兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 軟部外科
院長ブログ

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牝犬の子宮蓄膿症とDIC(播種性血管内凝固)

本日、午前診の時に子宮蓄膿症の手術を受けた柴犬が退院して行きました。

この子は、一昨日に「2日前から急に食べなくなって、元気も無い。」という稟告で来院して来たものです。

症状とか既往を丁寧に聴き取りしていると、少し前に発情があったということです。念のために性器を診てみると。膿性の下り物が観察されます。

発情が終わって、このような下り物があって、元気食欲が急激に低下するとは、子宮蓄膿症の疑いが強くなります。

水を大量に飲んで排尿量が多いという、いわゆる「多尿多飲」の症状もあったということです。

飼い主様には、子宮蓄膿症の疑いがあること。診断を確実にするためには、血液検査、腹部エックス線検査が必須で。必要に応じて腹部エコー検査も実施すべきであると説明し。同意を得て、これらの諸検査を行ないました。

やはり子宮蓄膿症でした。

悪いことに、全血球計数検査において、血小板数がかなり減少しているという所見が見られます。採血は普通にスムーズに出来てますから。キャバリア犬ででもない限り血小板数の異常が見られたらおかしいと思わなければなりません。

何がおかしいか?と言えば。子宮蓄膿症や急性フィラリア症、熱中症のような一般状態が厳しく悪くなる全身疾患の際に、血液凝固系が暴走するDIC(播種性血管内凝固)という状態に陥ることがしばしば生じるのです。

子宮蓄膿症の手術の後にDICに陥った症例は。先週に他院で子宮蓄膿症の手術を受けたが、状態がひどく悪くて心配だということで当院を受診されたわんこがそうでして。
一生懸命に治療して。輸血までやったのですが。結果として亡くなってしまったという症例があります。

その他、他院で熱中症の治療をやって、一旦はそこそこまでは回復したものの、経過がダラダラと悪く。結局死亡してしまった子も診ましたが。これもDIC が強く疑われた症例です。

やはり一般状態の悪い全身性疾患を診る際には、常にDICの可能性を疑って、必要な予防策を講じる必要があると思います。

一旦DICに陥ると、治療はかなり困難で。死の転帰を取ることが多いです。

今回の子もDICを継発していることを念頭に、血液凝固系検査とFDPという項目の検査を外注すると共に。手術前の数時間の静脈輸液の際に低分子ヘパリンの持続点滴を行ないました。

手術は普通に行われて。膿が充満した子宮が摘出されました。

摘出した子宮から少量の膿を採取して、細菌培養と薬剤感受性試験を実施し。翌日からの投薬はその結果に基づいて行ないます。

血液凝固系とFDPの検査結果は、それぞれごく軽度ではありますが、正常値から逸脱しているという報告がなされて来ました。

ただ、教科書を開いてみると、DICの診断基準には総て当てはまる感じではありません。強いて言うならば、DICの前段階程度と考えるべき状態なのかも?知れません。

わんこの一般状態は術後かなり改善して。翌日には少しずつではありますが食べるようになり。最初1μl当たり6万まで低下していた血小板数は、手術の翌日には11万に回復し。本日の時点では15万まで回復しました。なお、犬の血小板数の正常値は、1μl当たり17万5000個以上50万個以下です。

血小板数が完全に正常値ではないので、少し不安はあるにしても。一般状態はかなり良い感じですので。
本日は一応試しに帰宅させて、本格的に食べるかどうか?経過を見ることにしました。
飼い主様には、少しでも状態の悪化とか見られたらすぐに連絡して連れて来るようにお伝えしてあります。

このまま無事に回復しますように。

 

犬の唾液腺嚢胞の手術

犬でときたま見る病気ですが。ある日突然咽喉元に大きな塊りが出現することがあります。

その腫瘤を針で突いてみて。その内容が細胞であって、顕微鏡で見てリンパ球だったらリンパ腫という血液系の腫瘍だったりするのですが。

針で突いて採取した内容が、ドロッとしたゼリー状の物質だったら。唾液腺嚢胞という病気です。

唾液腺嚢胞は、唾液腺から口の中に唾液を運ぶ管が損傷した時に、行き場を失った唾液が溜まったものです。

唾液腺を運ぶ管を修復することは、現在の獣医療では不可能とされてまして。唾液腺嚢胞への対処法は、嚢胞の上流にあたる唾液腺をそっくり切除するという手術のみとなります。

今回の子は、4才4ヶ月令になるトイプードルの去勢済み男の子なのですが。通い付けのトリミングサロンが、最近始めたサービスで、歯石を除去して、その後に定期的に歯を掃除するということをされるようになって、程なく咽喉元にブヨブヨとした腫瘤が出来たという症例であります。

絶対そうだとは言い切れませんが。歯の清掃の際に、何か無理な事をされたのかも知れません。

初診時に細い針で腫瘤を突いて内容を精査しますと、粘液様物質が採取されました。念のために細胞診に出しますと、化膿性顎下腺炎という返答が帰って来ました。

そうなると、原因はどうであれ、手術適応ということになります。

普通に術前検査として、院内の血液検査、胸部エックス線検査、心電図検査を実施して。異常が無い事を確かめ。手術に臨みました。

手術当日は、若い犬で一般状態が良好ということで、午前の静脈内輸液は実施せずに。静脈内輸液は術中に実施しました。

午後から麻酔導入を始めます。麻酔前投薬、静脈カテーテルの留置、各種モニターの装着、最新の導入薬アルファキサンで眠らせての気管挿管、静脈輸液が出来ましたら、術野の毛刈りを始めます。

矢印の先が、唾液腺管が閉塞して行き場を失った唾液が溜まっている部分です。

執刀直前の状態です。手術助手が準備を終えて入って来る直前の画像です。

右の下顎の骨の角張った位置の後ろと第一頸椎の突起のやや下側の間を目安に縦に皮膚を切開して、下顎腺を露出して、血管は吸収糸で結紮したり電気メスで焼いたりしながら周囲組織と分離して行きます。

中央の鉗子でつまんだ組織が下顎腺です。

どんどん分離を進めて行って、下顎腺とつながっている舌下腺も一緒に分離してから切断します。

切除した下顎腺と舌下腺です。唾液腺管の一部も含めて切り取っています。

唾液が溜まった袋状の腫瘤は切除しないで、ペンローズドレインという排液管を留置して置きます。

術後は適切な抗生物質を内服させながら経過を診て行って。ペンローズドレインは、術後3日か4日で抜き。抜糸は10日から14日後に行ないます。

この子はもう手術した側に関しては下顎腺嚢胞に悩まされることはありません。

唾液腺嚢胞は、その他頬骨腺や耳下腺という別の唾液腺で生じる可能性がありますが。それはまた別の術式になります。

ではまた。

糸付き縫い針を飲み込んだ猫ちゃん

猫という動物は、とても遊び好きで。特に紐や糸のような物で遊ぶことが大好きです。人間がネコジャラシで遊んでやったり、自分で毛糸玉にじゃれついたりする姿は誠に可愛らしいものです。

しかし、困ったことに猫は、遊んでいるうちにそんな紐や糸を飲み込んでしまうことがあります。

猫の紐状異物誤嚥は、獣医療の中ではかなりクラシックにして重要な問題です。飲み込まれた細い紐や糸が腸管で動けなくなって、腸が切れたりして腹膜炎を生じて死に至る転機を取ることになるのです。

今回の子は、1才少々のスコティッシュフォールドの女の子ちゃんですが。「裁縫用の針を飲み込んだ。」ということで来院されました。

稟告から金属製の針を飲み込んだのは間違いなさそうなのですが。診察台上の猫ちゃん、少し不穏な表情です。


お互いに怪我をしたり、猫ちゃんがショックを起こしたりするのも困りますので。無理に口をこじ開けるのは避けて、エックス線検査を行なうことにしました。

エックス線検査の結果です。腹部や胸部には金属異物は見当たりません。よくよく見ると。頭部の辺りに細長い陰影が見えます。

拡大してみると、こんな感じです。首輪の留め金の上の方に縦に見える細長い直線状の陰影です。

少し強めに鎮静をかけて、無抵抗状態にしてから。口を開けて見ます。

赤い矢印の先が飲み込まれた針です。突き刺さってますね。
鉗子で挟んで取り出しました。

トレイに乗っているのが、取り出した糸付き縫い針です。糸が赤いのは元々の色でして。決して大量に出血したわけではありません。

猫ちゃんは、この後鎮静剤の拮抗薬を使用して、速やかに覚醒しました。

今回は、簡単な処置で異物を取り出すことが出来ましたが。異物の存在する場所によっては開腹手術を必要とする場合もあります。

猫ちゃんの玩具についてはくれぐれも注意して、このような事故を起こさないように。もし万が一異物誤嚥に気がついたならば、速やかに受診されますようお願い致します。

 

 

 

 

 

 

急性フィラリア症の手術

昨日夕方に電話がありまして。

「大阪からですが。今かかっている動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。そちらで手術が出来ますか?」

という内容でした。

手術は出来ることと一応の予算とかお伝えしますと。そこの動物病院では手術は出来ないのだが。紹介先の手術料金が私のと比較すると4倍近くになるということで。「明日行かせていただきます。」ということでした。

飼い主様のお仕事の都合で、本日昼前に来院でしたが。

まず、心音を聴取してみますと。ガリガリガリッという急性フィラリア症特有の心雑音が聴こえます。
次に急性フィラリア症という診断が正しいのかどうか?を判定すべく、決め手になる心エコー図検査で確認します。


図の左下に→で示しているのが、右心房に存在しているフィラリア虫体です。慢性フィラリア症ではこの部分ではなくて、肺動脈にフィラリアが見えるはずなのですが。右心房に虫が見えることから、急性フィラリア症という診断で間違いないです。


わんちゃんは、診断からまだ日が浅いこともあってか。まだ元気です。しかし、大切にされている感じなのに。一体どうしてフィラリアのような、ある意味レベルの低い感染症に罹ってしまったのでしょうか?

お尋ねしてみると。予防はやっていたのだが。予防薬の服用期間が6月初めから10月初めまでと。ひどく短くて不適当であったということ。それも、今回急性フィラリア症であると診断された動物病院とは別の動物病院の指示による服用期間だったということでした。

フィラリア予防薬は、一般的な内服薬の場合、5月末から12月末まで、月に1回ずつ、合計8回の内服が必要なのです。

それと、私の動物病院に受診する気になられたのは、必ずしも料金だけの問題だけではなくって、グリーンピース動物病院のHPや私のブログをお読みになって、きちんと治してくれそうだという感触を強く感じられたからだということでした。

手術についてひと通り説明させていただき。同意を得たので。血液検査を実施して。待ち時間の間に昼食を摂らせてもらって。午後1時20分くらいから手術にかかりました。

血液検査の結果では。血管内溶血のためでしょう。軽い貧血と高ビリルビン血症、軽い肝障害が生じています。

後3日か4日放置されると、もっとすごいことになって行くと思われます。

麻酔導入を基本通りやって、午後1時50分くらいから切皮を始めました。

今日は助手無しでやります。基本的にフィラリアの吊り出し術は、アリゲーター鉗子の操作を丁寧にやれば、そんなに難しい手術ではありません。
ただ、ちょっとしたコツがありますけれども。それを身に付ければ1人で十分に遂行可能です。

左頸静脈を露出して、周囲組織と丁寧に分離します。

アリゲーター鉗子を頸静脈に開けた穴から心臓にまで挿入して、手探りでフィラリア虫体をつまみ出します。

画像ではごっそり引き出されているのがお判りになると思います。

最初の頃は鉗子を入れる度に虫が何匹もつまみ出されて来まして。そのうちに摘出される虫の数が減っていって。
最後の頃は、4回、5回と探ってみて虫が取れなくなったので。心音を確認し、心雑音が消失しているので、虫は取り切ったと判断して血管、皮下織、皮膚の順に縫合して、手術を終了しました。

取れたフィラリア虫は19匹でした。体重3.8キロの小さな犬なのに。19匹とは大変な数だと思います。

覆い布を取り除いて、傷に創傷保護フィルムを貼って。覚醒を待ちます。

覚醒間近になったところで、飼い主様に撫でながら声をかけてもらいます。

無事に覚醒して。入院室に入ってもらいますが。不安そうに鳴いたりしますので。落ち着くまで飼い主様に抱っこしてもらいました。

落ち着いた頃に。心エコー図検査を実施して。フィラリア虫が完全に取り切れているのか?確認します。

完璧に取り除かれています。執刀した獣医師としては、ホッとすると同時に嬉しく感じる瞬間です。

わんちゃんは数日お預かりして、術後の急変が無いかどうか確認して。金曜日くらいに退院の予定であることをお伝えしました。

先日ははるばる千葉から同じ病気で来院されましたのに。診断から日が経ち過ぎていて手術前に亡くなってしまいましたが。今日の子は無事に手術を乗り切ることが出来ました。

とても嬉しいです。後は入院期間を回復順調に過ぎて無事に退院出来るよう、もうひと頑張りです。

 

 

 

急性フィラリア症(大静脈洞症候群)

昨日、電話がありまして。

「1週間前に近くの動物病院で急性フィラリア症と診断されたのですが。状態が悪くて手術が出来ないと言われまして。お薬をやっているんですが。手術をしてもらえるんですか?」

という内容でした。

急性フィラリア症は、大静脈洞症候群といいまして。通常は右心室から肺動脈に寄生している犬フィラリア虫が、右心房から大静脈洞に移動することにより、急速に心不全状態が進行して。呼吸困難、運動不耐症、血色素尿などの厳しい症状が生じ、手術でフィラリア虫体を摘出しないと、多くは1週間から2週間で死亡してしまうという怖ろしい病気です。

私が思うには、急性フィラリア症にかかった犬の状態が悪いのは当たり前のことでして。
如何に状態が悪くとも診断がついた時点で急いで手術を行なわなければ。今悪い状態が、明日はもっと悪くなり、明後日はさらに悪くなり。手をこまねいている間に手術の成功率はどんどん悪くなってしまうのです。

ですから、どんなに状態が悪くても、急性フィラリア症と診断がついた時点で、最悪術中に死亡する確率は30%くらいはあることを飼い主様に了承してもらった上で、勇気をもって手術を行なうというのが、私の方針であります。

電話の向こうの飼い主様に、大体以上のような内容のことを説明した後、「こちらに受診していただければ、頑張ってみますよ。」とお伝えしたところ。

「実は、こちらは千葉県なのです。」というお返事でした。

「それでは、近くの動物病院をいろいろ当たってみて、手術をしてもらえるところを探してみられた方が良いと思います。」とお伝えして。いったん話しは終わりました。

後刻、再度電話が入って。数件当たった動物病院ではいずれも手術は出来ないと言われたということでして。
「兵庫県のグリーンピース動物病院まで走ります。のでよろしくお願いします。」ということでした。

それで。今朝、9時前にはるばる千葉県からワンちゃんと飼い主様が来院されました。

ワンちゃんは、11才の雑種犬で体重は10キロちょっとの男の子です。

今までの血液検査のデータとか見せてもらって経過をお聴きして。
胸部聴診をしてみると。急性フィラリア症特有のゴロゴロというような収縮期性雑音が聴取されました。

エックス線検査では、普通に右心室が大きくなったフィラリア症特有の心臓が観察されます。

心エコー図検査を行なってみると、拡張した右心房に糸状のフィラリア虫体が多数見られます。これで急性フィラリア症は間違いないということになります。

血液検査を実施したところ、白血球数の著しい増加とGPT、GOT、ALP、BUN、IP(無機リン)、リパーゼ、犬CRPがいずれもひどく上昇しています。その数値は7日前や4日前と比較してみると、日を追う毎にひどくなって来ているのが見て取れます。

この飼い主様は、これだけ行動力があるのに、何でフィラリアに罹ってしまったのだろうか?と、予防をしなかった理由を尋ねてみたところ。いろいろと忙しかったのと、油断していたというお返事でした。

飼い主様には、手術は頑張ってチャレンジしてみること。最悪死亡してしまう可能性はあること。を説明し了解を得て。

前腕の静脈にカテーテルを装着し、静脈輸液を開始しました。
輸液には、血液電解質も相当狂っていて、低ナトリウム低クロール血症になっていましたので、生理食塩液を使用しました。
このような状態の子は、血液凝固系が暴走する播種性血管内凝固(DIC)という末期的な異常が生じることが多いですから。低分子ヘパリンも静脈に添加します。

しかし、手術準備を整えつつある午前10時半過ぎに、急に嘔吐した後、舌の色がチアノーゼに陥ってしまい。
急いで手術室に運んでみると、既に心停止が来ています。心マッサージと酸素吸入をしながらアドレナリンの静脈内投与を行ない。心室細動状態の心臓に対してカウンターショックまで駆使して蘇生術を行ないましたが。

元気な子が何かのきっかけで心停止が来たのと違って、弱って弱って、いよいよの状態で止まった心臓が戻って来ることはありませんでした。

ワンちゃんの生命力が手術前に尽きてしまった原因としては。長距離の移動とかの要因よりも何よりも、急性フィラリア症と診断した後、通り一遍の内科的療法をするだけで、外科手術をせずに放置していたということが最大の要因だと思います。

獣医師は、いろいろな要因で必要な手術や治療を動物にしてやることが出来ないこともあるかとは思いますが。そんな時には、二次診療施設に紹介するとかの手立てを取ることも必要なのではないでしょうか?

せっかく遠くから私を頼って来院されたのを、何とか助けてやりたかったのですが。残念な結果になってしまいました。

本当に、本当に、残念なことであります。記事を書いていて涙が出て来ます。

 

犬の爪の損傷

犬の爪の損傷は、意外にありふれたトラブルです。

伸び過ぎた爪は、走ったりする時に何かに引っ掛かり易く。これが折れると相当痛いようです。

ただ、折れた爪が指先から脱落してくれれば、その部分に新しい爪が生えて来て、元通りになるのですが。

爪は折れたものの。半分だけ折れて、残りはきちんと指先にくっついて残っている状態になると。


爪が伸びて、損傷部位が爪の芯の部分を通過してしまえば、神経や血管が分布しているのは爪の芯の部分だけですから、苦痛は消失するでしょうが。

爪が伸びるスピードが1日に0.3ミリくらいとすると、折れた爪による疼痛や違和感が消失するまでには、かなりの日数がかかることが多いです。

そこで、このような症例が来院した場合に、私がやらなければならないことは。折れた爪を除去して、早くに苦痛から解放してやることです。

そのやり方ですが。爪の損傷が大きくて、もう少しで脱落するという状態であって、ちょっとくらいの痛みでは心臓が止まってしまいそうにない強靭なワンコの場合だったら。
ワンコをしっかり保定してもらっておいて、鉗子とかペンチのような道具で爪を把持して、えいやあ!!で取ってしまうということも、時としてやることがあります。

この方法の利点は、全身麻酔をかけないで済むことと、料金がお安く済むということですね。

えいやあ方式が通用しそうにない損傷の程度であるとか。非常にデリケートで、強い恐怖や痛みでショックを起こすかも知れないワンコの場合には。どうしても全身麻酔をかけて、安全に処置を済ませなければなりません。

ここで私が使用する麻酔は。静脈から注入して使用するタイプで、作用時間がせいぜい10分くらいで、その後は速やかに覚醒してしまうものです。この麻酔の特徴は、少々腎臓や肝臓の状態が悪くても、また、ちょっとくらい心臓が弱くっても、比較的安全にかけることが出来るというものです。
もちろん。不測の事態に備えて、必要とあれば気管挿管とか静脈輸液が出来るようにはしておきます。

麻酔をかけて、折れた爪を除去します。同時に化膿止めの抗生物質も注射します。他の爪も随分長く伸びていましたから、爪切りも行ないます。
眠っている間に行なうことですから。ワンコは痛みや恐怖を感じることはありません。

処置が済んで、麻酔の切れる時間が来れば。ワンコは速やかに覚醒します。
注射を打ってから20分か30分も経てば、起立歩行が可能になります。

後は、明日から数日間化膿止めのお薬を内服して。露出した爪の芯が乾いてしまえば。そのうちに、忘れた頃に新しい爪が伸びて来ます。

今日の症例は。大したことではないかも知れませんが。それなりに切実な問題を取り上げてみました。

こういう簡単な症例でも、安全かつ速やかに動物の苦痛を取り除いてやることが大切だと思ってやっております。

ではまた。

 

未去勢牡犬の会陰ヘルニア

会陰ヘルニアとは、肛門の横の会陰部というところの筋肉が萎縮したりして弱くなって腹圧に耐えられなくなり、腸管とか膀胱のような腹腔臓器が皮下に脱出する、いわゆる「脱腸」の一形態です。

前回、年末か年明けに高齢雑種犬で会陰ヘルニアと鼠径ヘルニアの併発例の手術を紹介しましたが。
今回の子は、6才のパピヨンの男の子でした。

会陰ヘルニアは、圧倒的に未去勢牡犬に発生する病気で。整復手術をする際に去勢をしないと再発率が有意に高いと言われています。

精巣から分泌される男性ホルモンが、肛門周囲の筋肉群に抑制的に働くのかも知れません。

画像の赤い矢印の辺りがヘルニアで膨れている部分です。

会陰部が膨れたのに気が付いたのは来院の1週間前だったそうです。膨れるだけでなく排便困難も生じつつあって、トイレでいきむけれども便が出ないことが再々あると言われてました。

腹部エックス線検査の画像ですが。赤い矢印の辺りが肛門から出し切れなくて溜まっている糞便です。

この会陰ヘルニアは手術適応であると説明して、飼い主様には納得していただき。
術前検査として、血液検査ひと通り、胸部エックス線検査、心電図検査、血液凝固系検査を実施し。初診から4日目の今日、手術に臨みました。

手術前の4日間は腸管を積極的に動かすお薬と、便を柔らかくするお薬の組み合わせで排便はスムーズになっていたそうです。

朝9時からお預かりして。前腕の静脈に留置したプラスチックカテーテルからリンゲルを輸液します。

午後1時過ぎから麻酔導入を始めて。気管挿管や各種モニター類の装着が出来ると。術野の毛刈り消毒を行ないます。

ヘルニアの部分は筋肉が分離していて穴が開いている状態で。指が容易に入って行きます。

術野の消毒や術者の手洗い術衣の装着等手術の準備が整って、今から切皮にかかるところです。

手術の細かいところは省略です。実際にはいろいろありますが。会陰ヘルニアの整復手術が完了したところです。今から体位を変更して去勢手術を実施するところです。

総て終了して。回復室で休んでいるパピヨンちゃんです。2時間か3時間くらい休めば十分に元気回復しますから、当日退院してもらいます。その方が動物の心理状態が落ち着いて、結果が良好なように感じています。

というわけで。会陰ヘルニアは結構若い犬でも生じることがあるという記事でした。
去勢していれば発生率は大幅に減少するということですし、統計によると、去勢した牡犬は未去勢の牡犬よりも病気が減って長生きするという結果が出ています。

繁殖予定の無い未去勢牡犬を飼育されているかたは、去勢手術を考慮されては如何かと思います。

ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続けて子宮蓄膿症

先日子宮蓄膿症が久し振りに来院したとの記事を書きましたが。

今日も犬の子宮蓄膿症の来院がありました。

今日の子は、今日が10才の誕生日だというミニチュアシュナウザーです。

1月3日から発情が始まったらしいですが。出血量が多いように感じられて。
1月18日から食欲が低下し。昨日19日にはフラつきだしたということで。いろいろネットで検索して当院にヒットして来院を決断されたということでした。

今回も子宮蓄膿症がまず疑われますので。腹部エコー検査を最初にやりまして。

子宮蓄膿症に特徴的な画像を得ることが出来ました。

飼い主様も随分予習をして来られたようで。なるべく早期の手術を希望されますので。
手術前提の血液検査、胸部腹部のエックス線検査を実施します。

ヘマトクリット値14%というかなりの貧血が判明しました。C反応性蛋白の高値とか白血球数、好中球数の高値は当然に存在してました。

ヘマトクリット14%は、麻酔のリスクファクターになりますので。当院に毎日私のお供で出勤しているベルジアン・マリノワのゴーシュから採血して輸血を実施することにしました。

ゴーシュの血液型は、DEA1.1(+)でして。この子も検査してみると(+)と判明しました。

昼前から輸血を200ミリリットルほど行ったところ、舌の色も随分改善して、かなり良い感じになりました。

ここで、麻酔導入を開始し。気管挿管、各種モニターの装着、静脈輸液を行ないながら、術野の毛剃り、消毒。術者&助手の手洗い滅菌手術衣の装着など準備を整えて。

速攻で子宮と卵巣の摘出を行ないました。

手術は速やかに終了し。麻酔からの覚醒も順調でした。

摘出した子宮は、通常よりもはるかに腫大してまして。

切開してみると膿が大量に出て来ます。

出て来た膿については細菌培養と薬剤感受性試験を行ない。明日以降はその結果に基づいた抗生物質を投薬することになります。

この子は、早ければ明日には退院出来ることと思います。

今日は頑張って元気な血液を提供してくれたゴーシュに感謝しています。今夜は御馳走を食べさせてやろうと思います。

ではまた。

 

久し振りの子宮蓄膿症

今日の症例は、9才8ヶ月令になるミニチュアダックスフントの女の子です。

1週間前からお腹が張った感じになって、食欲が減退しているということです。食欲は全く廃絶しているわけではなくって、1日1回はきちんと食べているし、おやつなど好物は食べるということです。便の状態はやや軟便。嘔吐は無し。

いろいろ症状の聴き取りをしていますと、年末に発情があったということです。発情出血は元々長く続く傾向にあるとのこと。

いろいろ疑う前に、腹部エコーを撮って、まず子宮の状態を見ましょうとご提案して。

腹部エコーでは、膀胱の頭側に尿よりは密度の高い粘調な感じの液体を満たしている袋状の構造が見られました。

画面右側の真っ黒な部分は膀胱です。左側のやや白っぽい円形の構造が問題の異常像であります。

そこからエコーのプローブを頭側に移動して行くと、異常な袋状構造は頭の方に向かって延長しています。

この時点で、ほぼ間違いなく子宮蓄膿症であろうと判断しました。

飼い主様にはその事をお伝えして。詳しく血液検査を行なうと共に、胸部エックス線検査を実施して。麻酔が安全にかかって、かつ醒めることが出来そうかどうか?判断し、午後からお腹を開いてみることをお勧めしました。

飼い主様の同意が得られたので、血液検査とエックス線検査を実施しますと。
血液検査では、白血球数の増加、とりわけ細菌と闘う好中球、慢性炎症の時に上昇する単球の数が増加している他。炎症マーカーであるC反応性蛋白の上昇が著しいというデータが得られました。
胸部エックス線検査には異常はありませんで。一部写っている腹部には太いソーセージ様の陰影が観察されました。

そんなわけで。午前中に静脈カテーテルを留置して静脈輸液を行ない。抗生物質を2剤投与しておいて。

午後から全身麻酔をかけてお腹を開いてみました。

開ければ、当然ですが。大きく腫大した子宮が出て来ました。

取り出した子宮は、こんな感じです。ちょっと気持ち悪いかも知れません。お許し下さい。

で、これを鋭利な刃物で突いてみると、大量の血膿が噴出して来るのです。

この血膿の中には細菌が居りますので。血膿を使って細菌培養と薬剤感受性試験を実施します。

手術が終了すると、無事に覚醒しました。

画像は入院室で麻酔覚醒後の経過を観察しているところです。飼い主様についてもらっていますので、ワンコは比較的落ち着いております。

麻酔からの覚醒も良好ですし。一般状態もそう悪くはないので。今日は夕方に退院出来ると思います。

未避妊の女の子の場合。大きな疾病リスクとして子宮蓄膿症と乳腺腫瘍が存在します。繁殖予定の全く無い子の場合、なるべく早くに卵巣子宮全摘出による避妊手術を実施されるようお勧めいたします。
早くに避妊手術を実施したワンちゃんは、そうしなかったワンちゃんに比べて、健康で1年から1年半くらい長生きするというのは、現代の獣医学的に常識になっております。

ではまた。

 

牡犬の会陰ヘルニアと鼠径ヘルニア併発例

今回の症例は、未去勢牡犬に多く発生する会陰ヘルニアに鼠径ヘルニアが併発したという、ちょっと珍しい例でした。

ワンちゃんは、10才ちょっとの雑種の男の子です。

5月にフィラリア予防と狂犬病予防注射で来院した時には全く異常を感じませんでしたし。飼い主様もこの夏までは異常無しだったということです。

会陰ヘルニアとは、肛門の横の辺りの筋肉が萎縮したりして、その筋肉の隙間から腸とか膀胱とかお腹の脂肪とかが脱出して来る、いわゆる脱腸という病気です。

ほとんどの子が排便困難の状態になり、苦しそうです。膀胱が脱出するとおしっこの出が悪くなったりします。

鼠径ヘルニアは、股の付け根内側から腸管や腹腔内脂肪などが出て来るもので、これも出て来た腸管が絞り上げられたような状態になると、腸が腐って腹膜炎になったりして危険な場合があります。

どちらも手術適応という事になりますが。私の経験ではこの二つのヘルニアが併発するのは初めてです。

飼い主様も病気の状態を説明して手術適応だということが理解されると、手術に同意して下さいましたので。

全血球計数、血液生化学検査、血液凝固系検査、胸部エックス線検査、心電図検査などの術前検査をひと通り済ませてから手術に臨みました。

毛刈りのために仰向けにした状態の画像です。上の矢印は鼠径ヘルニアの部分を示しています。
下の矢印は、会陰ヘルニアで膨れた部分です。

会陰ヘルニアの手術の前の画像です。術野の毛刈りをして、肛門を巾着縫合というやり方で閉じた時点の画像です。
肛門の右側から脱出した腹腔内脂肪と漿液が肛門の下側に溜まって異常に膨れています。

術中のしんどいところは省略して、会陰ヘルニア整復終了時点の画像です。

これから体位を仰向けに変更して、去勢手術と鼠径ヘルニア整復にかかります。

鼠径ヘルニア整復と去勢手術が終了した時点の画像です。会陰ヘルニアの手術に当たっては、去勢手術を同時に実施した方が、しなかった場合よりも有意に再発率が低くなるという統計が確立されています。

術後の経過は順調で、手術の翌日から排便困難も改善して、傷の治りも順調で。
年末年始にかかりましたので、術後約2週間、年明けの1月4日に無事に抜糸することが出来ました。

無事に治療が完了出来て良かったです。

牡犬の場合にも、繁殖予定が無い場合には去勢手術を早めに行なうことによりこのような性ホルモン関連の病気が減って、健康で長生きするという事は獣医学的に確立された事実であります。

繁殖予定の無い牡犬を飼育されている方は、去勢手術を考慮されることをお勧めします。

ではまた。