犬の健康管理 子犬の病気予防
犬の健康管理一般を、一部には子犬を繁殖する場合や子犬を入手した場合も含めてまとめてみました。記憶に残りやすいように画像も掲載したいのですが。整理が悪くて思うに任せません。おいおい追記していきます。
混合ワクチン
犬の感染症予防ワクチンは、通常は何種類かのワクチンをブレンドした混合ワクチンとして注射で行います。最近はケンネルコフ(犬舎風邪)対策に点鼻ワクチンも存在しますが。まだ一般的ではありません。
混合ワクチンには、3種、5種、7種、8種と様々なバリエーションがありますが。
犬にとって感染すると致死的な結果になる重要な疾病でワクチンが必要な物は。ジステンパー、パルボウィルス感染症、犬伝染性肝炎、にレプトスピラ感染症です。
一般的に使用されているワクチンには、飼い馴らして病気を起こさなくした生きたウィルスを注射する生ワクチンと、病原体をホルマリンで殺してその死体を注射する不活化ワクチンとがあります。
感染症のワクチンは、子犬が初乳で母親からもらっている移行免疫が多く残っていると効力が発揮できないとされていて。移行免疫が消失し始める生後2ヶ月令から接種することが奨励されていましたが。
最近ではワクチンの性能が飛躍的に改善されて、生後28日で接種しても移行免疫を乗り越えて効果を発揮するワクチンが使われるようになっています。
従って、私が推奨している子犬の健康管理プログラムは、生後3週間で検便と虫下し、4週間(28日令)で最初のワクチン(この時はレプトスピラを含まない5種混合ワクチン)と駄目押しの検便と虫下しを実施して。
2回目のワクチンはそれから3週間経過した生後7週令(49日令)で7種か8種混合ワクチンを接種して。
子犬を譲渡する際にはそれから1週間経過して8週令で引き渡します。
ワクチンが効力を発揮するためには、子犬の側の免疫機能が正常に働いていることが重要ですが、幼い子犬を母親から離したり、全く新しい環境に移動させたりすると、子犬は強いストレスに曝されるわけで、その際に子犬の副腎から大量の副腎皮質ホルモンが分泌されます。副腎皮質ホルモンは免疫反応を阻害する働きを持っていますので。ワクチンの効果も阻害される可能性があります。
3回目のワクチンは、新しい飼い主の元に行って2週間経過した時(この時点で2回目から3週間経過しています)に実施しますが。この時にお勧めしているのがワクチン抗体価検査です。これは1mlくらい採血して、血漿を分離し、検査センターに送ってジステンパー、パルボ、伝染性肝炎に対する抗体価を測定するというものです。同時にレプトスピラのワクチンは2回目を接種します。
レプトスピラワクチンを他のワクチンよりも遅くに接種するのは、古い知識ですが、生後2ヶ月令以前にレプトスピラワクチンを接種すると副作用が出やすいという記事を読んだ事があるからです。
ワクチン抗体価検査の結果は、検査センターに依頼して約1週間で返って来ますので。その結果によって外へのお散歩デビューが出来るかどうか判定されます。犬ジステンパー、犬パルボウィルス、犬伝染性肝炎のいずれかの抗体価が十分に上がっていない場合には、5種混合ワクチンを追加接種して、さらに3週間後に再度抗体価検査を実施することをお勧めします。
抗体価が十分に上昇している子犬は、外にお散歩デビュー可能になる他、前回のワクチン接種から1ヶ月経過した時点で狂犬病予防注射と畜犬登録を実施します。
狂犬病予防注射
狂犬病とは、ラブドウィルスというウィルスによる全哺乳類が感染する致死的な病気で。日本、ニュージーランド、オーストラリア、北欧の数ヶ国以外のほぼ全世界で蔓延している脳神経を破壊する病気です。発症すると治療法が無くてほぼ全症例死亡します。特にアジアアフリカの発展途上国では人間の被害が深刻な問題になっています。我が国では昭和29年に狂犬病予防法が施行されて、現在は猟犬を含めて全ての飼い犬には狂犬病予防法に基づく畜犬登録と毎年1回の狂犬病予防注射が義務付けられていて、厳しい罰則もあります。
子犬の混合ワクチンと狂犬病予防ワクチンについては以上ですが。2年目以降の成犬は前回のワクチンから1年経過した時点で混合ワクチンを、春の4月から6月までの間にその年度の狂犬病予防注射を続けて行く必要があります。
犬フィラリア予防
犬フィラリア症とは、ディロフィラリア・イミティスという学名の素麺のような寄生虫が、蚊によって媒介されてイヌ科の動物や猫の心臓に寄生することによって生じる循環器疾患です。予防法の無かった昭和の半ばまでは、この病気のために屋外飼育の犬は5才とか6才で苦しそうな咳をしたり腹水が溜まったりして数ヶ月から1年くらいで死ぬことが普通でした。また急性症状が出た時には激しい咳と呼吸困難、赤黒い尿を排泄して1週間から10日くらいでやはり死んでしまいました。
犬のフィラリアが心臓に寄生しているイメージのオブジェです。
急性フィラリア症になってしまった犬の頸静脈からフィラリア虫を釣り出しているところです。
フィラリア釣り出し術で取り出したフィラリア成虫のホルマリン漬け標本です。
現在は内服薬、注射薬、皮膚に滴下する滴下剤などの様々な予防薬が使用されるようになって、犬フィラリア症はほとんど見られることは無くなりましたが。それでも知識不足の飼い主に飼われた犬には寄生が発見されることがあります。
当院で処方しているフィラリア予防薬です。向かって左からノミマダニ駆除薬とフィラリア予防薬合剤のネクスガードスペクトラ。真ん中が食べさせるタイプのイベルメックチュアブル。右がミルベマイシン錠です。
犬フィラリア予防で重要な事は、予防薬を与える期間です。1年に1回の注射以外のほとんどのフィラリア予防薬は、1ヶ月前に蚊に刺されて体内に入ったフォラリア虫の幼虫が成虫にならないようにまとめて虫下しをかける感覚で使用されるものでして。蚊の吸血が始まってから1ヶ月後から月に1回与え始めて、最後の蚊の吸血から1ヶ月後まで与え続けることが必要です。
従って、関東から以西の本州では5月末から投薬を始めて、最終が12月末に最後の投薬をする事になります。沖縄辺りでは年中投薬しなければならないでしょうし。
最近は温暖化で投与期間は地方によっていろいろ変化している可能性がありますので。具体的にはそれぞれのかかりつけ獣医師の指示に従ってください。
ノミマダニ予防
ノミは気温が高くなる夏場に、野良猫が住んでいる地域であれば、路上で繁殖するようになりますから、犬を散歩させると成虫が飛びついて来て寄生します。いったん寄生されると、犬の皮膚から吸血したノミはすぐに産卵を始めて、生まれた卵は犬が生活している犬舎で犬の皮膚から落ちるフケなどの有機物を食べて成長しますので、犬舎全体がノミの巣になってしまいます。
製薬会社作成のノミの成長サイクルをイメージしたオブジェです。
ノミに寄生されると、ノミアレルギー皮膚炎になってひどく痒いだけでなく、ノミを介する瓜実条虫というサナダムシの一種が腸管に寄生して栄養を横取りしますので、犬が痩せて来たり下痢をするようになってコンディションが悪くなります。
マダニは山野に生息していて、犬だけでなく人間にも食い付いて来て吸血する害虫で、初夏から秋口までが活動活発ですが。真冬でも少し日当たりが良い藪では寄生して来ます。
マダニの一種のフタトゲチマダニの模型です。
生きたマダニはこんな感じです。
マダニの害は、吸血部位が腫れてひどい痒みが数ヶ月続くだけでなく。マダニ媒介性のバベシア症という貧血を起こす寄生虫疾患やウィルス性の重症熱性血小板減少症などの致死性の感染症の原因となります。
最近ではノミやマダニの駆除薬は便利で有効な製品が開発されています。剤形も皮膚に垂らす滴下剤もあれば内服薬もあります。
マダニ駆除薬です。左が滴下剤のフィプロスポットプラスでフロントラインのジェネリック。真ん中がフィラリア予防薬との合剤のネクスガードスペクトラ。右が食べさせるタイプのブラベクト錠です。
ここ数年前から発売されているノミマダニ駆除内服薬は、安全性有効性高い薬がそろっていますが。
私が知る限りでは、繁殖犬に対する安全性試験までやっている駆除薬は、内服後3ヶ月間有効なブラベクトという製品だけであって。それ以外の駆除薬は内服剤も滴下剤も繁殖に使用する犬には与えないようにという但し書きが添付されています。
消化管寄生虫対策
消化管内寄生虫とは、いわゆるお腹の虫のことですが、子犬で頻繁に見つかるのは犬回虫とコクシジウムです。それ以外には犬鉤虫、犬鞭虫、マンソン裂頭条虫、広節裂頭条虫など多くの寄生虫が犬のお腹を狙っているわけです。
子犬では母犬から胎盤を通じて出産前に回虫が感染している可能性があります。離乳食を始める時やワクチン接種の時にこまめに検便を実施して虫が見つかれば駆虫する必要があります。
成犬の場合、少なくとも年に1回は、例えばワクチン接種や狂犬病予防注射の機会に動物病院に便を持参して検便を行なう必要があります。検便の方法にも浮遊集虫法、遠心沈殿法、直接塗抹法などのいろいろな方法があって、それぞれに発見可能な寄生虫の種類が違います。
猟犬の場合には、水辺の生き物を食べることによって感染するマンソン裂頭条虫や広節裂頭条虫の寄生が重要です。 裂頭条虫類の虫卵は直接塗抹法か遠心沈殿法でないと見つけることは出来ませんので、少なくとも直接塗抹法と浮遊法の2種類の方法で検便してくれるかどうかを確認して検便してもらった方が良いと思います。
なお、寄生虫にはそれぞれ専用の駆虫剤を使用しないと駆除が出来ません。犬の虫下しとして薬局などで市販している薬は、犬回虫くらいしか駆虫出来ませんので注意して下さい。
~犬のマイクロチップ~
マイクロチップとは小さな電子機器で、犬の皮下に専用の注射器で装着します。この機器自体は電波を発信するものではないですが、読み取り機を近づけてスイッチを入れると、読み取り機の問いかけに反応して読み取り機に機器固有の番号が表示されます。
マイクロチップのサンプルです。サンプルは樹脂に封入されています。
読み取り機です。
犬の首の皮下に入っているチップを読み取っているところです。
番号は読み取り機のウィンドウに表示されます。
マイクロチップ挿入後この番号を日本獣医師会の情報センターに登録しておくことにより、様々な理由で保護された動物がマイクロチップを装着されていた場合にチップの読み取りですぐに飼い主が判明しますので、保護犬が飼い主のもとに戻る可能性が高くなるのです。
日本獣医師会のマイクロチップはISO(国際標準規格)で定められている製品を使用していて、海外との動物のやり取りの際に行われる検疫でも挿入が必須となっています。
マイクロチップの読み取り機は、兵庫県では数年前から獣医師会に入っている全動物病院のほか、各地の動物愛護センターにも備わっています。全国でも各動物病院や動物愛護センターに急速に普及しつつあって、動物愛護の遂行のツールとして非常に有効なものとなっています。
令和元年6月の動物愛護管理法の改正で、犬猫の販売業者は販売する犬猫にマイクロチップの装着が義務化されました(※マイクロチップ装着義務化は令和4年6月1日施行。販売業者以外の所有者は努力義務が課される)ので、現在すでに私の動物病院に新規で受診する子犬子猫にはほとんど全頭マイクロチップが入っているような状態です。また、動物愛護管理法では、チップ装着義務化の施行と同時に、登録されたマイクロチップが狂犬病予防法に基づく鑑札とみなされることになります。
猟犬については、マイクロチップの装着を実施するよう猟友会からの文書で周知されているところですが、マイクロチップを装着しておくことにより、以前に聞いたことのある猟犬の盗難や逸走の場合に、発見された犬の飼い主がマイクロチップの読み取りで判明しますので、猟犬盗難の抑止にもつながるものとなると思います。
第一種動物取扱業に登録している繁殖者から購入した猟犬の子犬には当然にマイクロチップが装着されるようになると思いますが、既に何年も飼育されている成犬であっても未装着の場合、猟犬は大切な狩猟のパートナーですから、マイクロチップを装着して守ってやるべきだと思います。
マイクロチップ装着の費用は、私の動物病院では税込5,500円です。この価格は個々の動物病院で異なる可能性はあります。それ以外に日本獣医師会情報センターへの登録費用が1,050円ほどかかり、情報登録費用は郵便局かコンビニで支払うことになります。