兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2013 6月
院長ブログ

月別アーカイブ: 2013年6月

ジャーマンシェパード若犬のイレウス

もうすぐ1才になるジャーマンシェパードの男の子の話しですが。

前日から嘔吐し始めたということでの来院でした。

血液検査と腹部エックス線検査では決め手になるような所見は得られませんでしたので。とりあえず注射を3本打って1日様子を見ましたが。改善しませんでしたので。飼い主様の言う「何でも飲み込んでしまう。」という事を追求すべく、バリウムによる消化管造影を試みました。

口にバイトブロックを装着して、胃チューブを使ってバリウムを250ミリリットルほど注入します。

撮影は、造影直後と、1時間後、2時間後、3時間後という感じで実施します。

3時間後の側面像でここに異物が?と思われる陰影が見られました。

画像右下部分の腸管にわずかなくびれが見えることと、その部分の口側に急にバリウムの濃度が薄くなる部分があります。

午後から予定が入っていた手術を夜に残業して実施することにして。試験的開腹を行ないました。

お腹を開いて、胃から順に消化管を触って調べて行くと、空腸という部分に何かが詰まって動けなくなっているのが見つかりました。

開けてみると、テニスボールの破片が出て来ました。

異物を摘出した腸管の傷を縫合して、閉腹する前にもう一度胃から直腸まで消化管を手で触って精査して別の異常が無いかどうか確認します。

具合の悪い場所は、テニスボールの1ヶ所だけだったようです。

腹膜、腹筋、皮下織、皮膚と順に縫って行って、麻酔導入から約3時間弱で手術は終わりました。

試験的開腹となるとどうしても切開創は大きくなりますが。傷が癒合するのに要する期間は大きくても小さくてもほとんど変わりません。

この子のように胃や腸を切開した動物は、術後は入院させて静脈輸液を続け、24時間後にはまず水を与えてみて、異常が無ければ残渣の少ない処方食を当ててて行きます。

シェパード君も、24時間後には水を飲んで、その後少量の食事を食べ。翌日には普通に処方食をどんどん食べて、お水も飲んで、手術から2日後の夕方には退院しました。

やんちゃで食いしん坊のワンちゃんについては、異物の誤嚥に特に注意する必要がありますね。

それにしても、今年は犬のイレウスの手術が多いです。一月に1件か2件はやっているように感じております。

 

手術の場合、開ければそこを縫ってやらなければなりません。

マンソン裂頭条虫

今日の午後診で3種混合ワクチンを接種に来られた猫ちゃんの話しですが。

私は、犬でも猫でも年に一度のワクチン追加接種の際には、なるべく検便と胸部聴診を欠かさないように心掛けています。

歳を経て心雑音が聴こえるようになって、心臓病の存在が明らかになる犬猫も居れば。消化管内寄生虫の感染が明らかになって、重症になる前に駆虫することにより事なきを得る事例も多いです。

この子の場合は、直接塗抹検便によりマンソン裂頭条虫という寄生虫の卵が発見されました。

検便は直接塗抹という方法と、浮遊法という方法と二通りの方法を同時に行なうことにより、検出可能な寄生虫卵のバリエーションが多くなります。

マンソン列頭条虫の卵は浮遊法では検出されることは普通はありません。この卵を見つけることが出来る方法は、直接塗抹法か、あるいは遠心集虫法と呼ばれるかなり手の込んだ検便のやり方になります。

それで、マンソン裂頭条虫とはどんな寄生虫かというと。自然豊かな土地に住んでいる、世間で「真田虫(サナダムシ)」と呼んでいる寄生虫です。真田という名前の由来は、和服の着付けに使用する真田紐という小道具に姿が似ているためと記憶しております。

マンソン裂頭条虫がどんなやり方で動物に寄生して行くのか?と言えば。まず、動物の腸管に棲んでいる親虫が卵を産んで。その卵が川や池の水の中に流れて行ったら。
そこでミジンコなどのプランクトンに食べられて。
そのプランクトンを魚やオタマジャクシたちが食べて。
その魚や、オタマジャクシが成長したカエルを犬や猫や人間が生で食べると、犬や猫や人間の腸管に親虫が寄生することになるわけです。

特筆すべきは、親虫が産んだ卵を、犬や猫や人間が直接口にしても、その卵はお腹の中で成長することはないということで。必ずプランクトンや魚やオタマジャクシなどの小動物の身体を経由しないと成長出来ないということなのであります。

因みに今日検便でマンソン裂頭条虫が発見されたにゃんこは、普段かなりワイルドな生活を送っていて。カエルやスズメやヘビや何やかやを狩りするのが日課だということでした。

このまま寄生を放置していると、お腹が具合悪くなったり、最悪虫が分泌する毒素にやられて神経症状が出たりすると言いますから、一応駆虫はしようという話しをさせていただいて。

この子の場合注射で駆虫しました。

しかし、猫にとって狩りをするというライフスタイルはなかなか改めることは困難だと思いますので。今後は定期的に検便を駆虫を繰り返す必要があると思います。

でもにゃんこちゃん。楽しい毎日を送っているのですね。ある意味素晴らしいことと思います。

今日も乳腺腫瘍でした

今日の手術の子は、高齢のアメリカンコッカースパニエルの女の子です。

この春先に、左耳に大きな腫瘍が出来てそれが自壊して大変な状態だったのを、大阪のネオベッツVRセンターに紹介させていただいて、そちらで左全耳道切除術を実施して何とか回復したところでした。

今回は左の乳腺に何ケ所も腫瘤が出来ていて、それを何とかして欲しいというお話しでした。

右の乳腺は全然何ともありません。乳腺という組織は左右の連絡がありません。もしあう性腫瘍が発生した場合には片側前後4個から5個ある乳腺の間で血液やリンパ管の流れで腫瘍細胞が移動して行く可能性があります。

乳腺腫瘍については、他の部位の腫瘤のような細胞診による悪性良性の判定はあてにならないので、基本的には外科手術による切除と病理検査が必要です。

今月の片側乳腺全摘出と卵巣子宮全摘出の症例数はこの子を含めて3頭です。

午前中から預かって、静脈カテーテルを留置し、そこから静脈輸液を実施して手術前の体調を整えます。

午後1時から麻酔導入を開始し、手術を始めました。

画像は手術前の毛刈りが済んだところです。向かって右側、犬の左側の乳腺には乳首が過剰に7個あります。腫瘤は乳腺の中程に数個見えると思います。

発情が先月にあって、その後ずっと下り物が続いているというお話しでしたので、子宮卵巣の異常を予想していたのですが。子宮の状態は思ったよりも正常に近かったです。下り物は赤色でサラサラとしか感じでしたので、発情が長引いていたのかも知れません。

お腹を開けると、腹腔内脂肪の中から妙に大きな腫瘤が出て来ました。一応採取して病理に出しておきました。

手術は意外に時間がかかって、午後4時頃に終わりました。

長い長い傷です。縫合は外科用クリップも併用しましたが、かなり時間がかかりました。

本当に何回も書きますが、繁殖予定の無い犬は男の子も女の子も去勢手術避妊手術を思春期前に実施することによりこのような生殖器関連の病気に罹患しなくなります。繁殖をさせるのであればそれはそれで素晴らしいことと思いますので、頑張って欲しいのですが。

繁殖予定の無いワンちゃんの飼い主様についてはご愛犬の生涯全体の得失をよく考慮されて、避妊手術去勢手術も検討していただいきたいと思う次第です。

さて、そして、この度取った腫瘍が良性で、この子が幸せに長生き出来ますように。

 

 

 

育て過ぎ

何を育て過ぎたって?

乳腺腫瘍です。先日初診で来院されたミニチュアダックスフントの未避妊の9才5ヶ月令の女の子ですが。3ヶ月前に乳腺腫瘍が気になって、その後どんどん大きくなって来て。

来院時には、有り得ないくらい大きく育ってしまってました。

外科的対応を希望されたので、すぐに院内の血液検査(全血球計数、血液生化学検査ひと通り)と外注の血液凝固系検査、胸部腹部のエックス線検査、コンピュータ解析装置付き心電図検査としっかり術前検査を実施して、来院2日後に乳腺腫瘍の摘出と卵巣子宮全摘出の手術を行ないました。

麻酔導入後仰向けに保定して、毛刈り消毒の前の状態です。

準備が整って、切皮直前の態勢。

術中の過程は省略して、手術終了直後の状態です。

しかし、疲れました。何とか取り切ったとは思いますが。3ヶ月で急速に大きくなっているという事はまず悪性の乳腺癌の可能性が高いです。

乳腺癌は転移や再発の起きやすい厄介な悪性腫瘍で、切除時点のサイズが大きければ大きいほど転移している可能性が高いですし。今回でも切除に結構な労力を要したのですが。
まだ腫瘍が小さい頃に手術させてもらえれば、転移の可能性も少なく。手術も比較的容易です。

繁殖予定の無い犬の女の子の場合、最初の発情が始まる前に卵巣子宮全摘出を実施すれば、その子の乳腺腫瘍の発生率は、何にもしなかった子に比べると200分の1であるという統計的データが発表されていて既に定説になっているとのことです。

自然のままの犬を飼育するのも一つの楽しみかも知れませんので、避妊去勢を絶対的に強制するつもりは毛頭ありませんが。

避妊手術、去勢手術を受けた犬たちは受けなかった犬たちに比べて病気になる確率が低くなり、長生きするという情報をお伝えして、避妊手術去勢手術を選んでいただく努力は惜しまないようにしているつもりです。

本日手術2日後に来院して、術後の経過を診させていただきましたが、経過としてはまあまあ順調な方だと思います。

鬱陶しい巨大腫瘍が切除出来て良かったと思います。でも、次回があるとするならば、次はここまで育てないように早目に受診していただきたいと切に願う次第であります。

ではまた。

 

 

糸球体腎症の疑い

このところ、フィラリア予防のセット検査やシニア検診で高コレステロール血症が発見されるワンコが数件続いています。

コレステロールや中性脂肪の数値が高い状態を高脂血症と言いますが。
中性脂肪は食事との時間関係で大きく変動します。食後間無しだとかなりの高値に達し、場合によっては採血した血液を遠心分離すると上澄みが乳白色に濁るくらいになる場合もあります。
一方のコレステロール値は中性脂肪ほどには食事によって激しくは変動しないようです。

で、高コレステロール血症の子の場合に、その原因はホルモンのバランスの失調、特に甲状腺機能の低下、また腎臓疾患、肝臓疾患などが挙げられます。

特に高コレステロール血症に尿蛋白が多い状態、それに加えて低アルブミン血症が存在していると、腎臓疾患として糸球体腎症が強く疑われるわけです。

糸球体腎症は犬の進行性腎不全の主原因とされているようですが。今まで診断した経験は少ないです。

今回糸球体腎症を疑っている2頭の犬のうち1頭は11才のイングリッシュコッカースパニエル去勢済み男の子です。この子はシニア検診で尿蛋白が4プラスとかなり濃く検出されて、血液検査を見てみるとアルブミンの低値と総コレステロールの高値が確認されました。

で、尿蛋白クレアチニン比、及び尿中微量アルブミンクレアチニン比を検査センターに外注してみました。

返された結果を見ると、尿蛋白クレアチニン比は基準参考値が0.5以下のところ2.8で、尿中微量アルブミンクレアチニン比は基準参考値0.10以下のところ1642という高値であったのです。

この結果から、この子は腎臓から血液中のアルブミンという蛋白質が継続して漏れ出ているということが言えると思います。

もう1頭の子の場合、この子は9才2ヶ月令のシェトランドシープドッグの女の子ですが、フィラリア予防の際に行なう血液検査にサービスで実施しているセット検査で、尿素窒素とクレアチニンが高く出て、それに低アルブミン血症と高コレステロール血症が併発していたところから、糸球体腎症を疑うに至ったわけです。後日尿検査を行なってみたところ、尿蛋白は3プラスと高値でした。

現在尿蛋白クレアチニン比と尿中微量アルブミンクレアチニン比を外注しているところですが。

尿蛋白クレアチニン比が先に返って来て、3.44という高値です。恐らく尿中微量アルブミンクレアチニン比も高値で返って来るような気がしています。

さて、それからどうするか?ですが。

糸球体腎症の確定診断は、腎生検をしなさいと教科書には書いてございます。

腎生検とは、麻酔下で超音波ガイドでのツルーカット生検もしくは開腹による腎の部分切除を実施し、得られたサンプルを病理検査に出すという事なのです。

しかし、ツルーカット生検も、腎の部分切除も、検査の後の出血が心配なのと、傷んだ腎臓に傷をつけるという点において、かなり心理的抵抗を感じます。

糸球体腎症の治療は、少し前の教科書を見ると、ステロイドホルモンや免疫抑制剤を使うように書いてありますが。2012年発売の国内の一線級の臨床獣医師の治療法紹介の本を開いてみると、ステロイドホルモンや免疫抑制剤は推奨されておらず、抗血小板薬とかコルヒチンというお薬とか、ACE阻害剤という血圧を下げるお薬とかを組み合わせて治療すると解説してあります。
そして、治療はかなり困難だということでした。

さて、そんな難しい症例ですが。腎生検をどうするか?

ここまで間接的な証拠がそろっているのであれば、糸球体腎症とみなして治療を開始して、治療効果は尿蛋白とか血液のアルブミン値や総コレステロール値等の検査結果を指標にして治療を開始するのは、間違いなのか?

場合によっては大学の先生に相談して決定しようか?と思案しております。

 

 

犬の自虐 常同障害?

D君は、12才と6ヶ月令になる雑種犬の男の子です。

2005年頃即ち5才の頃から、お尻や尻尾の毛や皮膚を咬む行動が目立つようになり、普段と違う場所に入れたりすると頻繁に咬む傾向があるということでした。

試しに皮膚病として治療を試みたこともありましたが、全然反応が見られませんでした。

飼い主様には、皮膚病というよりも行動異常に分類される症状の可能性が高いという話しをして来ましたが。

そのうちに、とうとう皮膚が破れるくらい激しく咬むようになったのと、グルグルと激しく回るという異常行動が発現したために、再来院された時。

たまたま猫の症例で肛門嚢の内容が溜まり過ぎてお腹や肢の毛を舐め削ってしまうのを、肛門嚢を絞ることで改善することがあるというのを、大学の獣医内科系の先生に教えてもらったことがありましたので。

肛門嚢を触ってみると異常に膨れていて、それを絞ってやると大量の内容物が出て来ました。本当に有り得ないほどの量でした。
同時に、抗不安薬を2種類ほど組み合わせて処方してみました。

1週間後に経過観察のために来院された時に、飼い主様は治療により劇的に異常行動が消失して落ち着いた状態になったという話してくれました。

その後、肛門嚢は飼い主様が絞り方を覚えて定期的に絞るようになって。しばらく投薬を続けていたのですが。

投薬中は良好であっても、2日か3日休薬するとてきめんに咬むようになるということで、投薬を継続しているような状態です。

最近、フィラリア予防に先立つ血液検査の際に、セットで検診的な詳しい内容の検査を実施してみたところ。
アルカリフォスファターゼの数値が2050IU/Lと著しい上昇が見られて。よく聴けば多尿多飲の症状もありそうだということであります。

クッシング症候群の可能性もあるので、検査と治療をお勧めしているところです。

D君、生きて行くことは本当に大変なことでありますが。何とか心安らかに生活が出来るようになって欲しいと思っております。

フィラリア予防の落とし穴

狂犬病予防注射とフィラリア予防のために初めて来院された4才8ヶ月令フレンチブルドッグの女の子の話しですが。

狂犬病予防注射を接種しながら、話しを聴いていくと。今年は既に1回は昨年の残りの滴下剤のフィラリア予防薬を使用したということでした。昨年の最後の予防薬は10月の末に使用して終わったとのことでした。

フィラリア予防の際には、面倒に感じることもありますが、毎年予防薬投与前に血液検査で前年の予防状況を確認する必要がある旨説明して。

血液検査に同意が得られましたので採血しました。

結果を見てびっくりです。

犬フィラリア成虫に対する抗体が陽性と出ました。

右側に見える検査キットの窓の反応が、左側の説明用小パネルの陽性と同じ反応になっているのが判ると思います。

フィラリア予防薬は、滴下剤とか内服用錠剤とか食べるタイプとか、年に1回の予防注射形式とか、いろいろあるのですが。基本的に能書の通りに使用していれば効果は確かなお薬ばかりだと思います。

ただし、獣医師の個人責任で、馬や牛や豚などの産業動物に使用される同様の成分のお薬を、希釈して処方する先生がおられますが。私の経験では、そんな先生のところから転院された子に、予防の失敗例が多く見られています。

獣医師は、原価が安い薬に欲に駆られて飛び付くのではなく、予防薬くらいはきちんと認可が下りた正規のお薬を使用して、飼い主様の安心安全の要望にお応えする必要があると思います。

今回のフレブルの女の子の場合、多分ですが、正規のお薬を使用していたと思いますが。使用方法に何処か能書と異なる点が存在していたのかも知れません。

犬フィラリアに感染した犬に、予防薬をいきなり投与すると、ショックを起こしたり急性フィラリア症を発症する可能性がありますから。

この子にはショックを防ぐためのステロイドホルモンを同時に処方します。

当院でのフィラリア予防を2年から3年実施して行きますと、通常は3年から5年と言われているフィラリアの寿命が短くなるようで。大抵は3年目でフィラリア成虫抗体検査が陰性に転じています。

何事も基本が大切なんだなあと、強く実感された出来事でした。

 

 

 

ポメラニアンの消化管内異物

今日の症例は、10才と3ヶ月になるポメラニアンの女の子です。

この子は6月2日に、前日から吐くようになり、食欲が低下したということで来院されました。排便はあるがやや軟便とのことでした。

飼い主様の話しを聴きながら、ワンコの様子を見ていて、カルテに記載している既往を確認して行くと、2009年に肝障害を患ったことがあります。

血液検査をすることにしました。

打ち出された結果では、総コレステロールの高値、アルカリフォスファターゼの高値、BUNとリパーゼが少しだけ高値ということでしたが、特筆すべきは炎症マーカーである犬CRPが7.0mg/dlオーバーという異常な数値です。

この時点でもっと詳しく腹部エックス線検査をすべきかどうか?ちょっと迷いました。

でも、ワンコの表情はそんなに苦しそうでもなさそうですし。

犬CRPの数値が高いのがすごく気になるので、お薬を内服させても症状が悪化するようであればすぐに来院するようお伝えした上で、とりあえずの処方として胃腸炎対応のお薬の組み合わせをお出ししました。

しかし、翌日に電話があって、症状は進行して食欲がいよいよ少なくなったこと、下痢もしていること、投薬が出来ないということでしたので、来院するようお伝えしました。

来院したワンコに腹部エックス線検査を実施してみたところ、胃の中には大量の内容物が充満しているのに、胃から後ろの腸管にはほとんど内容物が見られません。何かひどく不自然です。

リパーゼが高かったことも気になりましたので、採血して血清を東京のアイデックスラボラトリーズに送り、犬膵特異的リパーゼを測定すると共に。

ガストログラフィンというヨード系造影剤を胃チューブで胃に流し込んで、消化管造影を行ない、1時間毎にエックス線撮影を実施しました。

画像はガストログラフィン投与後16時間のものですが、液体成分はちゃんと直腸末端まで到達しているものの。胃の中の固形物は全然変化がありません。

どうもおかしいです。

そして、エックス線検査を実施しながら、念のために前腕に静脈カテーテルを留置して乳酸リンゲル液を輸液していると、ワンコは急に吐きました。

吐いた物を見てびっくりです。足拭きマットの繊維みたいな繊維の塊でした。

飼い主様に確認すると、思い当たる節があるとのことです。

これは試験的開腹をするしかないと決断し、飼い主様の了解を取り付けて、4日の午後に手術を決行しました。

麻酔導入後気管挿管をして、ガス麻酔で維持しつつ、お腹を開いてみると、やはり、吐いた物と同じ繊維製の異物が胃に充満しております。


引っ張り出してみると。結構長い繊維です。緑っぽい色でしたので、まるで茶蕎麦を吊り出したような雰囲気でした。


胃は綺麗に掃除して、2重に縫合してお終い。

でも、ここで安心してしまって閉腹するようでは、不十分です。長い繊維製の異物ですから、腸管に行って悪いことになっている可能性大です。

腸管も引っ張り出して、十二指腸から近位結腸まで丹念に探ってみますと。ありました。

長い繊維性異物が腸管に引っ掛かって、腸管がアコーディオンの襞の如くに、シワシワになっています。この状態が長く続くと腸管が切れて腹膜炎を起こして死ぬ怖れがあります。

こっちの異物は相当長かったです。腸管の切開は最小限で済みましたので、縫合も比較的楽でした。

総ての異物を摘出して閉腹完了しました。午後診開始の少し前でした。取り出した異物をワンコと比較してみると、結構沢山食べていたのにびっくりです。

その後ワンコは順調に回復して、手術2日後の本日朝から旺盛な食欲を見せてくれて、 本日夕方に退院して行きました。

本当に良かったと思います。