昨日夕方に電話がありまして。
「大阪からですが。今かかっている動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。そちらで手術が出来ますか?」
という内容でした。
手術は出来ることと一応の予算とかお伝えしますと。そこの動物病院では手術は出来ないのだが。紹介先の手術料金が私のと比較すると4倍近くになるということで。「明日行かせていただきます。」ということでした。
飼い主様のお仕事の都合で、本日昼前に来院でしたが。
まず、心音を聴取してみますと。ガリガリガリッという急性フィラリア症特有の心雑音が聴こえます。
次に急性フィラリア症という診断が正しいのかどうか?を判定すべく、決め手になる心エコー図検査で確認します。
図の左下に→で示しているのが、右心房に存在しているフィラリア虫体です。慢性フィラリア症ではこの部分ではなくて、肺動脈にフィラリアが見えるはずなのですが。右心房に虫が見えることから、急性フィラリア症という診断で間違いないです。
わんちゃんは、診断からまだ日が浅いこともあってか。まだ元気です。しかし、大切にされている感じなのに。一体どうしてフィラリアのような、ある意味レベルの低い感染症に罹ってしまったのでしょうか?
お尋ねしてみると。予防はやっていたのだが。予防薬の服用期間が6月初めから10月初めまでと。ひどく短くて不適当であったということ。それも、今回急性フィラリア症であると診断された動物病院とは別の動物病院の指示による服用期間だったということでした。
フィラリア予防薬は、一般的な内服薬の場合、5月末から12月末まで、月に1回ずつ、合計8回の内服が必要なのです。
それと、私の動物病院に受診する気になられたのは、必ずしも料金だけの問題だけではなくって、グリーンピース動物病院のHPや私のブログをお読みになって、きちんと治してくれそうだという感触を強く感じられたからだということでした。
手術についてひと通り説明させていただき。同意を得たので。血液検査を実施して。待ち時間の間に昼食を摂らせてもらって。午後1時20分くらいから手術にかかりました。
血液検査の結果では。血管内溶血のためでしょう。軽い貧血と高ビリルビン血症、軽い肝障害が生じています。
後3日か4日放置されると、もっとすごいことになって行くと思われます。
麻酔導入を基本通りやって、午後1時50分くらいから切皮を始めました。
今日は助手無しでやります。基本的にフィラリアの吊り出し術は、アリゲーター鉗子の操作を丁寧にやれば、そんなに難しい手術ではありません。
ただ、ちょっとしたコツがありますけれども。それを身に付ければ1人で十分に遂行可能です。
左頸静脈を露出して、周囲組織と丁寧に分離します。
アリゲーター鉗子を頸静脈に開けた穴から心臓にまで挿入して、手探りでフィラリア虫体をつまみ出します。
画像ではごっそり引き出されているのがお判りになると思います。
最初の頃は鉗子を入れる度に虫が何匹もつまみ出されて来まして。そのうちに摘出される虫の数が減っていって。
最後の頃は、4回、5回と探ってみて虫が取れなくなったので。心音を確認し、心雑音が消失しているので、虫は取り切ったと判断して血管、皮下織、皮膚の順に縫合して、手術を終了しました。
取れたフィラリア虫は19匹でした。体重3.8キロの小さな犬なのに。19匹とは大変な数だと思います。
覆い布を取り除いて、傷に創傷保護フィルムを貼って。覚醒を待ちます。
覚醒間近になったところで、飼い主様に撫でながら声をかけてもらいます。
無事に覚醒して。入院室に入ってもらいますが。不安そうに鳴いたりしますので。落ち着くまで飼い主様に抱っこしてもらいました。
落ち着いた頃に。心エコー図検査を実施して。フィラリア虫が完全に取り切れているのか?確認します。
完璧に取り除かれています。執刀した獣医師としては、ホッとすると同時に嬉しく感じる瞬間です。
わんちゃんは数日お預かりして、術後の急変が無いかどうか確認して。金曜日くらいに退院の予定であることをお伝えしました。
先日ははるばる千葉から同じ病気で来院されましたのに。診断から日が経ち過ぎていて手術前に亡くなってしまいましたが。今日の子は無事に手術を乗り切ることが出来ました。
とても嬉しいです。後は入院期間を回復順調に過ぎて無事に退院出来るよう、もうひと頑張りです。