アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患のひとつと考えて良い皮膚疾患です。
皮膚に痒みなどの症状を起こすアレルギー性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎以外にIgEという抗体が関与する食物アレルギー(1型アレルギー)と、リンパ球が直接反応する以前は食物有害反応と呼んでいたⅣ型アレルギーとがあります。
アトピー性皮膚炎の診断は、簡単なようで難しいところがありまして。食物アレルギーも含めて、細菌性皮膚炎、真菌性皮膚炎、寄生虫性皮膚炎(疥癬、毛包虫症、蚤アレルギー)などの他の病気を正確に除外して初めてアトピー性皮膚炎と呼ぶことが出来るのですが。
他院の例ですが。診療の最初にアレルギーもあったと思うのですが。2次的な細菌感染と真菌感染に対する対応が甘くて、細菌が耐性を獲得して全然利かなくなっている抗生物質とステロイドを何年もの間漫然と投与し続けている症例が転院して来る例が結構多くあります。
私の場合。アレルギーかどうか怪しいと思われるわんこが来院した時には。その子に他院での治療歴が無い場合にはなるべく早くに。他院での治療歴があって、しかもステロイドホルモンの内服薬を処方されている子の場合には、ステロイドホルモンを休薬して症状が強く出るようになった時点、あるいは4週間から最長で6週間経過してステロイドの影響が消失したと思えるようになった時点で。動物アレルギー検査株式会社のやっているアレルギー強度試験を実施して。その子の皮膚症状がアレルギーで生じているかどうかの鑑別を行なうことを心掛けています。
動物アレルギー検査株式会社のアレルギー検査には、最初に行なうアレルギー強度試験以外に、アレルゲン特異的IgE検査とリンパ球反応試験がありまして。
アレルゲン特異的IgE検査は1型アレルギーを調べて。リンパ球反応試験は、食物に対するⅣ型アレルギーを調べる試験ですが。リンパ球反応試験は普通に犬の食事に含まれている成分を調べる、「主要食物アレルゲン試験」とドッグフードメーカーがアレルギー対応食として販売しているフードに含まれている成分を調べる「除去食アレルゲン試験」とがあります。
いろいろ調べて行くと、アレルゲン除去食と銘打って販売している食事を食べ続けていたわんこが、その食事に含まれていたジャガイモとか米に対して非常に強い反応を示す症例も何例かありました。
そんなこんなでアレルギー性皮膚炎を治療しながら診断して行く感じで診て行って。
いろいろ除外診断をした結果、その子がアトピー性皮膚炎であると診断がついた際に。選択出来る治療法としては。
従来は、1、副腎皮質ステロイドホルモンのお薬。2、抗ヒスタミン剤。3、シクロスポリンという免疫抑制剤。4インターフェロン(免疫のバランス調整の注射)という方法を、それぞれ単独あるいは組み合わせで使用していたのですが。
昨年から減感作療法という方法が、比較的簡単に使えるようになりました。
減感作療法は、今まででも米国の会社が検査と注射薬を提供してくれる体制はあったのですが。費用が半端でないことと、副作用が心配なこと。それに最初の間の注射の頻度がほぼ毎日であって、飼い主様がついて来れない治療法だったので、私は従来型減感作療法は最初から勘定に入れていませんでした。
昨年から利用出来る新しい減感作療法は、最初に除外診断でアトピー性皮膚炎と診断出来れば。
メーカーが提供する血清IgE抗体検査を実施して、その注射薬が利くのかどうかという確認を行なって。
注射は、週に1回の頻度で6回だけという非常に簡単なものであります。
今まで当院で、この減感作療法を実施したのは、まだ3頭だけですが。その3頭は今まで出し続けていたステロイドホルモンを休薬することが出来ています。また心配される副作用も、注射薬調整の際に生じ難く加工されていることもあってか?今のところこの3頭では全く生じませんでした。
ただ、従来型減感作療法を見聞きして来た者としてどうかな?と思う点は。従来型が最終的には月に1回なりともずうっと注射を続けなければならないのに対して。新しい治療法は6回こっきりで注射を終了してしまいますので。アトピー性皮膚炎の再発が本当に無いのか?ということくらいです。
再発が生じないとすれば、アトピー性皮膚炎が根治出来るということですから、本当に素晴らしい画期的なことだと思います。
今年も夏になって、アトピー性皮膚炎が悪化する季節がやって来ました。1頭でも多くのわんこがこの素晴らしい治療法の恩恵を受けて、痒みの無い幸せな生活を送れるようになれたらよいと思います。