すごく小柄な子猫ですが。3日前から当院のクライアント様のお宅に現れるようになったということで。
人慣れしているようなので、気になって保護したとのことで来院されました。
先住猫に感染するような病気を持っていないかどうか?調べて欲しいということなので、潜伏期問題について説明の上、猫白血病ウイルス抗原、猫エイズウィルス抗体、猫コロナウィルス抗体の血液検査を実施して。いずれのウィルスも現時点では陰性ということでして。
その他耳ダニの有無などもチェックして。
消化管内寄生虫については新しい糞便を持参するようにとお伝えしました。
2日後に糞便を持って来られたので、検便をやりますと。
最初に目についたのは、マンソン裂頭条虫の卵です。
ラグビーボールが変形したような、特有の形で見分けがつきます。
その次に見えて来たのが、壺型吸虫卵でした。
そして、顕微鏡をスクロールして行くと。おびただしい虫卵が見えて来ます。虫卵の数は圧倒的に壺型吸虫が多く、マンソン裂頭条虫は比較的少なく感じます。
ここで注意しなければならないのは。この2つの寄生虫卵は、虫卵の比重が回虫卵等よりもはるかに大きいので、通常動物病院で好んで行われる浮遊法という検便のやり方では検出出来ません。必ず直接塗抹法か遠心沈殿法という比重の大きな虫卵を検出出来る方法で調べないと見つからないのです。
因みに、マンソン裂頭条虫の成虫は、interzooさんの小動物寄生虫鑑別マニュアルという教科書では。
こんな形でして。多数の節から構成されています。拡大すると。
こんな節です。
壺型吸虫は、同じ教科書では。
こんな形ですが。サイズが2㎜と小さいものですから、私は実物を見たことがありません。糞便を丁寧に洗ってメッシュで͡濾して、拡大鏡で見ないと見つけることが出来ない虫だと思います。
この2種類の寄生虫を駆除するには、幸い非常に良く利く注射薬がありまして。それを使うと1回か2回で駆除出来ます。同じ成分の内服薬もありますが。今までの経験では注射薬の方が効果が確実です。
この猫ちゃんも注射を実施しました。
注射の直後から、腸内で虫が苦しんで暴れたのか?嘔吐したりして、若干苦しみましたが。
翌日の便にはしっかりとマンソン裂頭条虫本体が出てました。
拡大するとこんな感じです。
1週間後の検便では、あれだけ沢山あった虫卵が全く見えなくなっていました。
マンソン裂頭条虫も壺型吸虫も、自然豊かな環境の水生生物を介してでないと猫や犬、人間には寄生しません。
つまり、魚やカエルなどの水の生き物を生で食べることによって寄生が成り立つという虫なのです。
この猫ちゃんは保護されるまでの数ヶ月間、加古川の河畔でカエルや昆虫や小魚などの水辺の生き物を狩りして命を繋いでいたのだと思います。
野生的生活は厳しいものですね。今後は愛情深い飼い主様の元で室内の生活になるわけですから、こんな寄生虫に感染することもなく幸せに生きて行けることと思います。
ではまた。