動物、特に犬は暑さに弱い傾向があります。日本の夏は犬たちにとっては暑さだけでなく湿気もひどいので熱中症になりやすいです。
今回の子は、もう15才以上になるというパピヨンの男の子なのですが。心臓が悪くて別の動物病院でお薬を処方されているということでした。
午後3時過ぎからお宅から100メートル?くらいの近くの公園に散歩に連れて行ったらしいですが。行きはきちんと歩いていたのが、帰りはトボトボ歩きになって、ようやく自宅に戻ったら横になって荒い息をしているということで。
ご主人はそのまま様子をみるつもりだったようですが。脳梗塞でリハビリを受けている奥様が、「様子がおかしいから、頼むさかい動物病院に連れて行ったって。」と言うとのことで。3時40分くらいに電話連絡がありました。
一刻をあらそうから速く来院するようにお伝えして、しばらくしてから入って来たわんちゃんを見ると。意識も消失していてかなり危なそうです。
受け付けもそこそこに、すぐに手術室に連れて行って。体温測定、アルコールをスプレーしてドライヤーで冷風を送って冷やすこと。酸素吸入と心電図モニターの装着と。大急ぎでいろいろやるのです。
検温の結果は、41.8℃というひどいものです。数分後にもう一度測ると、42.0℃になって来ます。
静脈カテーテルの留置と常温の乳酸リンゲルの輸液も行ないます。
熱中症の治療で最も大切なことは、まず何よりもとにかく体温を下げてやること。次に体温が極端に上昇した結果による内臓機能や脳の機能の異常を防ぐこと。及びDICという血液凝固機能の暴走を防ぐことです。
体温を下げるについては、まず気化しやすいアルコールを体表にスプレーして、ドライヤーで冷風を送る。もしくは冷水で身体を濡らして冷風を当てる。というのがファーストチョイスですが。
それで効果が今ひとつという場合には。冷水浣腸という方法も試みる場合もあります。
内蔵機能の温存やDICの予防には。まず酸素を吸入させると並行して、思い切った量のステロイドホルモンの静脈内投与を行ないます。次いで低分子ヘパリンという血液凝固を防止するお薬を最初にドンと静脈内に注入した後、持続点滴で投与し続けるという方法を取ります。
熱中症の治療をやっていると。動物の意識が戻ったら。治療費を気にされる飼い主様などは、一刻も早くにお家に連れて帰りたいと言う方も居られますが。
ちょっと意識が戻ったからといってすぐに退院させてしまうと、体温調節機能が戻っていなくてすぐに高体温に戻ってしまったり。DICが生じたり、腎障害肝障害が生じたりして、結果が悪い場合がありますので。
状態が安定するまで、しばらくの間ICU内で静脈輸液を続けた方が良いと考えています。
さて、アルコールとドライヤーで冷やしていると。40分くらいで、直腸温が39.0℃まで下がりましたので、少し手をゆるめると、またすぐに39.5℃に戻り、上昇傾向にありますので。身体を水で濡らしてドライヤーで送風します。
1時間ほど頑張って冷やしていると。体温は37.9℃まで下がって、38℃台で維持出来るようになって来ました。
2時間くらい経過すると。最初は横たわって意識が無かったのが、意識が戻って来て、伏せの姿勢になります。
治療開始から約2時間半経過した時点で、随分状態が改善して来ましたから、集中治療室(ICU)に収容しました。
画像はICUに入れてすぐのものですから。温度とか酸素濃度が設定通りではありませんが。設定は温度が19℃、湿度55%、酸素濃度は30%という条件で。
夜間に随時体温を測定しながら、診てました。
何とか夜を過ごして、翌朝に血液検査を実施しましたが。白血球数が上昇していることと、軽い肝障害があるくらいで。血小板数も正常値でしたから、血液凝固機能の暴走は何とか食い止めることが出来たと思います。
朝食を与えてみましたが。私たちのことを警戒してなのか?食べてはくれません。
発症翌日の午後に飼い主様に経過を説明して、退院させました。
抗生物質と肝臓のお薬を処方して。わんちゃんが居るお部屋の温度管理に十分気を配るようにお伝えしました。
その後、1週間後にお薬が切れる頃になっても、飼い主様の都合によるものか?どうか?は不明ですが、来院されませんので、経過について心配しておりましたが。
動物看護師が何かの用事で近くを通った時には飼い主様とわんちゃんが元気そうに歩いていたということですので。経過は悪くなかったようです。
ブログについては、処置中に飼い主様に断りを入れてありますので。今日掲載させていただきました。
その後の肝臓に状態とかについて、ちょっと心配ではありますが。15才超のパピヨンちゃん、元気で幸せに長生きして欲しいものであります。