犬の乳腺にしこりが観察された場合、その5割の確率で悪性腫瘍、さらにその半分が転移性(悪性度が高い)、というのが犬の乳腺の腫瘤に関する教科書の記載である。
この場合の検査診断の手順として、細い針で腫瘤を突いて吸引して細胞を取って検査してみるということもやる時があるが、これが絶対確実に結果が出るかというと、そうでもなくて、悪性腫瘍を見落とすことが多々あるようである。
針吸引よりもさらに確実な検査として、ツルーカット生検針という腫瘤の小さなブロックを切り取る方法がある。
ツルーカット生検ではかなり診断の精度は上がると思うが、それでも完璧かというとそうでもないようだ。
結局一番正確な診断は、麻酔下で切除して腫瘤全体を病理検査に出すのがベストである。その場合に、小さく切って腫瘤をスポット的に取り出す方法と、数個の乳腺あるいは片側全体の乳腺を全部切除する方法がある。
なお、腫瘤が左右の乳腺に存在する場合には、左右の乳腺の連絡は、血行性にもリンパ行性にもないとされているので、それは別々のものである可能性も高い。 従って左右の乳腺に別々に出来た腫瘤は全く別々に考えなければならない。
犬の年齢によって、高齢の場合にはなるべく最初から大きく切除して、後の憂いを取り除くのがベストであるが、飼い主 さんによってはいきなりその方法は非常に乱暴に感じられる場合も多いようだ。その場合には、話し合った上で、まず腫瘤全体を小さく切除して病理検査に出 し、悪性所見が得られたら片側の乳腺全体を切除するという2段構えの方法を取ることもある。
針吸引、ツルーカット生検、部分切除、乳腺全体の切除と、段階的に診断の精度は上がって行く。 同時にかかる費用も 段階的に多くなるし、動物に対する侵襲度(ダメージ)も大きくなって行く。 しかし、他の動物病院で中途半端な対応をして、結果、腫瘍が再発転移し、動物 が命を落とす事例も多く見ているので、後々繁殖の予定があるかどうかでそれはまたいろいろ考えなければならないのであるが、なるべくしっかりとした対応を やった方が良いと考えている。
しかし、悪性腫瘍の場合でも、腫瘍がひどく炎症性の場合には乳腺の全切除を行なっても結果が悪いとも、これは教科書の記載であるが、言われているので、実際に患者さんをこの目で診察しなくては一般論しか言うことは出来ない。
なお、猫の乳腺に出来たしこりについては、その8割が悪性であり、悪性度も非常に高いというのが定説である。 従って猫の乳腺にしこりが発見された場合には、問答無用でなるべく広い範囲で乳腺全体を摘出する必要がある。
そして、猫の乳腺腫瘍の予後(将来の予測)はそのサイズが直径2センチであったか3センチであったか、摘出手術を行なった時点での大きさで命運が別れる。
であるから、猫の場合には、出来るだけ早期に外科的対応を試みる必要があるのだ。
また、乳腺のしこりを摘出して病理に出した結果が悪性で転移の起こりうるものであった場合、転移再発を防ぐ方法とし て化学療法を考慮するのであるが、その場合最初に使用する薬剤としては、高価ではあるが比較的副作用が少ないカルボプラチンという薬剤を使用することが多 い。
カルボプラチンは5%グルコースに溶解して静脈点滴するのであるが、これを4週間間隔で3回から4回繰り返して、しばらく様子を見るのである。
で、転移再発が生じなければ良し、万一転移再発が生じた場合には、アドリアマイシンというかなり強力な薬を、これも静脈から注射してやる。 アドリアマイシンは非常に良く効く薬であるが、心臓毒性があり使用出来る回数が限られるので、奥の手として取っておくのである。