犬の心臓糸状虫症(犬フィラリア症)は、今なお重大な疾患でして。
予防獣医学に無知、あるいは犬にとことんお金を使わない主義の飼い主様に飼育されている犬には高率に寄生する大変な寄生虫です。
しかし、その犬フィラリア症も、最近は、内服薬、滴下剤、注射、等々、いろいろな予防法が開発されまして。犬の飼い主様がその気になりさえすれば、ほぼ完璧に予防することが可能な病気でもあります。
表題の犬フィラリア予防注射という予防法ですが、今までオーストラリアで何年も使い続けられて来ていて、その有効性安全性は十分に確認されて来ている予防法です。
実は、同じような製品で、有効期間6ヶ月というフィラリア予防注射が、何年か前に国内で認可が下りて使用可能になったことがありました。この製剤は米国で使われ続けていたお薬でした。
私も、予防の有効期間が6ヶ月と、変に短くて、予防期間8ヶ月が標準の当地方には使い難いなあと思いながら、6ヶ月のお薬の動向に注目していたのですが。
何と、その予防注射は、発売と共に何例も重大な副作用が発生して、重篤な結果の子も結構出て来たらしく、私は怖ろしくなって、同じ時期にオーストラリア製の12ヶ月有効の今回と同じ注射薬を個人輸入して持っていたのですが。自分所有の犬数頭に使って以降は、使用する気にもなれませんでした。
今回輸入して、農林水産省に認可の申請をした製薬会社の担当者さんに、この12ヶ月有効のフィラリア予防注射の副作用発生状況を尋ねたところ。
普通に使用している混合ワクチンの副作用発生件数と比べて、若干発生件数が少ないくらいであることと。
副作用の程度は、ほとんどが注射部位の痛みくらいで、重篤なアレルギー反応はほとんど見られないということです。
とは言え、新しいお薬を導入するについては、それなりに不安も感じますので。
とりあえず、最もサイズの小さな包装を購入しまして。自己所有の犬たちに注射を行なってみました。
お薬の箱を開けると、瓶(バイアル)が2本入ってまして。片方は薬を封入しているマイクロカプセルが顆粒状になって入っており。もう片方にはマイクロカプセルを懸濁させる粘性のある溶解剤が入っております。
マイクロカプセルの入ったバイアルを底から覗いて見るとこんな感じです。
で、溶解剤を注射器で吸って、マイクロカプセルのバイアルに注入して、溶解します。
溶解剤で溶かし終えると、こんな感じになります。
で、それを犬の体重1キログラム当たり0.05ミリリットル注射器で吸って。犬の頸部皮膚に皮下注射するわけです。
皮下注射の光景は、こんな感じです。
ついでですので。もう1頭皮下注射のシーンを掲載します。
注射を実施した感じは。普通に混合ワクチンとか狂犬病予防ワクチンの接種と時と変わりなく。犬が異常に痛がるとかということもありませんでしたし、注射部位が腫れたり、顔がむくんだり、元気が無くなったりというような、アレルギー症状も生じていません。
皮下注射されたマイクロカプセルは、皮下に止まって、そこで少しずつ少しずつ壊れて行きますから。お薬が緩徐にカプセル外に放出して行くことにより12ヶ月間体内でのお薬の濃度を一定にキープしてくれるわけです。
日常診療の際にこの予防注射を実施した子には、当院の様式でフィラリア予防注射接種証明書を発行する予定にしております。
この予防注射の出現により、犬のフィラリア予防は大きく変化するかも知れません。何せ、12ヶ月間有効なのですから、体重が大きく変動しない成犬であれば、冬であれ秋であれ、来院のあった時に注射1本で簡単にフィラリア予防が可能になるのです。
これから料金設定をした上で、実際に臨床の現場で使用して行くことになると思いますが。料金は、それなりの仕入れ価格ですから、頑張って今までの内服薬とそう変わらないように、出来れば少し安めの価格に設定して行きたいと考えています。
使用開始の時期ですが。お薬はもう在庫しているのですが。一旦溶解剤でマイクロカプセルを溶解すると、2ヶ月以内で使い切らないといけないと、指示書に記載がありますので。いつ来るか判らない予防の子のために事前に溶解して置くことは、シーズンオフに突入するこれからは、ちょっと冒険かも知れません。