今回の症例は、未去勢牡犬に多く発生する会陰ヘルニアに鼠径ヘルニアが併発したという、ちょっと珍しい例でした。
ワンちゃんは、10才ちょっとの雑種の男の子です。
5月にフィラリア予防と狂犬病予防注射で来院した時には全く異常を感じませんでしたし。飼い主様もこの夏までは異常無しだったということです。
会陰ヘルニアとは、肛門の横の辺りの筋肉が萎縮したりして、その筋肉の隙間から腸とか膀胱とかお腹の脂肪とかが脱出して来る、いわゆる脱腸という病気です。
ほとんどの子が排便困難の状態になり、苦しそうです。膀胱が脱出するとおしっこの出が悪くなったりします。
鼠径ヘルニアは、股の付け根内側から腸管や腹腔内脂肪などが出て来るもので、これも出て来た腸管が絞り上げられたような状態になると、腸が腐って腹膜炎になったりして危険な場合があります。
どちらも手術適応という事になりますが。私の経験ではこの二つのヘルニアが併発するのは初めてです。
飼い主様も病気の状態を説明して手術適応だということが理解されると、手術に同意して下さいましたので。
全血球計数、血液生化学検査、血液凝固系検査、胸部エックス線検査、心電図検査などの術前検査をひと通り済ませてから手術に臨みました。
毛刈りのために仰向けにした状態の画像です。上の矢印は鼠径ヘルニアの部分を示しています。
下の矢印は、会陰ヘルニアで膨れた部分です。
会陰ヘルニアの手術の前の画像です。術野の毛刈りをして、肛門を巾着縫合というやり方で閉じた時点の画像です。
肛門の右側から脱出した腹腔内脂肪と漿液が肛門の下側に溜まって異常に膨れています。
術中のしんどいところは省略して、会陰ヘルニア整復終了時点の画像です。
これから体位を仰向けに変更して、去勢手術と鼠径ヘルニア整復にかかります。
鼠径ヘルニア整復と去勢手術が終了した時点の画像です。会陰ヘルニアの手術に当たっては、去勢手術を同時に実施した方が、しなかった場合よりも有意に再発率が低くなるという統計が確立されています。
術後の経過は順調で、手術の翌日から排便困難も改善して、傷の治りも順調で。
年末年始にかかりましたので、術後約2週間、年明けの1月4日に無事に抜糸することが出来ました。
無事に治療が完了出来て良かったです。
牡犬の場合にも、繁殖予定が無い場合には去勢手術を早めに行なうことによりこのような性ホルモン関連の病気が減って、健康で長生きするという事は獣医学的に確立された事実であります。
繁殖予定の無い牡犬を飼育されている方は、去勢手術を考慮されることをお勧めします。
ではまた。