要かと思います。

過去に当院から、僧房弁閉鎖不全症の手術を標榜するさる高度医療センターに患者様を紹介させていただいたことがありますが。
大変残念なことに、その患者様は手術の後急変して亡くなってしまったという、大変苦い経験があります。

それからは、この病気の手術については、私も随分慎重に考えるようにしております。

多くの飼い主様は、愛犬、愛猫が永遠に生きることは不可能であるということをきちんと理解されております。そして、大切な我が子が、せめて生きている間は、苦痛無く気分良く生活出来ること。その期間がそれなりに長く続くことが最も大切な事であるというお考えをお持ちだと思います。

私は犬猫の臨床に携わる者として、飼い主様の想いを大切にして、愛犬愛猫たちが苦痛の無い快適な生活を送れるように頑張って仕事をして行きたいと考えております。

ではまた。