フィラリア予防シーズンに入って時間的にも精神的にも余裕が無いのもあるのですが。どうもこのところブログ更新が滞っています。
今日は気を取り直して、そのフィラリア予防について実際の症例をひとつ。
平成8年11月生まれの雑種犬の避妊済み女の子の話しです。今年11月で15才になるわけですから、ちゃんと元気に齢を取ったと言って良い状態ですね。
でも、この子は、2年前に大静脈洞症候群といういわゆる急性フィラリア症を発症して当院で頸静脈からのフィラリア吊り出し術を実施した病歴があるのです。
そもそも、この子は急性フィラリア症発症の5ヶ月前に頸の皮膚に大きな腫瘤が出来たということで来院され。当院で切除手術と病理検査を実施したのです。
腫瘤の治療が一段落した段階で、フィラリア予防やワクチンについてやっていないということだったので、「高齢になっても病気予防はちゃんとやった方が良いですよ。」とお伝えしたそのすが。
飼い主様は一応聴き置いてお帰りになられました。
ところが、それから3ヶ月後の11月に再来院されて。一昨日夕方から急に食欲が低下し、昨日には夜間に嘔吐した。元気も消失し呼吸が荒く、散歩の時にも全く引っ張らなくなって、ボーっと立っているという稟告でした。
この時に聴診してみると、ガリガリという急性フィラリア症特有の心雑音が聴取されまして。
急性フィラリア症の疑いがあるので、いろいろ検査を行なって確定診断を付け、フィラリアの吊り出し手術を実施しないと死亡する確率が高いということを説明させていただきました。
飼い主様は一旦帰って家族と相談するということでお帰りになられましたが。後刻再来院されて検査と手術を希望されました。
この時の検査は、フィラリア抗体検査に全血球計数、血液生化学検査ひと通りを含めた血液検査に、胸部エックス線検査、心エコー図検査を実施して。
フィラリア抗体検査は陽性、血液検査では好中球増多症と心不全による腎血液環流量減少が原因と思われる高窒素血症、胸部エックス線検査では肺野が汚く肺動脈の拡張が見られ、心エコー図検査では右心房にフィラリアの虫体らしき陰影が見られました。
以上の所見から急性フィラリア症であると診断し、手術を実施しました。
しかし、この手術ではフィラリアは1匹だけは吊り出せたものの、その次が続きません。
1匹吊り出して終わりか?と思い。聴診もしてみますが、心雑音が明らかに消失した感じも判然とはしません。
結局それから6回程鰐口鉗子で右心室まで探ってみて手術はお終いにしました。
術後は化膿止めだけでなく右心不全を治療するお薬もしばらく続けることにしました。
その後、心雑音はしばらく続いたものの、ワンコは元気を回復して、手術の1ヶ月半後には心雑音も消失。2ヶ月後には心臓のお薬もお終いにしました。
翌年すなわち手術から4ヶ月後のフィラリア抗体検査では陰性という結果でしたから。この子に寄生していたフィラリアは手術で取れた1匹だけだったのだと思います。
たった1匹だけでも寄生部位によっては命に関わるんだなあと、感慨を新たにしたことでした。
それからはワンコはずっと元気だそうです。今年もフィラリアの検査と予防薬の処方、そして狂犬病予防注射に来院して来ましたが。全然問題無い感じでした。
チャチャちゃん、いつまでも元気で頑張って下さいね。