兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 軟部外科
院長ブログ

カテゴリー別アーカイブ: 軟部外科

猫の腸閉塞の病理検査結果

11月に腸閉塞の手術をして、腸管に出来ていた腫瘤を摘出した猫ちゃんの件ですが。

取り出した腫瘤を病理検査に外注していたのが、結果が帰って来ました。

「盲腸腺癌」という良くない結果でした。

既にリンパ節転移も生じていて、転移巣が大きくなって来るのがどれくらい先なのか?は正直読めておりません。

縫合糸反応性肉芽腫ではなかったです。

化学療法、一般的に言う抗がん剤療法も考えないではないですが。今までのいろいろの治療で両手の静脈が状態が悪いのと、基本的に野良猫ちゃんで抜糸まで入院で治療しましたけれども、なかなかに治療に抵抗しますし。

これからは経過を見て行って、出たとこ勝負で対応するということになりました。

今回の手術自体は上手く行ってくれて、今日退院した現在は食欲元気さ完全に回復しております。

最後の病理の結果が辛いところですが。少しでも長く良い状態が続いてくれますよう祈っております。

 

 

猫の腸閉塞

今日は糞臭のある嘔吐を繰り返す猫ちゃんの開腹手術でした。

この子は、実は2年半前も同じような症状で手術を行なっておりまして。その時には小腸の一部がキュッと縮んだように閉塞してまして。摘出した部分を病理検査に外注した結果は「びらんを伴なう炎症」というものでした。

今回も2年半前と同じように糞臭ある嘔吐を繰り返すということでしたので、飼い主様も納得の上試験開腹をするということで昨夜お預かりしました。

今日午前中に腹部エコー検査を行なってみると、腹腔内に小腸と連続した腫瘤があるのを見ることが出来ました。
見た感じお腹の中の異常はその腫瘤くらいしかありません。

午後から全身麻酔をかけて、お腹を開けて見ると、やはり小腸に腫瘤があって、それがカチカチになって如何にもそこが閉塞の原因という感じでした。

腫瘤を切除して腸管を繋ぎ合わせて閉腹すれば手術は完了です。

麻酔からの覚醒はスムーズでした。

摘出した腫瘤は今回も病理検査に外注しますが。

腫瘍であれば悪性だと思います。

しかし、もしかして前回の手術の部位に縫合糸反応性肉芽種が出来たのではないか?とも思えるような腫瘤でした。

縫合糸反応性肉芽腫であれば、私としては自分の手術で遭遇するのは初めてとなります。

病理検査の結果は約2週間までに出ると思います。その結果を見て、この子のこれからの治療について考えなければなりませんが。
飼い主様曰くは、野良猫であるので自宅での投薬は困難であるとのことです。

自宅での投薬が不可能ですから、必然的に今回の手術も前回の手術も、手術後抜糸するまで預からなければなりません。

抜糸後の対応がちょっとばかり心配であります。

 

 

 

ヨークシャーテリアの乳腺腫瘍摘出術

この夏は本当に暑かったです。ブログの更新をサボっていたのは暑さのせいでもないのでしょうが。
仕事はいつものペースで淡々とこなしておりまして。

夏の終わり頃にはチワワちゃんのブドウ中毒による腎不全を診察したり、それなりにネタは無いわけではなかったのですが。
とにかく執筆意欲が湧きませんで。

診療内容については、随分長い間の放置になってしまいました。

今日は今日とて。高齢ヨークシャーテリアの乳腺腫瘍摘出手術がありまして。手術の後外来が全くと言って良いほど来ませんので、何とかパソコンに向かっております。

この乳腺腫瘍は、発見が4年半前だということで。最初に診てもらった獣医さんは、放置してても大丈夫だと言い切って何にもしてくれなかったそうです。

次に転院した先では、手術は必要だが、今はワンちゃんの体調が悪くてタイミング的に出来ないということを言い続けて。結局発見から4年半も放置されたままで。腫瘍のサイズも随分大きくなってしまってました。

この飼い主さんのお父さんは、亡くなる前はアマチュアカメラマンとしてビデオ撮影とか撮影した動画のマスコミ投稿とか熱心にされておられてまして。私がエアデールテリアを飼育し。訓練や繁殖を行なっていた頃に。縁あって犬のビデオ撮影や編集を依頼したことがあったのです。

その縁もあり。ワンちゃんが乳腺腫瘍で困った状態になった時に、お父上と私の縁を想い出されて、遠く阪神間の街から神戸を越えて加古川まで来院されたということでした。

来院されたその日に手術の話しをして。同意を得たので。術前検査として院内の血液検査。血液凝固系検査の外注。胸部腹部のエックス線検査。コンピュータ解析装置付き心電図検査をきちんとやりまして。

本日朝からお預かりして午前中は静脈輸液を実施してコンディションを整えて。
午後から全身麻酔をかけて。左乳腺は全摘出をして。右乳腺は第3から第5まで摘出し。併せて卵巣子宮全摘出までやりました。

切り取った乳腺は病理検査に出しました。

ワンコは麻酔からの覚醒もスムーズで、状態すこぶる良いので、当日退院して帰っていただきました。

きちんとやればどうってことない手術なのですが。この子の場合、必要な時に必要な治療を速やかに行なってなかったことが問題だったと思います。
摘出した腫瘍が悪性だった場合。そのサイズが大きければ大きいほど転移の可能性が高いというのが定説となっているそうですし。

今回ちゃんと摘出手術をやりましたので。後は病理の結果が悪性でない事を祈りますし。仮に悪性であっても転移してないことを祈っております。

ではまた。

 

ミニチュアダックスフントの結直腸多発性炎症性ポリープ

2才の頃より当院で健康管理のお手伝いをさせていただいている、ミニチャダックスフントの避妊済み女の子の話しです。今年で8才になります。

実は、この子は従前から免疫に関して怪しいという印象を強く持っておりました。

4才の頃に頑固な慢性嘔吐を発症しまして。内視鏡を持っている近くの先生に依頼して胃の組織生検を実施し、胃炎を患っており、炎症部位に形質細胞や好酸球が浸潤しているという所見が得られていたのです。

胃炎の方は投薬と処方食で何とかコントロール出来て。その後に発症した膀胱炎も何とか上手く管理出来ているという状態だったのですが。

5月23日に来院した時に、5日前から鮮血を混じる下痢をしているということでした。

これが、しかし、通常の下痢セットの処方では全然反応が見られず。

検便も問題無く。原虫や嫌気性菌の感染をコントロールする薬も奏功せず。

試しに与えたステロイドに対してだけかなり良好な反応だったので、大阪府立大学の内科系の先生に一度診てもらおうと飼い主様と相談していた矢先のことでした。

6月27日朝にいきなり直腸脱が生じてしまったのです。

緊急でお昼に手術を行ないました。当日予定していた猫ちゃんの避妊手術は夜に残業して行ないました。

脱出した直腸には、顆粒状の病変が多数見られます。直腸の腺癌のような超悪性の病気を予想して随分ビビリました。

病変部を切除して、縫合が終了したところです。直腸脱の手術は 一番最初に脱出した直腸が2層重なっているのをきちんと拾った支持縫合を実施して、その縫合を頼りに、内層の腸管が、断端が遊離したままお腹の中に戻ってしまわないように、丁寧な全層並置縫合を実施することが、失敗しないコツと言えばコツだと思います。

手術が終了して、直腸をお腹の中に戻してやった状態です。

手術当日に退院させました。

大学の先生のアドバイスもあり、病理検査の結果が出るまで抗菌剤以外にステロイドホルモンを控えめに使用しました。

術後の経過はすごく良好で、下痢も改善しました。

病理検査の結果は。

多発性炎症性ポリープというものでした。

この病気は、最近ミニチュアダックスフントで問題になっている免疫が関与すると言われる炎症性の疾患です。

治療は、ステロイドホルモンと免疫抑制剤の併用で実施します。丁度タイムリーに、6月30日に岡山で受講した動物臨床医学研究所の卒後教育セミナーでこの病気の解説がありました。

診断はきちんとつきましたので、後は上手く管理出来るかどうか?です。今のところ順調なので、何とかなると予想しております。

免疫の病気に負けずに、幸せに長生きして欲しいと切に願いつつ治療を遂行しております。

 

 

 

 

 

エアデールテリアの皮膚扁平上皮癌

もうすぐ11才になるエアデールテリアの男の子の話しですが。

5月21日に、6ヶ月くらい前から左胸の皮膚の腫瘤が自壊してずっと気になるのか?舐めたり咬んだりしているということで相談されました。

針吸引&細胞診をすることと、自壊部分から出る膿の細菌培養と薬剤感受性試験を実施して、抗菌剤を投与しました。

細胞診の結果では、良性の皮膚腫瘍であろうということでした。

しかし、薬剤感受性試験に基づいて利く薬を投与しているのにも関わらず感染のコントロールが出来ません。膿はずっと出続けています。

どうもおかしいな?と感じておりましたが。飼い主様は膿が出続けて生活の質がかなり損なわれていることが可哀相に感じられたようで。
摘出を希望されました。

この子は以前に肝機能障害を患ったことがありましたので。術前検査として全血球計数、血液生化学検査ひと通り、胸部エックス線検査、心電図検査を実施します。

やはり、予想通りGPTが405U/L GOTが50U/L ALPが1272U/L と肝障害が存在しておりました。

一応、幹細胞保護のお薬を2週間内服させてもう一度血液検査を行なうと。
GPTが166U/L GOTが31U/L ALPが882U/L とかなり改善しました。

2回目の血液検査から6日後に手術を実施しました。

高齢の子とか、体力的に不安のある子については、手術当日朝一番にお預かりして、午前中は静脈カテーテルから輸液を行なうことにより体調を整えるのですが。

エアデール君、暴れて静脈輸液を行なうことは適いませんでした。

午後1時頃より麻酔導入して、術野の毛刈り消毒、術者助手の手洗い等基本通りの手抜き無しの手順で進めて行きます。

腫瘤周辺の毛を刈ったところ。

術野の消毒が済んで覆い布をタオル鉗子で止めたところ。

腫瘤を切除したところ。判り難いとは思いますが、垂直方向のマージンとして、皮筋という筋肉を一枚切除しています。治療に対する反応が怪しいので、一応用心して。悪性腫瘍だったとしても後で慌てないように最大限の用心をしております。

切除された腫瘤。これからホルマリンに漬けて、病理検査に出します。

 傷を縫合し終わったところです。この部分に出来た腫瘤は、比較的手術が容易です。

抜糸は術後13日で実施しました。この時に血液検査を行ないましたが。GPTは前回少し下がったのとそう変わらない数値でした。肝細胞保護剤は継続することにしました。

病理検査の結果ですが。扁平上皮癌という悪性度の強い物でした。用心のために大きくマージンを取って正解でした。
扁平上皮癌は転移する率は低いということですが。今後局所再発については注意して行きたいと思います。

 

 

 

ジャーマンシェパード若犬のイレウス

もうすぐ1才になるジャーマンシェパードの男の子の話しですが。

前日から嘔吐し始めたということでの来院でした。

血液検査と腹部エックス線検査では決め手になるような所見は得られませんでしたので。とりあえず注射を3本打って1日様子を見ましたが。改善しませんでしたので。飼い主様の言う「何でも飲み込んでしまう。」という事を追求すべく、バリウムによる消化管造影を試みました。

口にバイトブロックを装着して、胃チューブを使ってバリウムを250ミリリットルほど注入します。

撮影は、造影直後と、1時間後、2時間後、3時間後という感じで実施します。

3時間後の側面像でここに異物が?と思われる陰影が見られました。

画像右下部分の腸管にわずかなくびれが見えることと、その部分の口側に急にバリウムの濃度が薄くなる部分があります。

午後から予定が入っていた手術を夜に残業して実施することにして。試験的開腹を行ないました。

お腹を開いて、胃から順に消化管を触って調べて行くと、空腸という部分に何かが詰まって動けなくなっているのが見つかりました。

開けてみると、テニスボールの破片が出て来ました。

異物を摘出した腸管の傷を縫合して、閉腹する前にもう一度胃から直腸まで消化管を手で触って精査して別の異常が無いかどうか確認します。

具合の悪い場所は、テニスボールの1ヶ所だけだったようです。

腹膜、腹筋、皮下織、皮膚と順に縫って行って、麻酔導入から約3時間弱で手術は終わりました。

試験的開腹となるとどうしても切開創は大きくなりますが。傷が癒合するのに要する期間は大きくても小さくてもほとんど変わりません。

この子のように胃や腸を切開した動物は、術後は入院させて静脈輸液を続け、24時間後にはまず水を与えてみて、異常が無ければ残渣の少ない処方食を当ててて行きます。

シェパード君も、24時間後には水を飲んで、その後少量の食事を食べ。翌日には普通に処方食をどんどん食べて、お水も飲んで、手術から2日後の夕方には退院しました。

やんちゃで食いしん坊のワンちゃんについては、異物の誤嚥に特に注意する必要がありますね。

それにしても、今年は犬のイレウスの手術が多いです。一月に1件か2件はやっているように感じております。

 

手術の場合、開ければそこを縫ってやらなければなりません。

今日も乳腺腫瘍でした

今日の手術の子は、高齢のアメリカンコッカースパニエルの女の子です。

この春先に、左耳に大きな腫瘍が出来てそれが自壊して大変な状態だったのを、大阪のネオベッツVRセンターに紹介させていただいて、そちらで左全耳道切除術を実施して何とか回復したところでした。

今回は左の乳腺に何ケ所も腫瘤が出来ていて、それを何とかして欲しいというお話しでした。

右の乳腺は全然何ともありません。乳腺という組織は左右の連絡がありません。もしあう性腫瘍が発生した場合には片側前後4個から5個ある乳腺の間で血液やリンパ管の流れで腫瘍細胞が移動して行く可能性があります。

乳腺腫瘍については、他の部位の腫瘤のような細胞診による悪性良性の判定はあてにならないので、基本的には外科手術による切除と病理検査が必要です。

今月の片側乳腺全摘出と卵巣子宮全摘出の症例数はこの子を含めて3頭です。

午前中から預かって、静脈カテーテルを留置し、そこから静脈輸液を実施して手術前の体調を整えます。

午後1時から麻酔導入を開始し、手術を始めました。

画像は手術前の毛刈りが済んだところです。向かって右側、犬の左側の乳腺には乳首が過剰に7個あります。腫瘤は乳腺の中程に数個見えると思います。

発情が先月にあって、その後ずっと下り物が続いているというお話しでしたので、子宮卵巣の異常を予想していたのですが。子宮の状態は思ったよりも正常に近かったです。下り物は赤色でサラサラとしか感じでしたので、発情が長引いていたのかも知れません。

お腹を開けると、腹腔内脂肪の中から妙に大きな腫瘤が出て来ました。一応採取して病理に出しておきました。

手術は意外に時間がかかって、午後4時頃に終わりました。

長い長い傷です。縫合は外科用クリップも併用しましたが、かなり時間がかかりました。

本当に何回も書きますが、繁殖予定の無い犬は男の子も女の子も去勢手術避妊手術を思春期前に実施することによりこのような生殖器関連の病気に罹患しなくなります。繁殖をさせるのであればそれはそれで素晴らしいことと思いますので、頑張って欲しいのですが。

繁殖予定の無いワンちゃんの飼い主様についてはご愛犬の生涯全体の得失をよく考慮されて、避妊手術去勢手術も検討していただいきたいと思う次第です。

さて、そして、この度取った腫瘍が良性で、この子が幸せに長生き出来ますように。

 

 

 

育て過ぎ

何を育て過ぎたって?

乳腺腫瘍です。先日初診で来院されたミニチュアダックスフントの未避妊の9才5ヶ月令の女の子ですが。3ヶ月前に乳腺腫瘍が気になって、その後どんどん大きくなって来て。

来院時には、有り得ないくらい大きく育ってしまってました。

外科的対応を希望されたので、すぐに院内の血液検査(全血球計数、血液生化学検査ひと通り)と外注の血液凝固系検査、胸部腹部のエックス線検査、コンピュータ解析装置付き心電図検査としっかり術前検査を実施して、来院2日後に乳腺腫瘍の摘出と卵巣子宮全摘出の手術を行ないました。

麻酔導入後仰向けに保定して、毛刈り消毒の前の状態です。

準備が整って、切皮直前の態勢。

術中の過程は省略して、手術終了直後の状態です。

しかし、疲れました。何とか取り切ったとは思いますが。3ヶ月で急速に大きくなっているという事はまず悪性の乳腺癌の可能性が高いです。

乳腺癌は転移や再発の起きやすい厄介な悪性腫瘍で、切除時点のサイズが大きければ大きいほど転移している可能性が高いですし。今回でも切除に結構な労力を要したのですが。
まだ腫瘍が小さい頃に手術させてもらえれば、転移の可能性も少なく。手術も比較的容易です。

繁殖予定の無い犬の女の子の場合、最初の発情が始まる前に卵巣子宮全摘出を実施すれば、その子の乳腺腫瘍の発生率は、何にもしなかった子に比べると200分の1であるという統計的データが発表されていて既に定説になっているとのことです。

自然のままの犬を飼育するのも一つの楽しみかも知れませんので、避妊去勢を絶対的に強制するつもりは毛頭ありませんが。

避妊手術、去勢手術を受けた犬たちは受けなかった犬たちに比べて病気になる確率が低くなり、長生きするという情報をお伝えして、避妊手術去勢手術を選んでいただく努力は惜しまないようにしているつもりです。

本日手術2日後に来院して、術後の経過を診させていただきましたが、経過としてはまあまあ順調な方だと思います。

鬱陶しい巨大腫瘍が切除出来て良かったと思います。でも、次回があるとするならば、次はここまで育てないように早目に受診していただきたいと切に願う次第であります。

ではまた。

 

 

ポメラニアンの消化管内異物

今日の症例は、10才と3ヶ月になるポメラニアンの女の子です。

この子は6月2日に、前日から吐くようになり、食欲が低下したということで来院されました。排便はあるがやや軟便とのことでした。

飼い主様の話しを聴きながら、ワンコの様子を見ていて、カルテに記載している既往を確認して行くと、2009年に肝障害を患ったことがあります。

血液検査をすることにしました。

打ち出された結果では、総コレステロールの高値、アルカリフォスファターゼの高値、BUNとリパーゼが少しだけ高値ということでしたが、特筆すべきは炎症マーカーである犬CRPが7.0mg/dlオーバーという異常な数値です。

この時点でもっと詳しく腹部エックス線検査をすべきかどうか?ちょっと迷いました。

でも、ワンコの表情はそんなに苦しそうでもなさそうですし。

犬CRPの数値が高いのがすごく気になるので、お薬を内服させても症状が悪化するようであればすぐに来院するようお伝えした上で、とりあえずの処方として胃腸炎対応のお薬の組み合わせをお出ししました。

しかし、翌日に電話があって、症状は進行して食欲がいよいよ少なくなったこと、下痢もしていること、投薬が出来ないということでしたので、来院するようお伝えしました。

来院したワンコに腹部エックス線検査を実施してみたところ、胃の中には大量の内容物が充満しているのに、胃から後ろの腸管にはほとんど内容物が見られません。何かひどく不自然です。

リパーゼが高かったことも気になりましたので、採血して血清を東京のアイデックスラボラトリーズに送り、犬膵特異的リパーゼを測定すると共に。

ガストログラフィンというヨード系造影剤を胃チューブで胃に流し込んで、消化管造影を行ない、1時間毎にエックス線撮影を実施しました。

画像はガストログラフィン投与後16時間のものですが、液体成分はちゃんと直腸末端まで到達しているものの。胃の中の固形物は全然変化がありません。

どうもおかしいです。

そして、エックス線検査を実施しながら、念のために前腕に静脈カテーテルを留置して乳酸リンゲル液を輸液していると、ワンコは急に吐きました。

吐いた物を見てびっくりです。足拭きマットの繊維みたいな繊維の塊でした。

飼い主様に確認すると、思い当たる節があるとのことです。

これは試験的開腹をするしかないと決断し、飼い主様の了解を取り付けて、4日の午後に手術を決行しました。

麻酔導入後気管挿管をして、ガス麻酔で維持しつつ、お腹を開いてみると、やはり、吐いた物と同じ繊維製の異物が胃に充満しております。


引っ張り出してみると。結構長い繊維です。緑っぽい色でしたので、まるで茶蕎麦を吊り出したような雰囲気でした。


胃は綺麗に掃除して、2重に縫合してお終い。

でも、ここで安心してしまって閉腹するようでは、不十分です。長い繊維製の異物ですから、腸管に行って悪いことになっている可能性大です。

腸管も引っ張り出して、十二指腸から近位結腸まで丹念に探ってみますと。ありました。

長い繊維性異物が腸管に引っ掛かって、腸管がアコーディオンの襞の如くに、シワシワになっています。この状態が長く続くと腸管が切れて腹膜炎を起こして死ぬ怖れがあります。

こっちの異物は相当長かったです。腸管の切開は最小限で済みましたので、縫合も比較的楽でした。

総ての異物を摘出して閉腹完了しました。午後診開始の少し前でした。取り出した異物をワンコと比較してみると、結構沢山食べていたのにびっくりです。

その後ワンコは順調に回復して、手術2日後の本日朝から旺盛な食欲を見せてくれて、 本日夕方に退院して行きました。

本当に良かったと思います。

 

 

急性犬フィラリア症について

フィラリア予防シーズンに入って時間的にも精神的にも余裕が無いのもあるのですが。どうもこのところブログ更新が滞っています。

今日は気を取り直して、そのフィラリア予防について実際の症例をひとつ。

平成8年11月生まれの雑種犬の避妊済み女の子の話しです。今年11月で15才になるわけですから、ちゃんと元気に齢を取ったと言って良い状態ですね。

でも、この子は、2年前に大静脈洞症候群といういわゆる急性フィラリア症を発症して当院で頸静脈からのフィラリア吊り出し術を実施した病歴があるのです。

そもそも、この子は急性フィラリア症発症の5ヶ月前に頸の皮膚に大きな腫瘤が出来たということで来院され。当院で切除手術と病理検査を実施したのです。

腫瘤の治療が一段落した段階で、フィラリア予防やワクチンについてやっていないということだったので、「高齢になっても病気予防はちゃんとやった方が良いですよ。」とお伝えしたそのすが。
飼い主様は一応聴き置いてお帰りになられました。

ところが、それから3ヶ月後の11月に再来院されて。一昨日夕方から急に食欲が低下し、昨日には夜間に嘔吐した。元気も消失し呼吸が荒く、散歩の時にも全く引っ張らなくなって、ボーっと立っているという稟告でした。

この時に聴診してみると、ガリガリという急性フィラリア症特有の心雑音が聴取されまして。

急性フィラリア症の疑いがあるので、いろいろ検査を行なって確定診断を付け、フィラリアの吊り出し手術を実施しないと死亡する確率が高いということを説明させていただきました。

飼い主様は一旦帰って家族と相談するということでお帰りになられましたが。後刻再来院されて検査と手術を希望されました。

この時の検査は、フィラリア抗体検査に全血球計数、血液生化学検査ひと通りを含めた血液検査に、胸部エックス線検査、心エコー図検査を実施して。

フィラリア抗体検査は陽性、血液検査では好中球増多症と心不全による腎血液環流量減少が原因と思われる高窒素血症、胸部エックス線検査では肺野が汚く肺動脈の拡張が見られ、心エコー図検査では右心房にフィラリアの虫体らしき陰影が見られました。

以上の所見から急性フィラリア症であると診断し、手術を実施しました。

しかし、この手術ではフィラリアは1匹だけは吊り出せたものの、その次が続きません。
1匹吊り出して終わりか?と思い。聴診もしてみますが、心雑音が明らかに消失した感じも判然とはしません。

結局それから6回程鰐口鉗子で右心室まで探ってみて手術はお終いにしました。

術後は化膿止めだけでなく右心不全を治療するお薬もしばらく続けることにしました。

その後、心雑音はしばらく続いたものの、ワンコは元気を回復して、手術の1ヶ月半後には心雑音も消失。2ヶ月後には心臓のお薬もお終いにしました。

翌年すなわち手術から4ヶ月後のフィラリア抗体検査では陰性という結果でしたから。この子に寄生していたフィラリアは手術で取れた1匹だけだったのだと思います。

たった1匹だけでも寄生部位によっては命に関わるんだなあと、感慨を新たにしたことでした。

それからはワンコはずっと元気だそうです。今年もフィラリアの検査と予防薬の処方、そして狂犬病予防注射に来院して来ましたが。全然問題無い感じでした。

チャチャちゃん、いつまでも元気で頑張って下さいね。