今年16才になる柴犬のこう太君、初診は2019年4月12日ですが。昨年秋口より皮膚がひどく痒くなって、11月から近医で抗生物質と痒みを抑える分子標的薬の併用で治療しても、思うように治療効果が上がらず、来院1週間前から抗アレルギー薬をステロイドホルモンに変更しているということでした。
とにかく痒くて痒くて夜も眠れず可哀相なくらいだということです。
初診時の皮膚の状態を撮影してありますので。掲載しておきます。
それまで治療していた獣医師は、特にこれといった検査とかはやっていないみたいなので。当院では最初に、皮膚搔き取り試験と皮膚糸状菌培養試験、皮膚の細菌培養と薬剤感受性試験を実施しました。
皮膚搔き取り試験は陰性でしたが、この試験では毛穴に棲む毛包虫はともかく、皮膚にトンネルを造って水平移動する疥癬虫は検出出来ないこともありますから、疥癬虫も毛包虫も一気に駆除可能で安全性も高い内服タイプのダニ駆除薬を与えてもらいます。
しばらくの間毎週通院してもらいながら、経過を見て行きますが。なかなかに苦戦です。皮膚の細菌には感受性試験で利くはずの抗生物質を投与していますし、皮膚糸状菌の検査も陽性なので、こう太君が家で使用しているケージや敷物、生活環境のカビの駆除を徹底するように指導させていただきながら、経口抗真菌薬も投与しますが。感染に対する治療も完璧なのに、治療効果は今ひとつです。
そうなるとアレルギー性皮膚炎の可能性も高いように感じますが。アレルギーのうちアトピー性皮膚炎は、その多くが生後6ヶ月令から3歳令までの間に発症します。15才や16才という高年齢での発症は無くもないでしょうが。いきなりそうと決めつけるのもどうかと思います。
であるならば、食事性アレルギーはどうか?という話しになります。
食事内容について聴き取りを試みます。昨年春に膵炎を発症して、低脂肪の処方食を6月から与え始めて、皮膚の痒みは9月からの発症だということです。
食事は加水分解蛋白質で、それも分解の程度が相当細かいところまで分解している食事に切り替えてもらうことにしました。
同時に、スプレー式のステロイドホルモンで、局所で作用したらそこで分解して、全身に副作用を生じにくい外用剤も1日1回使ってもらいます。
食事変更すると、翌週から痒みの改善がはっきり出て来ました。
ただ、皮膚糸状菌感染が頑固で、新たな病変が発現したりするので、抗真菌剤入りシャンプーや抗真菌剤クリームなどを併用しながら内服を続けます。
アトピー性皮膚炎は一応考えないというスタンスでやっていましたが、食事の変更で減ったとはいえ、どうしても痒みのコントロールが難しいので、最終的に経口ステロイドホルモンと分子標的薬の抗掻痒薬の併用を、試みました。
そんなこんなでやっていると、治療開始から3ヶ月くらい経過した頃にはかなり改善してきまして。
下の画像は治療開始後約6ヶ月の皮膚の状態ですが。素晴らしく良い状態に回復しました。
なお、食事については、加水分解蛋白食では異常に糞便が硬くなって生活の質が良くないと思われるくらいまでになって来たので。こう太君がそれまで食べたことの無い新規蛋白食に変更しました。具体的にはカンガルーとオーツ麦を主原料とする食事です
現在は皮膚に関しては、皮膚糸状菌の治療も終了して、食事と抗アレルギー薬の内服だけになっています。
なお、年齢によるものでしょうが、認知機能の低下による旋回運動が当初から見られたので、脳内のセロトニン濃度を保つお薬の内服で対応して、それもかなり改善しております。
最後に初診時と治療6ヶ月の皮膚被毛の状態の比較画像を再度掲載しておきます。
こう太君気分良く生活出来るようになって良かったです。
ではまた。