今回の症例は、もうすぐ10才になるミニチュアダックスフントの避妊済み女の子です。
近くの動物病院の院長先生から電話があって、重度の貧血なのだが、診てくれないか?ということでした。
院長先生自ら連れて来られたわんこを見ると、横になって動きませんし。舌の色は真っ白です。わんこと一緒に持参したデータでは、赤血球容積(PCV)は4.4%と、もう一押しであちらの世界に逝ってしまいそうな数字です。
少ない血液のところを申し訳ないと思いつつ、ちょっとばかり採血して、レーザーフローサイトメトリーで検査をすると共に、血液塗抹標本を作製して、顕微鏡で観察してみます。
血液の再生量の目安になる網状赤血球は存在はしていますが。その数は多いとは言えません。
機械から出て来たデータも、網状赤血球数は増えていないとされています。
こういう貧血を非再生性貧血というのですが。その原因を確定するには基本的に骨髄生検と病理検査が必要になって、結構ハードルが高い病気です。
しかし、診断はともかく、現状のPCV4.4%は早急に対応しないと死んでしまいそうです。
さきほど採血した血液で血液型の判定試験をやって、DEA1.1陽性という結果を得ました。動物病院に私と一緒に出勤しているベルジアン・マリノワのゴーシュの血液型と同じです。ゴーシュから200mlほど採血して輸血を実施しました。
輸血に先だって静脈留置を行なうのですが。血圧がかなり低下している感じで、随分難しかったです。
輸血の後随分気分が良さそうになりましたので。院長先生、とりあえず連れて帰られました。
翌日、お昼の休憩時間に、外出していたら。院長先生から電話が入りまして。「昨日の子の経過観察をしていたら、血便が出始めたので、腹部エックス線検査を行なった。胃や腸に多数の小石が詰まっているので、手術をして摘出してやって欲しい。」という内容でした。
動物病院に戻るから、連れて来るようにとお伝えして。急ぎ帰院しました。
約30分後に、飼い主様がエックス線フィルムと一緒にわんこを連れて来ました。
フィルムをデジカメで撮影しなかったので、最初の画像はここに提示できませんが。石は胃、小腸、直腸と大きく3ヶ所に分かれて存在していました。
昨日の輸血の効果については、きちんと血液検査が出来ていないようなので。こちらで採血してレーザーフローサイトメーターで測定してみたところ、4.4%だった赤血球容積は17.3%にまで回復してました。
エックス線フィルムを眺めていると。お腹を開くような侵襲性の強い処置までしなくても何とかなるか?と感じられます。
最初に直腸の石の塊を、ゴム手袋にゼリーを付けて指を挿入して、下腹部を優しくマッサージしながら1個ずつ掻き出してやったら、ほぼ全部が摘出出来ました。
下の画像が直腸の石ころたちを掻き出した後のエックス線検査の結果です。
胃の中にはそれなりに多くの石がありますが。腸管に存在する石は何とか自力排出が出来そうな感じです。
この時点で、私は、飼い主様に断りを入れると共に、紹介してくれた院長先生に電話をかけて、近くの内視鏡で頑張っている獣医さんに麻酔下で内視鏡により胃内の石ころを取り出してもらう旨了解を取りました。
何でもかんでも自分の動物病院でやるために、不必要な侵襲を動物に与えるというナンセンスなことは避けたいものです。
さて、内視鏡の先生に行ってもらったわんこは。翌朝胃内の石ころは総て摘出出来たということで退院して来ました。
内視鏡の先生の話しでは、胃内の出血がひどくて、大変だったということです。
となると、貧血が石ころによる胃粘膜の損傷で出血が生じたためという可能性も出て来ます。
だったら、今回の処置でこの子は貧血から脱することが出来るかも知れません。
ただ、それだけひどい出血だったら。もしかして石ころ以外の重大な胃の病変を確認出来ていない可能性も、それなりにあるかも知れません。
その場合は、石ころを摘出した後も貧血が回復しない、あるいは進行するということになると思います。
でも、内視鏡の先生、きちんとした方ですから。大丈夫ではないか?とは思っています。
わんこは、その後最初の院長先生の動物病院に帰って、そこで治療を継続しておりますが。経過については、また教えていただくことにはなっております。私も今後の経過に注目して行きたいと思います。