このところ、フィラリア予防のセット検査やシニア検診で高コレステロール血症が発見されるワンコが数件続いています。
コレステロールや中性脂肪の数値が高い状態を高脂血症と言いますが。
中性脂肪は食事との時間関係で大きく変動します。食後間無しだとかなりの高値に達し、場合によっては採血した血液を遠心分離すると上澄みが乳白色に濁るくらいになる場合もあります。
一方のコレステロール値は中性脂肪ほどには食事によって激しくは変動しないようです。
で、高コレステロール血症の子の場合に、その原因はホルモンのバランスの失調、特に甲状腺機能の低下、また腎臓疾患、肝臓疾患などが挙げられます。
特に高コレステロール血症に尿蛋白が多い状態、それに加えて低アルブミン血症が存在していると、腎臓疾患として糸球体腎症が強く疑われるわけです。
糸球体腎症は犬の進行性腎不全の主原因とされているようですが。今まで診断した経験は少ないです。
今回糸球体腎症を疑っている2頭の犬のうち1頭は11才のイングリッシュコッカースパニエル去勢済み男の子です。この子はシニア検診で尿蛋白が4プラスとかなり濃く検出されて、血液検査を見てみるとアルブミンの低値と総コレステロールの高値が確認されました。
で、尿蛋白クレアチニン比、及び尿中微量アルブミンクレアチニン比を検査センターに外注してみました。
返された結果を見ると、尿蛋白クレアチニン比は基準参考値が0.5以下のところ2.8で、尿中微量アルブミンクレアチニン比は基準参考値0.10以下のところ1642という高値であったのです。
この結果から、この子は腎臓から血液中のアルブミンという蛋白質が継続して漏れ出ているということが言えると思います。
もう1頭の子の場合、この子は9才2ヶ月令のシェトランドシープドッグの女の子ですが、フィラリア予防の際に行なう血液検査にサービスで実施しているセット検査で、尿素窒素とクレアチニンが高く出て、それに低アルブミン血症と高コレステロール血症が併発していたところから、糸球体腎症を疑うに至ったわけです。後日尿検査を行なってみたところ、尿蛋白は3プラスと高値でした。
現在尿蛋白クレアチニン比と尿中微量アルブミンクレアチニン比を外注しているところですが。
尿蛋白クレアチニン比が先に返って来て、3.44という高値です。恐らく尿中微量アルブミンクレアチニン比も高値で返って来るような気がしています。
さて、それからどうするか?ですが。
糸球体腎症の確定診断は、腎生検をしなさいと教科書には書いてございます。
腎生検とは、麻酔下で超音波ガイドでのツルーカット生検もしくは開腹による腎の部分切除を実施し、得られたサンプルを病理検査に出すという事なのです。
しかし、ツルーカット生検も、腎の部分切除も、検査の後の出血が心配なのと、傷んだ腎臓に傷をつけるという点において、かなり心理的抵抗を感じます。
糸球体腎症の治療は、少し前の教科書を見ると、ステロイドホルモンや免疫抑制剤を使うように書いてありますが。2012年発売の国内の一線級の臨床獣医師の治療法紹介の本を開いてみると、ステロイドホルモンや免疫抑制剤は推奨されておらず、抗血小板薬とかコルヒチンというお薬とか、ACE阻害剤という血圧を下げるお薬とかを組み合わせて治療すると解説してあります。
そして、治療はかなり困難だということでした。
さて、そんな難しい症例ですが。腎生検をどうするか?
ここまで間接的な証拠がそろっているのであれば、糸球体腎症とみなして治療を開始して、治療効果は尿蛋白とか血液のアルブミン値や総コレステロール値等の検査結果を指標にして治療を開始するのは、間違いなのか?
場合によっては大学の先生に相談して決定しようか?と思案しております。