兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 2013 1月 13
院長ブログ

日別アーカイブ: 2013年1月13日

01/13 皮膚の痒み

2才を過ぎたばかりのイエローのラブラドール女の子の話しですが。

昨年から微妙に身体の痒みを訴えるようになりまして。手足の先とか耳の付け根とかを掻いたり咬んだりしていました。

痒みの診療は、皮膚の寄生虫(疥癬、ニキビダニ、蚤)、細菌感染症、真菌感染症などの痒みを引き起こす「治る」病気を順に除外して行って。

「治る」原因が除外されたら、ステロイドホルモンを投与してみて。

ステロイドホルモンで痒みが劇的に消失するようであれば、初期のアトピー性皮膚炎の可能性がかなり高くなるし、痒みがある程度ましにはなっても消失はしないということであれば、食事性アレルギーの可能性が高くなるわけです。

食事性アレルギーの場合、免疫グロブリンの作用による真正の食物アレルギーと、リンパ球の反応による食物有害反応とに分かれるらしいのですが。
飼い主様とワンちゃんにとっては、何かを食べると皮膚が痒くなるということでは一緒であります。

このラブちゃんの場合、皮膚に住む細菌を駆除する抗生物質も細菌培養と薬剤感受性試験を行ないながらいろいろ試しましたが、抗生物質で痒みが改善することはありませんでした。

真菌培養の検査では、ダーマキットという皮膚糸状菌の検出によって培地が赤変する培地で、それなりに赤くなるという結果が得られまして。

3本並んだダーマキット培地の真ん中がラブちゃんの検体で。左が真菌性皮膚炎と治療によっても確定した子ので、右が多分違うだろうという結果です。

皮膚の細菌や真菌を殺菌するシャンプー剤と抗真菌剤の内服も試みましたが。やはり効いてくれません。

皮膚の寄生虫は、2回は皮膚掻き取り試験を実施しました。これは皮膚をメスの刃とか、鋭匙で削り取って、薬品でその皮膚のサンプルを溶かして、顕微鏡で観察するという検査ですが。

ラブちゃんの掻き取りの検体からは寄生虫は検出されませんでした。

掻き取り試験の場合、完全な除外診断にはなり難いという特性はありますが、2回の掻き取りで陰性ですから、一応その結果は考慮しました。

残るはアレルギーか?という段階になって、ここで試したのが、理研ベンチャー企業によってここ数年前から行なわれているアレルギーの血液検査です。

動物アレルギー検査株式会社の提供する血液検査には、環境中の抗原とか食事中の蛋白に対する血液中の免疫抗体の有無を見る「アレルゲン特異的IgE検査」と、食事内容がリンパ球に及ぼす影響を見る「リンパ球反応検査」それに、体内でがアレルギー反応を生じているのかどうか?という事実を判定する「アレルギー強度試験」の3種類の検査項目があります。

飼い主様と相談の上、まずアレルギー反応が体内で生じているのか?生じているのであればどれくらいの強さなのか?ということを判定するために、「アレルギー強度試験」を実施してみようということになりました。

結果は、参考基準値という、昔は正常値と称していた数値の範囲内に収まりました。

ただ、年齢が2才以下と以上とで、参考基準値が2倍近く違うのがどうなんだろう?という疑問が残ります。ほんの4ヶ月以前にこの検査を実施して同じ数値が出れば、アレルギーですよという話しになるわけですから。

しかし、グレーゾ-ンはそれとして、とりあえずアレルギーを疑わないことにしようと判断して。

痒みを生じる要素を再度見直すことにしました。

その一つが、犬の皮膚にトンネルを造って棲んでいる犬疥癬虫を駆除する注射の実施です。
私は犬疥癬を駆除するに当たっては、注射剤を使用し、週に1回合計3回の注射を実施しています。
この注射は非常に強力でして。疥癬が居れば必ずと言って良いほど駆除が出来ます。

ただし、注射で死んだ疥癬の虫体が生きている時よりもはるかに強力なアレルゲンとして皮膚に作用するということで、診断が中っていて注射が効いていても、一時的に痒みが倍増することがあると言います。

飼い主様にはその旨をお伝えしながら、注射を実施したところ。 3回目の注射を打つ頃になると、それまで大変だった痒みが劇的に改善して来ました。

現在は足先の僅かな痒み以外はほとんど問題無いということであります。

彼女の結果は「疥癬」ということになりましたが。疥癬が何処で感染したのか?判りません。
ただ、疥癬の原因のダニは犬だけでなく狐や狸も感染していて、犬の感染源になることもありますので。あるいはそんな野生動物由来の疥癬だったのかも知れません。

何はともあれ、ラブちゃんの苦痛が軽減されて良かったと思います。