兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 軟部外科
院長ブログ

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5才のペキニーズの子宮蓄膿症

昨日来院された5才のペキニーズの女の子ですが。ここ1週間ほど食欲が低下して好物しか食べなくなっていたのが、来院当日の朝から下痢が始まったということでした。

このペキちゃんは、とにかく神経質な子で、飼い主様の娘さんが最近出産されて、お孫さんと一緒に里帰りする度にひどく嫉妬するのか?食欲不振に陥るのだということです。

しかし、一応検便に加えて血液検査と腹部エックス線検査を行なうことにしました。

検便では浮遊集虫法、直接塗抹法共に寄生虫は見つかりません。血液検査では総蛋白が高値ということ以外にはそんなに問題は無かったのですが。

腹部エックス線検査のフィルムを見ると。お腹の中に見えてはならない異常な陰影が見られます。

画像の矢印の位置辺りがそうなのですが。何か大きな塊状の物があるのです。

ペキちゃんは未避妊ですから、このような陰影を見れば、まず疑うのは子宮蓄膿症ということになります。

すぐに腹部エコー検査を実施したところ、陰影の正体はチューブ状になっていて内部に液体を貯めている構造であるということが判明しました。いよいよ子宮蓄膿症の疑いが強くなります。

当日午後には獣医師会の総会がありますので、ペキちゃんの状態から翌日の手術でも大丈夫だろうと判断して、乳酸リンゲル液の皮下輸液と抗生物質の皮下注射を実施して帰っていただきました。

午後に、獣医師会から帰ってみると、ペキちゃんの飼い主様から電話が入っていて、午後から2回吐いたのだが大丈夫だろうか?という事であります。

飼い主様も相当不安そうですし。その日のうちに残業して手術をしてしまうことにしました。

午後診の前に来院していただいて、前腕の静脈にカテーテルを留置し、乳酸リンゲル液をゆっくりと輸液しつつ午後診終了を待ちます。

午後7時から麻酔導入を開始し、お腹を開けてみました。

ペキニーズなどの短吻犬種の場合、軟口蓋の長さが異常に長くなっていて、それが咽喉に垂れ下がっていることが多く。ペキちゃんもそのために気管チューブの挿入に少し手間取りました。

開腹してみると、すぐにひどく腫大した子宮が現れます。

超音波メスを使用して速やかに摘出を行ないました。

私が手で保持しているのが腫大した子宮ですが。体重5キロ程度の小柄なペキニーズくらいだったら、細身のボールペンくらいの太さが正常です。それがバナナくらいの太さになっているのですから、大変なことになっております。

摘出した子宮をメスで突いてみると、濃厚な血膿が溢れ出て来ます。すぐに細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。

麻酔からの覚醒は順調で。夜間の状態も概ね良好で、私自身も一応生き物ですからずうっと見ているわけではなく、時々の容態観察のために細切れにしても睡眠は取りましたが、そう不安を感じることなく夜を過ごすことが出来ました。

夜が明けて、ペキちゃんは気分はかなり良さそうです。術中にモルヒネを使用したり、術後に3日間効果が持続するフェンタニルパッチという麻薬の貼付剤を使用しておりますので、疼痛はほとんど感じていないと思います。

しかし、手術前の状態がかなりの食欲不振があったりと、それなりに状態が悪かったのと、ひどく怖がりで神経質な子であるためか、手術翌日の午後に差し掛かってもまだ食事を食べようとはしません。

術後は数日間静脈輸液を実施して、普通に食べるようになれば退院という事になりますが。早く回復してもらいたいところであります。

でも、子宮蓄膿症。乳腺腫瘍と共に早期の卵巣子宮全摘出によって防ぐことが出来る病気です。牝犬を飼われている方は、繁殖予定が無いようであれば、早目に避妊手術を実施された方が良いと思います。

 

02/24 柴犬の腸閉塞

午前診に来院して来た若い柴犬ですが。

10日前から食欲不振に陥って。近医で検査すると肝臓が悪いということで、治療を受けているのだが、嘔吐が止まらず。昨日は尿素窒素もかなり上昇して来たという事で、点滴を受けたと。
しかし、嘔吐は続くということでした。

犬を触ってみると、ひどく痩せています。1週間食べなくてもここまで痩せることはないと思います。

治療を行なっているのにも関わらず症状が進行しているということは、好い加減な対応をしては絶対に駄目だということですから。

血液検査と腹部エックス線検査をまず行なって、その結果によっては腹部エコー検査が必要になるかも知れないと、連れて来た方にはお伝えしました。

犬をお連れになった方は、現役の泌尿器科の女医さんだということで、犬は御実家の飼い犬だそうです。

血液検査を行なって、それを今まで治療して来た獣医さんのデータと突き合わせてみると、肝機能障害も腎機能の項目の異常も存在はしているが改善傾向にあり、このデータで食べないのはおかしいと思いました。
全血球計数ではほとんど異常値は見られません。

ただ、リパーゼがかなり高値であること、炎症マーカーである犬CRPがしっかり高値であることが目立つ異常値です。
ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロールイオンなどの電解質が低値なのは持続的に嘔吐していて、まったく食べれていないという結果だと思います。

腹部エックス線検査では、腸管内に砂と思われる異物が沢山観察されました。それと、腸管内のガスの存在にかなり違和感を感じます。

これらのことから、疑わしい疾患は、膵炎、腸閉塞、何らかの薬物中毒辺り?かと推定しました。

膵炎に関しては、犬膵特異的リパーゼを東京のアイデックスラボラトリーズに外注することにして。

腸閉塞に関しては、午後から消化管造影検査を行ないました。

犬の口にバイトブロックを咬ませて、そこから細めの胃カテーテルを胃まで挿入して。この時に大切なのはカテーテルから液体を注入する前に必ず注射器で陰圧をかけて空気がどんどん入って来ないか?ということをチェックしなければなりません。

滅多に無い事ですが、胃カテーテルが間違って気管に挿入された状態で液体を注入すると、窒息したり誤嚥性肺炎を起こしたりするのです。

この子の場合、胃カテーテルは適切な位置にありましたので、ガストログラフィンという造影剤を注入して。
直後、1時間後、2時間後とエックス線撮影を実施しました。

造影1時間後も2時間後も造影剤はほとんど小腸に流れて行かず。1時間後と2時間後の撮影の合い間に嘔吐してしまいました。

クライアントには、機能性イレウスなのか?どうかは不明だが、イレウスは存在していそうなので、試験的開腹が必要だと思うとお伝えして。手術に同意していただきました。

手術までは、静脈に留置したカテーテルから生理食塩液に塩化カリウムを適量添加したものを輸液してコンディションを整えます。

午後5時を過ぎ、午後診が終了してから麻酔導入を行ない、試験的開腹を実施しました。クライアントも立ち会って見届けてくれました。

開腹してみると、空腸から回腸まで広い範囲の小腸に異物が触知されます。触るとかなり固い感触です。
異物の遠位側では何とか異物を排出しようとして腸が頑張り過ぎているのでしょう。腸重積に陥っていました。

異物が詰まっている小腸の適当な部分を2ヶ所切開して、異物を引っ張り出しました。こんな作業をする場合、術野や周辺を汚染させないように注意しながらやらなければなりません。

異物を取り出した切開部は丁寧に縫合します。なるべく縫合部位が狭くならないようなやり方を取ります。

最後に、胃から直腸まで腸管を順次点検して、その他の異常が無いかどうか?きちんとチェックし終わったら、閉腹の作業にかかります。

腹膜と腹筋、皮下織、皮膚と、順番に縫って行って。手術終了は午後7時半少し前くらいでしたか?

術後は覚醒も順調でした。夜の間、何回か容態点検を行ないますが。眼を離すとクルクル回って、輸液ラインを捩じってキンクさせてしまうのが困りました。

結果、この子は、食品ラップフィルムの誤食による腸閉塞ということでした。

しかし、誤食の原因が単に食いしん坊な犬だということなのか?それとも何か基礎疾患があるのか?2ヶ月か3ヶ月前にサイエンスダイエットから変更したという食事内容に問題は無かったのか?

再発防止に関して思いを致す必要があると考える次第であります。

なお、この子の経過としては、術後24時間くらい経過したら、まず水を与えてみて。異常が生じなかったら消化の良い残渣の少ない食事を少量食べさせて。

翌日からその処方食を食べさせていって。順調に食べるようであれば退院という運びになると予定しております。

 

 

 

 

 

02/08 老犬の前肢の腫瘤

今日の症例は日本犬雑の相当高齢の男の子ですが。

数年前から右前肢皮膚に腫瘤が出来まして。それが昨年から自壊して、最近そこに感染も加わって、周辺もズルズルの状態になっていて。

今回悪くなる前には近くの動物病院で治療していたのが、症状が悪化してその先生に診てもらおうとしたのに、そこが休診だということで、1月12日に当院に来院しました。

その時の画像を撮影しておいたら良かったのですが。それはひどいもので、炎症は皮下にも広く及んでいて、関節の可動性もかなりおかしな状態になっていたのです。

私が最初にやったのは、まず腫瘤の一部分をメスで切除して病理検査に出すことと、炎症で周囲をひどく濡らしている分泌物を採取して細菌培養と薬剤感受性試験を行なうことでした。

薬剤感受性試験で翌日に得られた結果は、ほとんどの薬に対して抵抗性を持ってしまった多剤耐性緑膿菌の感染があるというもので、唯一マルボフロキサシンという抗生物質だけが効いているような状態でした。

腫瘤周辺の感染は、マルボフロキサシンの投薬2週間ですっかり良くなって、皮膚に開いていた穴も塞がり、関節の可動性も改善して普通に歩けるようにまでなりました。

投薬中食欲が減退気味だったのは、胃酸分泌を抑えたり吐き気を止めたりするお薬を組み合わせることにより何とかクリヤーしました。

2週間の間に外注していた病理組織検査の結果も帰って来て、良性の腫瘍であるという結果でした。

私としては、良性腫瘍でもあり、感染もすっかり良くなって、一応めでたしめでたしという感じだったのですが。

飼い主様としては、如何に良性腫瘍であっても、あんなにひどい展開になるのであれば、是非とも切除して後顧の憂いを絶ちたいという強いご希望をお持ちのようで。

腫瘤の切除を希望されました。

で、術前検査の結果では、血液検査と尿検査、腹部エコー検査から慢性腎不全という診断が得られたのですが。とりあえず初期から中期までのものであり。手術自体は遂行可能であると判断しました。

2月8日に腫瘤の切除を実行しました。

気管挿管を済ませて各種モニターを装着します。それから術野の毛刈り、消毒を行ない。術者は手術帽とマスクの装着、手洗いと消毒、術衣手袋の装着をやって。術野を滅菌ドレープで覆ってから手術を始めます。

今から毛刈りをする腫瘤です。

で、手術は無事に済んで、画像的にはいきなりですが。術後の肢です。腫瘤が良性で比較的小さかったので、形成外科的な皮膚移植のような手技は不必要でした。

術創の上に光が反射しているのは、創傷管理用のテガダームというプラスチックフィルムを貼り付けているからです。

これで忌まわしい腫瘍の自壊と感染が再発する可能性は消失しました。
ついでに見つかった慢性腎不全をコントロールして行けば、推定14才という高齢ながらも、もうしばらく元気に生きて行けそうです。

 

 

 

 

 

01/25 超肥満猫の避妊手術

トラちゃんは、そろそろ8才になる女の子の猫ちゃんですが。
骨格はそんなに大きくはないのにも関わらず、肉付きが異常に良くなってしまって。

現在はどう見たって肥満という感じになってしまっています。

昨年9月にワクチン接種のために来院した際、肛門から性器にかけての部分(会陰部)が異常に汚れていたところから。
一般論で言えば、避妊手術をした方が病気になる可能性も少ないことなどをお話しして、出来ればしてあげた方が良いと思いますとお話ししました。

その際に、腹部エコー検査を希望されたのでお腹の中をエコーで覗いて見たところ。
どう見ても卵胞嚢腫ではないか?と思われる陰影が観察されました。

画像の矢印の先の黒い部分が卵胞嚢腫と思われる陰影です。

会陰部の汚れは、あるいは性器からの分泌物によるものだったのかも知れませんが。その時には断言することは出来ませんでした。

この子の飼い主様は現役の看護師さんですので、獣医学的なお話しも能く理解していただいて下さったようです。

年明けに再来院して下さいまして。元気なうちに卵巣子宮摘出術を受けさせてやりたいということでしたので、術前検査として、全血球計数、血液生化学検査ひと通り、血液凝固系検査、胸部エックス線検査、コンピュータ解析装置付き心電図検査などを実施しました。

術前検査では完璧とは言えませんが、それなりに手術は可能であろうという結果が得られました。

手術は1月13日に実施しました。

麻酔とかは普通に導入覚醒が出来たのですが。やはり肥満猫ちゃんですから、お腹の中は脂肪の大海のようになっていて、子宮や卵巣の確認と分離がかなり困難でした。

お腹の中には、予想通りに卵巣に左右共、卵胞嚢腫と思われる大きな水泡が存在していました。

子宮を取り出す際に、膀胱と腎臓を繋いでいる尿管などの重要な器官を不用意に傷付けないように、通常の手術よりもすごく気を使いました。

そして、卵巣と子宮を摘出した後、閉腹する際には念のためにポリプロピレン単繊維の医療用縫合糸を使って、万が一の癒合不全に備えました。普通の猫ちゃんの手術に比べると、お腹を開けた傷の長さが倍はあります。

閉腹完了し手術が終了して、いよいよ今から覚醒させようという段階の画像です。

気管チューブ抜管後、入院室で回復を観察します。

普通に当日退院して行きましたが。

翌日 以降、しばらく飲水、排尿が見られないので皮下輸液を実施したり、いろいろ不安要素もあって気を揉んだ局面もありましたが。翌日から食欲はボチボチ見られていましたから、必ず回復すると信じておりました。

22日の火曜日に飼い主様から電話がありました。猫ちゃんは元気になっているとの報告でした。
飼い主様の勤務の都合もあり、抜糸に来院する予定が数日遅くなるということでしたが、抜糸があ少々遅くなっても大勢には影響無いとお伝えしました。

しかし、人間の手術でもそうだとは聴きますが、肥満の動物の外科手術は、私のような普通の獣医師としてはハラハラドキドキします。

無事に回復して良かったです。

 

 

 

 

 

01/24 ミニチュアピンシャーの子宮蓄膿症 白血球減少に注意

6才3ヶ月令になるミニチュアピンシャーの女の子のミニーちゃん。

22日に来院する前日から、急に嘔吐と食欲減少が生じ、同居のワンちゃんのおやつで与えていた骨を誤って飲み込んだのではないかと様子を見ていたそうなのですが。
来院当日水を飲ませたらひどく吐いたということでした。

診察台上のミニーちゃんは、何か?気分悪そうな表情で、腹部の緊張が強いように感じられます。

飼い主様に、ひと通りの血液検査と腹部エックス線検査は必要であろうとお伝えしまして。同意を得ましたので、採血とエックス線撮影を実施しました。

血液検査で気になる数値と言えば、肝機能の異常と、白血球数、特に好中球数の減少です。

腹部エックス線検査では、腹腔内に明らかに異常な陰影が見られました。

 イメージとしてはお腹の中にとぐろを巻くように存在する太いチューブ状の物体という感じでしょうか。

子宮蓄膿症の疑いがあること。好中球数の減少があるということはかなり甚急性の経過を取っているであろうこと。肝機能以上は、子宮とは関連があるのか?別物の問題なのか?は今のところは不明であることなどをお伝えして。

一応腹部エコー検査でお腹の中の物体が筒状で液体を溜めているということを確認した上で。

動物看護師に緊急手術を行なう旨伝えて、午後診終了後残業して手術を行ないました。

麻酔をかけて気管挿管をし、ガス麻酔に移行します。各種モニターを装着し、術野の毛刈り消毒。術者は手術帽、マスの装着。手荒い消毒、術衣と手術用ゴム手袋の装着。

などなど大急ぎで行なって。

いざ開腹してみると、やはり大きく膨れ上がっている子宮が出て来ました。

手術は型通りきちんと終了して。覚醒も速やかでした。

術後は入院室に入ってもらい、24時間持続点滴を続けます。

手術翌日は、気分は随分回復していたようですが。まだ食欲は湧かず。

術後2日経過した時点で急に食欲が湧いて来て、普通に食べ始めましたので、静脈留置カテーテルも抜去して退院としました。

犬の子宮蓄膿症、今回も無事に治療することが出来ました。

しかし、過去には術中に心停止が来た子や、術後に回復出来ずにそのまま亡くなった子もいるわけですから。

慢心に陥ることなく謙虚に頑張って行こうと思います。

 

01/11 柴犬の腸管内異物によるイレウス

今朝方やっと神戸市中央市民病院から退院して来たのですが。

そう言えば、昨年同じ病院に初診で行った日にも同じようなことがあったような記憶があります。

やっと帰り着いて、午後診を頑張ってやってましたら。緊急手術の症例がやって来ました。

この度の子は、柴犬の女の子です。昨日のお昼頃から急に異常に水を飲んでは吐くようになったということで、生憎私が人間の病院に入院していたものですから、本日の午後診に来院したようなことであります。ご迷惑をおかけして申し訳なかったです。

膵炎か?イレウスか?それとももっと簡単な胃腸炎か?と思いながら。でも、こんな場合には、ある程度辺りを付けるのはともかく、過剰に先入観を持って診察すると間違いを犯すこともありますので。

ひと通りの血液検査と、腹部エックス線検査を実施致しました。

血液検査では、白血球の内細菌と闘う好中球が増加してしますのと、犬CRPの上昇が見られていますから、体内に炎症が生じていることは間違いなさそうです。
同時に、リパーゼが1000近くにまで上昇しています。膵炎かも知れません。

しかし、腹部エックス線検査のフィルムを見ると。明らかに腸管内異物の像が観察されます。

矢印の部分に金属製の何か?が見えますし。その周辺にある程度の幅と長さの塊があるのです。

この時点で、腸管内の異物と確信しました。そうであるならば、下手に持って回ったような消化管造影検査などやらずに、さっさと試験的開腹を実施した方が、費用と患者様の体力の浪費に繋がらないので良いと考えます。

飼い主様にその旨説明させていただいて、手術に同意してもらいました。

看護師さんたちには残業をお願いします。

で、さっさと開腹手術をしてみたところ。

腸管に異物が詰まってにっちもさっちも行かなくなっている部分を発見します。

腸管を切開してみると。


プラスチックの固まった物が出て来ました。飼い主様曰く、ソーセージの皮なのだそうです。

幸いなことに、腸管は対処が速やかだったためでしょう。ほとんど傷んでおりませんで。切開と縫合という処置で速やかに修復出来ました。

手術は無事に終わり、術創にプラスチックフィルムを貼り付けて、覚醒を待ちます。


気管チューブ抜管後は、入院室で静脈輸液を続けながら容態を観察します。


一応、予定では明日の夕方から水を摂取させ。水を飲んで異常なければ、流動食を与える段取りになります。

入院は2日か3日で退院出来ると踏んでおりますが。速やかな回復を期待しているところであります。

久し振りのイレウスの手術でありました。

 

12/28 外傷性腹壁ヘルニア整復

6才6ヶ月令の屋久島犬のシマちゃんですが。

どういった原因でか?左下腹部に膨らみが目立つようになって来ました。そして、その膨らみは指で押すとお腹の中にスルスルと引っ込んでしまいます。

こんな症例は、多くの場合、外傷性腹壁ヘルニアと言って、何らかの外力により腹筋が損傷して、その傷から内臓とか内臓脂肪が皮下に押し出されて来ているのです。

飼い主様が外科的に整復するよう希望されましたので、手術で整復しました。

いつものように麻酔導入して、気管挿管、各種モニターの装着、静脈輸液と手早く仕事を進めます。

術野になる部分の毛をバリカンで刈って、 イソジンスクラブで洗い、イソジンとアルコールで消毒します。

術者は滅菌手術帽子とマスクの装着、手洗い、滅菌術衣の装着、滅菌ゴム手袋の装着を済ませて、患犬にドレープをかけた上で初めて切皮という運びになります。

切皮して皮下織を分離して行くと、すぐに腹筋の損傷部位が見つかりました。

腹膜と腹筋にきちんと糸をかけるようにして、縫合を始めます。

縫合に使う糸は、ポリプロピレンというプラスチック製の針付き糸です。これは体内で溶けたり吸収されたりすることはありません。ヘルニア整復術では非吸収縫合糸を使用するのであります。

腹膜と腹筋が縫合し終えたら、次は皮下組織の番です。こちらは吸収性縫合糸を使用して縫って行きます。

最後に皮膚をナイロンモノフィラメントの縫合糸で縫合します。私はマットレス縫合という方法を用いて縫うことが多いです。

皮膚の縫合が終了しました。

麻酔からの覚醒を待っているところです。この間に術創に外傷管理用のプラスチックフィルムを貼ったり、簡単な手術のこの子は皮下輸液を行なったりと、看護師さんたちは結構忙しいです。

術後に回復室で休んでいるところです。

覚醒も良好で、手術当日に退院して行きました。

術後は翌日に一度来院して術創のチェックとか麻酔後の不整脈の有る無しとかをチェックしまして。大抵は術後9日とか10日で抜糸をして手術は完了となります。

どんな簡単な手術でも、無事に済めばホッとします。

 

 

 

 

 

 

 

12/18 チワワちゃんの停留精巣

先月にシニア検診を受けられた、7才8ヶ月令になるチワワの男の子ですが。

停留精巣が見つかりました。

停留精巣については、HPの診療方針に記事を掲載している通りでして。正常に陰嚢に降りて来ている精巣に比べると約10倍の確率で腫瘍化し、出来た腫瘍のかなりの物が転移を起こす悪性の物であると言われています。

飼い主様にはその旨報告致しまして。本日去勢手術を実施することになりました。幸い精巣が停留している部位は、腹腔内ではなく鼠蹊部皮下ですから、手術としては比較的簡単な部類に入ります。

お昼過ぎに麻酔導入を行ない、気管挿管、各種モニター、静脈輸液と手抜きをせずに安全な麻酔を実施します。

画像の赤い矢印の部位に精巣が停留しています。コントラストのせいで見難いかも知れませんが。皮膚が少し膨隆しています。

麻酔導入が出来ると、術野の毛刈り、消毒、術者の手洗い消毒術衣手袋の装着と進んで行って、やっと切皮にかかります。

左右の停留精巣の上の皮膚を切皮して、電気メスを使用して精巣を総漿膜から外に露出します。

小型犬ですから、精索と血管を一緒に合成吸収糸で結紮して切除します。結紮は必ず2回行なって、万が一解けることの無いよう事故防止に努めます。

左右精巣が摘出された後は、皮下織、皮膚の順に縫合して行きます。左側の皮膚縫合が済んで、右側の皮膚縫合に取り掛かるところです。

手術が終わって覆い布を取り除いたところです。普通の去勢手術であれば、陰嚢前方の皮膚を縦に一つだけ傷が出来るだけですが。この度の手術では7左右の停留精巣の上を2ヶ所切っています。

術創の上からプラスチックの創傷保護膜を張り付けたところです。細菌や汚物の侵入を防ぎ傷が蒸れません。

麻酔から醒ます前に、静脈輸液で使用した乳酸リンゲル液を皮下輸液に切り替えて、術後の脱水と腎不全を予防します。

その後麻酔から醒まし。回復室で数時間様子を観察して、夕方には退院です。

明日か明後日に術後の全身状態と傷のチェックを行なってから、術後9日を標準として抜糸をしてお終いになります。

停留していた精巣は、高い体温に曝されていたために精子を造る機能が発達出来ず、若干小さい状態でしたが。とりあえずは腫瘍化の徴候は認められませんでした。

チワワちゃん、これで将来の疾病の危険性が一つ減ったわけです。後8年くらいは幸せに生きて行って欲しいものであります。

お大事になさって下さい。

 

11/12 モモちゃん、中皮腫ではなかったようです

最初の臨床的問題点が腹水からスタートしたフレンチブルのモモちゃんですが。

大阪のネオベッツVRセンターにていろいろ精密検査を実施しても診断がつかず。

一時は抗生物質と利尿剤を使用したところ、劇的に改善して。

でも、投薬を中止してしばらくしたらまた再発して。同じ内容の投薬では利かなくなってしまって。

腹水の細胞診をこちらで再検査に出したところ、臨床的には中皮腫を疑うべきとの、良くない結果が帰って来たので、どうなるのか?ヒヤヒヤしながらの診療ではありましたが。

抗生物質を変更するとまたまた劇的に改善して。

ある日、腹部エコー検査を行なってみたら、最初に実施したエコー検査では見えなかった、管状の異常な構造が見えたので。

試験開腹したら子宮蓄膿症と判明して。

手術から10日経過したので、抜糸を行ないました。傷の経過は非常によろしいです。

飼い主様の曰くは、元気食欲とも快調になったということであります。

手術の際に腹膜を一部分切り取って、病理検査に出していた結果が帰って来てましたが。炎症性の変化であって、悪性腫瘍ではないということでした。

やれやれであります。

しかし、子宮蓄膿症にもいろいろなパターンがあるのですね。最初に子宮が膨れて来ないで、いきなり腹水という症例は今回が初めてでした。

でも。結果オーライで本当に良かったと思います。

モモちゃんも飼い主様もご苦労様でした。これから元気で長生き出来ますように。

 

09/27 ビーグル雑の耳血腫

今日は、県西部の街で、グリーンピース動物病院から自動車で1時間強の遠いところから、ビーグル雑をお連れの方が来院されました。

このビーグル雑は、クロちゃんと言いまして。地域で増え過ぎた猪や鹿を退治するという農林業に大切な仕事をやっている名犬です。

このクロちゃんは、昨日から左耳の耳介が異様に膨らんで痛そうにするとのことです。

数年前にも反対側の右耳が、やはり耳血腫になって、それはもう少し近くの動物病院で手術によって治ったということです。

左耳は、画像のようにプックリと膨れています。

比較の対象になるように、過去に手術をして現在は正常になっている右耳の耳介も掲載してみます。

この耳血腫の原因ですが。ほとんどの場合外耳炎を慢性的に患っていて、すごく痒いので頭を激しく振ることにより、耳介軟骨が折れて出血するというのが原因なのです。

従って、その根本原因である外耳炎を治療しなければ、耳血腫そのものをいくら治療しても犬の苦しみは無くなりません。

耳血腫も早目に手術療法をするのも一つの解決方法ではありますが。最近のトレンドとして、猫インターフェロンの注入とステロイドホルモンの内服の併用で切らずに治すというやり方が取られるようになっております。

ただ、インターフェロン療法も反応が著しく悪かったり、遅かったりする場合には、手術に移行する方が良い場合もあると思います。

また、インターフェロン療法であっても手術療法であっても、外耳炎の原因である細菌とかマラセチア菌とかをコントロールしなければならないわけであります。

飼い主様には、以上のことなどをひと通りお伝えして、手術療法?インターフェロン療法?のどちらを選択されるのかをお尋ねしたところ、当面インターフェロン療法を選ばれました。

クロちゃんについては、まず耳道を滅菌綿棒で探って、細菌培養と薬剤感受性試験の材料を採取し、インターフェロンを生理食塩液で溶解して、1バイアル10万メガユニットを膨れた耳介の血腫内に注入しました。

一応、メーカーの説明書きには、初回の注入時には血液はむしろ抜かない方が良いとのことであります。

ステロイドの内服薬は1週間分、抗菌剤は培養と感受性試験の結果が出るまでの繋ぎの期間分処方してお渡ししました。

インターフェロン注入は、5日から7日毎に実施する予定です。普通だったら1回から4回の注入で治癒するということです。

クロちゃん、速やかに治りますように。