兵庫県加古川市|グリーンピース動物病院 の 僧帽弁閉鎖不全症(あるいは僧帽弁逆流症)の治療のさじ加減
院長ブログ

僧帽弁閉鎖不全症(あるいは僧帽弁逆流症)の治療のさじ加減

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12才2ケ月になる、まるで日本スピッツかと錯覚するような美しいポメラニアンの男の子の話しですが。

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約1年前に、咳をするようになって、近医で「心臓の音が良くないね。」と言われて。 心臓のお薬を処方されたのですが。 服用開始から3日目で妙に元気が無くなったので、服用を中止したそうです。

その後、微妙に咳が続いていたらしいですが。 3週間前から急に咳がひどくなって来たので。 再度同じ近医を受診して。 お薬を2種類処方されたのですが。 全然改善しないので。 当院にかかっておられる犬友さんの紹介により、 グリーンピース動物病院を受診して来たとのことであります。

処方されたお薬を見せてもらうと、 ひとつはACE阻害剤という種類のお薬で。 もうひとつは多分ステロイドホルモンらしいです。

胸部聴診を行なってみると、全収縮期心雑音が、 ニューヨーク心臓病協会の基準で言うと6段階中3段階くらいの強度で聴取されます。 不整脈までは発生してはいません。

詳しく訊いてみると。 今までの診察では胸部エックス線検査も心エコー図検査もしていないということです。

若い頃に心雑音が無かった子で。 ある程度年齢が来て、 心雑音が聴こえるようになった場合。 80%から90%の確率で僧帽弁閉鎖不全症ですから。 その先生の診察方法もあながち間違いというわけではありませんが。

やはり、残る10%から20%の他の心臓病の可能性を探ることも大切かと思いますし。 エックス線検査や心エコー図検査を実施すれば、 他の病気との鑑別や重症度の判定も出来ますので。 それなりに意味あることと思ってやっています。

まず、胸部エックス線検査を行なってみます。

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画像のオレンジの矢印の先は左心房領域なのですが。 かなり膨れていて、専門用語で言う後方心ウェストの消失という状態です。
黒い矢印の先周辺は、 肺の後葉でして。 これくらい白っぽいということは、 肺炎か、肺水腫のどちらかという印象ですね。

一応体温測定もしましたが。 直腸温で38.8℃で、平熱でしたので。 肺炎は除外して考えることにします。

次に心エコー図検査を実施しました。

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犬の身体の左下からエコーのプローブを当てて撮影してみると。本来は薄く見えるはずの僧帽弁(赤の矢印の先)が妙に膨らんで見えます。 これは弁の粘液変性と言う病的な変化で、心臓弁膜症に特有の病変です。
この図でも僧帽弁の下に見える左心房が拡張している感がありますが。

次に大動脈と左心房の大きさの比率を測定してみます。

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点々の線が2本見えますが。 上の短い破線の部分が大動脈の断面で。 下の長い破線も部分が左心房です。
この二つの大きさの比率は、正常な犬では1対1もしくは1対1.5くらいなのですが。 この子は1対1.8という状態で。 左心房が大きくなっているということが判りました。

次に、心臓の収縮率を測定してみます。

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心臓の輪切りの画像ですが。 左が拡張した時。 右が収縮した時の画像です。
これを計測してみると、下の表のFSというのが心収縮率ですが。 31.3%というのは心臓の収縮率としては問題ない数字です。
これで、心臓の筋肉には問題は無いと判断しました。

最後に、胸壁の左下からプローブを当てて、心臓の4腔断面を書いてみます。

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4つ見える黒い空間が、左心房左心室(右側に見えます。)と右心房右心室(左側にみえます)で。矢印の部分が僧帽弁で。 やはり先が膨れていて粘液変性を生じているのが判ります。

ここで、カラードップラーを当ててみます。

カラードップラーとは、物理のドップラー効果(どんな現象かは検索して調べてみて下さい)を応用した撮影方法です。

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台形の下の色が付いている部分で、赤や黄色や緑の色がモザイク状に混ざって見えるところでは血流が乱れて渦状になっているということでして。 青一色との境界が僧帽弁ですから。 心室が収縮した時に弁が閉じ切れなくて、血液が逆流していることを現わしているのです。
この逆流は、あってはならない現象であります。

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右心房と右心室を隔てている三尖弁にもドップラーを当ててみましましたが。 逆流はあるものの、ごくわずかです。

以上で検査は総て終了です。 心電図は聴診で不整脈とかは無かったので、今回は省略しました。

以上の結果を総合的に判断すると。 近医さんの診断は当たっていたあものの、重症度の判定に関しては今ひとつだったようです。

この症例に対して私が行なった処方は、 近医さんで処方されたACE阻害剤は継続して使用すること。 心筋の収縮力増大と全身の血圧を低下させるという一見相反する作用のあるお薬に、肺胞に溜まった水を抜く利尿剤、 更に一応細菌の2次感染を防ぐ抗生物質を組み合わせるということでした。

これを2日間試してみて。 症状改善があるかどうか?2日後に判定します。

2日後に来院したポメちゃんは、呼吸状態非常に良くなってまして。 飼い主様もびっくりされてました。

一応肺水腫の状態がどうなっているのか?胸部エックス線検査は実施しました。

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黒い矢印の先の後葉の白さはかなり黒っぽく変化してまして。 水が抜けていることが判ります。
オレンジの矢印の先の左心房の拡張も幾分改善していると見て取れます。

緊急状態は一応脱したと判断しましたので。 利尿剤の投与回数を1日2回から1回に減らして。 次の1週間分を処方しました。

来週調子が良ければ、利尿剤と抗生物質はいったん休薬して。 ACE阻害剤と、心筋収縮アップと全身血圧低下を狙ったお薬の2種類は当分継続するという形で治療を続けて行く予定です。

今後、治療を続けて行く間に、病気はそれなりに進行はして行きますが。 治療をするのとしないのとでは、進行速度には大きな差があると思います。

飼い主様には、100数十万円以上はかかるけれども。 弁の再建手術を行なえば根本治療となるので。 希望されるならば手術の出来る動物病院を紹介させてもらうとお伝えしましたが。 年齢から考えてもコスパには相当無理があることもあって。 手術の道は選択されませんでしたので。
これからは、 私が内科的にこの子の心臓弁膜症を管理して行くことになると思います。

心臓弁膜症の内科的療法は、その犬が老衰とかの他の原因で亡くなった時に、結果として心臓で苦しまなかったということが、 治療の成功ということになると考えています。 これから永いお付き合いになることと思いますが。 頑張って治療して行くつもりであります。

幸せに長生き出来ますように祈っています。

ではまた。