兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2013 10月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2013年10月

犬の食物アレルギー性皮膚炎

今日の症例は、2年半前に他院から転院して来られたダックスフントの男の子です。現在12才と2ヶ月令です。

生後1年半くらいから、皮膚の痒みと脱毛に悩まされていて、他院でステロイド内服による治療を行なっているのだが、著効はなく何とかならないか?ということで、当院に転院されたという事でした。

当院では、まず原病をはっきりさせたいということで。細菌や真菌の2次感染を、皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験を実施して、その結果に基づく抗菌剤の投薬をおこなったり、殺菌剤入りシャンプーで洗浄したりして、それなりの改善を認め。

麻酔下での皮膚生検と採取した材料の病理検査を実施して「萎縮性皮膚炎」という結果を得たりしたのですが。なかなか上手く行きません。

食事性アレルギーについても、その当時免疫グロブリンによらない、リンパ球に直接反応する食物有害反応(Ⅳ型アレルギー)に対応しているという加水分解タンパクを使った処方食を試していましたが、良い結果は出ませんでした。その時に使用した処方食は、唯一の弱点が澱粉質の材料としてポテトを使用しているということでした。

ただ、飼い主様は加水分解タンパク使用の処方食を与えていながら、よくよく訊いてみると、その他の食事を与えていたりしてました。

これは食事療法を試みる上で致命的な事であります。

しかし、飼い主様もその食事療法の重要性とか意味とかが実感されていなかったようですし。私の伝え方ももうひとつだったのかも知れません。

その後、一時膵炎に罹患したりして、いろいろ大変だったのですが。

基本的には皮膚の細菌培養と感受性試験を繰り返しながら、抗菌剤を使用して2次感染による悪化を防ぎつつ、ステロイドホルモンの内服を中心とした治療を続けていました。

今年になって、飼い主様が当院から遠く離れた京都府に近い田園地帯に引っ越されまして。なかなか気楽に来院することが難しくなったということもあって。

最近当院でも実施することにした、動物アレルギー検査株式会社のアレルギーの血液検査を実施したらどうですか?とお伺いを立てたところ。

やってみようという同意を得ることが出来ました。

私は以前にはアレルギーの血液検査を実施することもありましたが。送られて来る結果は解釈が難しくて却って何が何やら判らなくなってしまうようなものがほとんどでした。

また、Ⅳ型アレルギーの検査をやってくれるところは今でも動物アレルギー検査株式会社以外には存在しないと思いますし。

免疫グロブリンの検査データも免疫物質の量をしっかり量ってくれているようなので。その結果が本当に臨床に使えるもののように感じております。

動物アレルギー検査株式会社のアレルギー血液検査を実施する場合。私はまずアレルギー強度試験という項目を行ないます。
これは、血液中のリンパ球の反応により、その子がアレルギーを生じやすい状態になっているのかどうか?と調べるものです。

ダックス君の結果は以下の通りでした。

普通、アレルギーを疑って検査を始める場合。この強度試験が基準値以下の場合には、その犬の皮膚炎がアレルギー以外の原因で生じている可能性が大だと判断して、それ以上の検査を行なわずに、アレルギー以外の痒みを生じさせる皮膚炎を追求して行くことになりわけです。

上記の結果は、参考基準値以上ですから。ダックス君の皮膚炎はアレルギー性のものである可能性が非常に高いと言えると思います。

そこで、そのアレルギーがアトピーという1型アレルギーによるものか?リンパ球が直接関与するⅣ型アレルギーによるものか?アレルギーの原因物質は何か?という検査に進むことにします。

順番に見て行くと。

免疫グロブリンが関与するアレルギーは否定されております。

 ところが、リンパ球が反応するアレルギーに関しては。まず一般的な食材では。

小麦が完全に陽性であって。牛乳が怪しいという結果でした。

最後に、普通新規蛋白を売りにしている除去食で頻繁に使われている食材を調べてみると。

ジャガイモが陽性となっていて。タラが要注意です。

これで、最初に実施した加水分解タンパク食が上手く行かなかった原因がはっきりしました。あの食事はジャガイモを使用していたのであります。

この結果を飼い主様にお示しして。今後は当院がお勧めする新しい加水分解タンパクを使用した食事とお水のみで生活させるようにとお話ししました。

本日の来院では、完璧な加水分解タンパク食を使用し始めて約1ヶ月になるのですが。随分皮膚症状が改善しておりました。

画像ではまだ脱毛している場所がありますけれども。元々はこんなものではなかったですから。

後1ヶ月も続けていれば、相当良くなって行くのだろうと予想されます。

飼い主様も、血液検査で得られたエビデンスに基づく処方ですから。今回は指示に正確に従って下さっているみたいです。

ダックス君。生後1才半から今まで10年以上も痒みと闘って来たと思うと、本当に良く頑張ったことと思います。この度のアレルギーの血液検査を思い切って実施して本当に良かったと思います。

ダックス君も飼い主様も何時までも元気で幸せに過ごせますように。

 

 

猫のつぼ型吸虫

約2週間前に保護された、生後推定で3ヶ月令になる黒猫ちゃんですが。

先週と今日、虫が出たということで連れて来られました。

どんな虫が出たか?と訊くと輪ゴムのような感じの虫だということですから。回虫ではないか?と思うのですが。実物を持って来られていないので、確証に乏しいところもあります。

保護した翌日に市販の虫下しを与えたということです。ホームセンターなどで販売されている虫下しは、事実上回虫くらいしか落とす効果を持っていませんので。猫ちゃんが排出虫はそのことからも回虫の可能性が高いと思います。

猫ちゃんはひどく痩せていて、腹部を触診してみると、異常なくらい腸管が太く硬くなっています。

便は持参していないということですから、念のために小さなスプーンを肛門から直腸内に挿入して、便を少量掻き取り、直接塗抹法で検便を行なってみました。

すると、出て来たものは、つぼ型吸虫という、自然豊かな環境で猫ちゃんに寄生する寄生虫の卵でした。

仔細に見て行くと、結構沢山の虫卵が見えたりしています。

 つぼ型吸虫は、ウィキペディアで検索すると書きかけの記事がヒットします。アドレスは以下の通りです。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%BA%E5%BD%A2%E5%90%B8%E8%99%AB%E7%97%87

この虫を駆除するには、瓜実状虫の駆除薬と同じお薬を、瓜実状虫を落とす時の6倍投与する必要があります。お薬には内服薬と注射薬がありますが。投与量が多いので私は注射薬を使用するようにしています。

ただ、なかなかしぶとい寄生虫でして。1回で駆虫出来ない例も見られます。その時には落ちるまで何回も駆虫をかけなければなりません。

1回で駆虫出来て元気になりますように。

 

 

犬用11種混合ワクチンが出ました

もう1ヶ月前になりますが。京都市の微生物化学研究所(京都微研)から犬用の11種混合ワクチンが発売されました。

 

グリーンピース動物病院は、早速問屋さんから購入しまして。まず自分の犬たちに接種してみて。それから従来9種混合ワクチンを接種していた患者さんが来院された時に、新しいワクチンの話しをするようにして、希望される方には9種と同価格で11種混合を接種し、その経過とか見てました。

今のところ10数例と少ないですけれども、異常な接種反応は観察されていません。医薬品ですから国の承認を取って発売する前に厳しい安全審査があって、それをクリヤーして来ていますから、安全は当然のことであります。

さて、この11種ワクチンの特徴はと言えば。

従来の9種混合ワクチンと比べると、レプトスピラという細菌性の伝染病の血清型が2種追加されているということです。

追加された血清型は、レプトスピラ・オータムナリスとレプトスピラ・オーストラリスという型でありまして。
従来9種に混合されていた、レプトスピラ・イクテロヘモラジー、レプトスピラ・カニコーラ、レプトスピラ・ヘブドマティスの3種類の血清型と共に我が国で発生しているレプトスピラの多くを占める型であります。

レプトスピラ病は、ネズミ等のげっ歯類がベクター(病原体を保毒して媒介源になること)となって、その尿に汚染された溜まり水や湿った泥が、犬の眼や鼻、口、傷口に付着することにより病原体に感染し。肝臓や腎臓に炎症を起こします。重症例では死に至ることが普通でして。怖ろしいことに人間にも感染する人獣共通感染症でもあります。

レプトスピラ菌の大きな特徴は、高温多湿を好み、低温乾燥に弱いということです。つまり、気候冷涼なヨーロッパとか米国中北部ではそんなに重要な感染症ではないということです。

一方、我が国の場合。特に初夏から秋にかけては降雨量も多く気温も高く、まさにレプトスピラ菌の好む高温多湿状態であり。アウトドアでの行動機会の多い犬たちにとっては非常に危険な病気なのであります。

しかし、先に書いたように、米国や欧州ではそんなに重要な感染症ではないということから、これらの国から輸入される犬用ワクチンに入っているレプトスピラワクチンには、血清型としてレプトスピラ・クテロヘモラジーとレプトスピラ・カニコーラの二つの型しか入っていないのが普通でして。犬の輸入ワクチンは必ずしも我が国の伝染病発生の実情に対応したものではないのです。

先般、さる米国のメーカーの、レプトスピラが4種?くらい混合されていますというワクチンが新たに輸入販売されたようですが。レプトスピラの流行する血清型には地域によって特異性があるのでしょう。聴いたことの無い血清型が混合されていて、我が国の状況には全く対応不可であると判断させていただいたような次第であります。

今回の11種ワクチンの発売により、我が国の犬たちのレプトスピラ感染が激減することと期待しているところであります。

グリーンピース動物病院では、子犬の予防接種については3回目に、成犬では年に1回の追加接種の際に、従来の9種混合ワクチンから徐々にこの11種混合ワクチンに切り替えて行く予定であります。

なお、料金については仕入れ価格は9種よりも高いのではありますが、企業努力により11種については従来の9種と同価格で接種するように致します。