今回の症例は、9才になるヨークシャーテリアの男の子です。
この子は、腹腔内停留精巣を持っていたのを3才の時に摘出。4才半の時に肥満細胞腫を摘出し(しばらく抗がん剤で治療して、現在は再発無く完治と判断しています)。8才の頃に膵炎に罹り。その後膀胱結石を患って摘出手術を受け。その後結石の再発を防ぐ内科的療法を継続しているようなことで、いろいろ大変なことが続いたのですが。
今回は、散歩中に突然右後肢を地面に着かなくなったということで来院されました。
診察台の上で右後肢を拳上して立っているヨーキーちゃんを見て。前十字靭帯がいっているな?と直感します。
直感ばかりでやっていると誤診してしまいますので。きちんとエックス線検査をやって、診断を確定させます。
骨盤から股関節、大腿骨、膝関節、脛骨腓骨、踵の関節、足の甲の骨までひと通り眺めるように撮影しますが。特に異常は見られません。
であるならば。
膝の関節を横から撮影します。
自然な状態での横からの膝が。
すねの骨を前に押すようにストレスをかけて撮影すると。すねの骨が普通では有り得ないくらい前に出て映ります。
この時に、指の骨が映るのは、撮影する人間のX線被爆の観点から本当はNGなのですが。まあ、自分の手ですし。滅多に無い一枚だけですから。大丈夫でしょう。ただし、大学の先生には内緒です。
この最後の画像で前十字靭帯断裂の診断は確定です。
前十字靭帯は、人間だったら有名なスケーターとかスポーツ選手が事故で断裂することが多い組織で。すねの骨が前に出過ぎないように固定して、膝を安定させる役目を果たしています。
これが切れると、膝が不安定になって歩くことが難しくなり。そのままにしていると、半月板という軟骨組織が壊れてしまい。膝の痛みが激しくなります。
そんなわけで。ヨーキーちゃんは手術適応ということになってしまいました。
前十字靭帯断裂の修復手術には、いろいろな方法が報告されていますが。最近の私のマイブームは、関節外法というやり方です。
サージャンという獣医外科の専門誌から引用した関節外法の写真です。こんなイメージで修復するということです。
そんなわけで。損傷して5日後に手術を実施しました。
麻酔導入して。
術野の毛刈り剃毛をきちんとやって。その後に滅菌ドレープで術野を覆い。術者と助手は手洗い消毒、滅菌した術衣手袋の装着をやって。手術に臨みます。
途中省略して。
手術は終了しました。
入院室で回復させて。翌日からの化膿止め内服薬と、非ステロイド性消炎鎮痛内服薬を処方して、その日のうちに退院させます。
術後の経過確認は、翌日、7日後、14日後と行ないます。抜糸は14日後に行ない。その後は非ステロイド性消炎鎮痛剤を内服させながら。ボチボチコントロールされた歩行を実施して回復に努めます。
今のところ、この手術をやった子は、小型犬の場合割と回復が早いです。体重20キロを超えるような子は、術後半年くらいは歩行に違和感が残るようですが。それも半年以降は消失して快調に歩けているようです。
今日の手術も一応無事に終わりました。これも優秀なスタッフさんの協力の賜物です。感謝感謝であります。
ではまた。